Side B(2)
1995年7月6日(木)21:23
「うぅ」
ジャンケンに負けた僕は、2階にある自販機に向かっていた。自販機の横に休憩用のソファーがある。そこで、タキがサヤを口説いているという話だった。
エラい修羅場に遭遇しても困る。階段の途中で、警戒して階下を覗いてみる。
「あれ、誰もいないじゃん」
ソファーは空っぽ。ホッとしたような残念なような、複雑な気持ちで階段を降りた。
1995年7月6日(木)21:25
ゴトン。
3本目の飲み物を買った時だった。ドアが閉まる音に気づいて振り返ると、廊下の奥を横切るヤマの猫背が見えた。
純粋なパソコン好きの彼は、トイレに立つ時くらいしかパソコンルームから出てこない。さして気にもせず缶の取り出しにかかる。
「うわわっ!?」
背後から悲鳴のような物が聞こえた。ドタドタとへっぴり腰で走るヤマが目の前で止まる。
「と、トイレで……タキが……血ぃ……!」
よく分からないが緊急事態らしい。
「屋上のセイ達呼んできて!」
抱えた缶ジュースをソファーに投げ出し、男子トイレに向かう。
トイレの前でサヤがオロオロしている。構わず男子トイレに飛び込む。
「タキ!」
床に座り込んだタキ。ユウが彼の後頭部にハンカチを当てている。洗面台の角に、血痕がほんの少し。
「ひっ!?」
後ろからついてきたサヤの声。顔を上げたユウと目が合うと、何故か一目散に逃げ出した。
「サヤ!」
ユウは僕にハンカチを預け、彼女の後を追う。ハンカチにも血はほとんどついていない。タキのケガは、大したことはなさそうだ。
「ヤマが青い顔で飛んでくるからビックリしたよ。えーっと、ちょっとたんこぶになってる」
「イテテ……アイツ洗面台の血を見て逃げてったんだ。どんだけ血に弱いんだか」
そう言ってタキが立ち上がった頃。
「タキ、大丈夫か!?」
血相を変えたセイとトモが、トイレに飛び込んできたのだった。