Side A(3)
1995年7月6日(木)21:30
ひとまず4人でソファーに移動する。ヤマが一人、ソファーの周りを落ち着かない様子でウロウロしていた。
「たんこぶなんて冷やしときゃ治るって」
ハンカチの上からコーラの缶を押し当てるタキに、心配性のトモが眉を寄せる。
「頭だからな、何かあったら困る。けど救急病院の場所も分からないし……」
「そういえば、前に119番で聞いたことなかったか? 俺、電話して聞いてやるよ」
席を立つセイ。少し前になるが、空き時間に体育館でバスケをしていて、一人が指を脱臼したことがあった。通りかかった講師が119番に電話して医院の場所などを聞いてくれ、事なきを得たのを思い出したのだ。田舎過ぎるここは近くにアンテナがないらしく、携帯電話は圏外になる。電話をするなら1階の公衆電話を使うしかない。
「僕も行く!」
階段を降りるセイを追いかける。何故か、挙動不審なヤマも一緒についてきた。
1995年7月6日(木)21:32
「何で今日に限って」
1階玄関脇にある公衆電話は『故障中』の紙が貼られていた。セイの舌打ちを聞きながら、公衆電話の場所を懸命に思い出す。
「確か、外に電話ボックスがあったはずだよ」
「それだ、チカ! ヤマはここで待ってろ」
夜間、情報棟の玄関扉は内側からなら開けられるが、自動で施錠され外からは開けられない。ヤマをカギ番に残し、セイと二人で外に出る。
「いやあっ!」
甲高い、鋭い悲鳴が上から聞こえた。
「……え?」
ドサッ、と目の前に何かが落ちてくる。反射的に仰ぎ見た屋上に、上半身を乗り出したユウの姿。
「ううっ」
植込みの中でもがく音にようやく我に返った。二人がかりでサヤを救出する。幸いにも、見たところ彼女に大きなケガはなく、何処かを痛がる様子もない。ただ、よほど驚いたのだろう、放心状態でペタンと座っている。
「サヤ!」
ユウが玄関から飛び出してきた。サヤをギュッと抱きしめると、彼女も首にしがみついて、小さく嗚咽を漏らす。
「セイ、電話!」
「お、おう!」
僕達は、当初の目的である電話ボックスに向かって走り出した。