Side A(6)
講釈師、見てきたように嘘をつき——なんて言うけれども。
この結論はすべて僕の推測であり、確たる証拠は何もない。でも大きく間違ってはいないはずだ、多分。……きっと。そう信じたい。それに今必要なのは真実ではなく、これからの僕達の関係を修復する方法なのだ。あの夜、僕が推測した出来事があったとしたら……今、僕達の関係をギクシャクさせている要因は、一体何だろう。
一番罪深い行動を取っていたのは、サヤだと思う。ユウの気持ちを確かめるため、タキの気持ちを利用していたのだから。だけど、その分の罰はもう嫌というほど受けている気がする。これ以上彼女を責めるのは忍びない。
大元の原因は、ユウが恋人としてサヤの望む態度を見せなかったことにある。でも、それを第三者が責めるのは筋違いじゃないだろうか。大体、今も二人は恋人同士なわけで。僕達の関係がギクシャクする要因とは言えないだろう。
やっぱり、問題はタキにありそうだ。面倒な話はいつもはぐらかされてしまうけれど……明日はちゃんと、タキと話をしよう。
1995年7月14日(金) 8:30
「何でこんな朝っぱらから起こされなきゃならないんだ」
キャンパスまでのドライブ。ハンドルを握るタキは不機嫌だ。早朝に僕の奇襲を受けたのだから、当然と言えば当然だが。
「たまには早起きもいいでしょ」
助手席に座る僕を横目でにらんで、ため息をつく。
「で、何の話? 『サキに何したんだ!?』って聞けとでもユウに言われた?」
「そんなこと言われてないし、何したかは想像つくから聞かない」
「想像? ……そういやあん時降りてきてたな。盗み聞きかよ、シュミ悪」
ムカッとしたが、反論は止めた。本気で言っているのではなさそうだ。
「それより、あのハンカチ返した?」
話を聞いてくれる内にと、単刀直入に尋ねた。タキは途端に苦虫をかみつぶしたような顔になる。
「ああ、いや。そういうのは早く言えよ。家出る前ならチカに預けたのに」
「ダぁメ、ちゃんと自分で返して。それでハッキリ言えばいいじゃん。『サヤにはもう興味ない』って」
「な!?」
タキは僕の方を向きかけて、慌てて視線を正面に戻す。赤信号で停止すると、改めて僕に向き直った。
「おまえなぁ!」
「だって興味なくなったんでしょ。分かるよ、前と態度違うもん。どうして隠すの?」
あの出来事の後、サヤはタキを警戒して過剰に避けているのに、タキの方はすっかり彼女を追いかけなくなっていた。もう興味がないと言ってしまえば、今のギクシャクした関係も解消すると思うのだが。
タキが口を開きかけたところで、信号が青になる。ため息をついて車を発進させ——。
「何つーか……なびかないからあきらめたとか、カッコ悪すぎんだろ。男にはプライドってもんがあんの!」
と叫ぶ。
ああ、そうか。タキが見ていたのはサヤじゃなくて、ユウだったのだ。ユウに勝つために恋人を奪おうとして失敗して、つまりユウに負けたことを認めたくなくて、だから興味がなくなったとは言いたくないのだ。
「そんなプライドいらない。最初から脈なしだったから、引きずる方がカッコ悪い」
「……容赦ないな、おまえ」
呆れたように呟き、ククッと笑った。
「あ〜あ、どっかにもっとカワイイ子いないかなぁ! そうだ、チカがナンパしてきてよ」
「はぁ!? 何で僕が?」
「黙ってたら俺らの中で一番の美男子だろ。あ、でもしゃべったら声高いからバレるか」
タキは急に上機嫌で、しゃべらないとナンパできないしなぁ、とかわけの分からない冗談を続ける。何なんだ、一体。何のスイッチが入ったんだ?
「もう、意味分かんない」
ラジオに合わせて鼻歌を歌い出したタキを見やる。……まあ、いいか。こんなに明るい顔のタキを見たのは久しぶりだ。根拠はないけれど、これできっと事態は好転する。僕にはそんな確信があった。
私の学生時代を知っている人ならバレバレな感じの内容ですが、多分読んでないので大丈夫でしょう!
もし異論のある方は……昔の連絡先に連絡すれば、届くかも?