冒険者ギルド&一悶着
「なぁ君!僕たちと冒険しないか?」
人は突然不可解な状況に陥るとなかなか抜け出せなくなるらしい…なんだこれ?
目の前には金髪碧眼のストレートロングの髪型をして、端正な顔立ちからは育ちが良いですよというのが滲み出てる王子様オーラを放ち、スタイル抜群、てか顔ちっちゃいな、そして鎧は銀色をギラギラとさせ、腰に一本の黄金色の柄に入った剣を携えた、パッと見でわかる主人公キャラが俺に声をかけて来ている。
俺はそいつに対して不快な気持ちを押し殺……すことは出来ずに無視をした。
なんでこんなあからさまな主人公がいるんだよ!
もしかしてこの世界魔王とかいるのか?やめてくれ!俺はイノシシとか鳥を狩って生活がしたいだけなんだ。
「ちょっと何無視してんのよ!そこの黒コートの怪しいやつ、あんたにカズラ様が聞いてるのよ!」
甲高い声に一瞬ビクッとした。
うっさい。
その声の主に目を向けると「テンプレかよ!」と声を荒げそうになったけど堪えれた。
赤髪ポニーテールの気の強そうな目つきだが整った美形の女剣士がキャンキャン吠えてる。
「おう!そうだぞ、カズラを無視するたぁどういう了見だ?」
あ?こいつは様付けじゃないんだな?
てかどっから声するんだ?
俺はついその声質から巨人かと思い目線を顔を上にあげてキョロキョロするが野次馬とこいつらしかいないことに、はてなマークを浮かべていると拗ねを蹴られた。
「痛っ!」
「どこ見てんだよ!ここだよ!嫌味なヤローだな」
俺が顔を下げると身長120cmくらいの女の子がプンスカと、私怒ってますよ!とわかるぐらいに腰に両手をつけて胸を反り返り不機嫌な顔をしていた。
え?この子あんな声で喋るの?おっさんかよ!?
「まぁたお前は顔が見えないくせに馬鹿にしたような態度で私を見るなぁ!」
声と外見のギャップが凄すぎるだろ…
「そうですよ。あなた結構失礼な人ですね」
いや、さっきからチラチラと視界には入っていたんだけどもう勘弁してくれと思って無視してたんだから入ってこないで欲しかった。
水色のボブカットで丸メガネでイマイチ顔の輪郭とかはっきりしないけど手に持ってる本とかで図書委員キャラだなっていうのがまじまじとわかる女の子が多分怒っていた。多分というのも丸メガネが顔の半分以上を占めるくらい大きく、なんで主人公キャラの金髪がメガネを取らせないのか不思議に思うほどだったくらいに大きく似合っていなかったうえに顔の表情が読めないから多分と声で表現するしかなかったわけだ。
「まあまあ。みんな落ち着いてくれよ!それでどうだい?仲間にならないか?」
誰が好き好んでこんなややこしい性格の女どもと厄介ごとに次々巻き込まれそうな主人公キャラの仲間になるというのだ。
「ちなみに俺は男だし、冒険をする気にはならないから他を当たってくれ」
俺が今着てるフード付きの全身を覆うほどの黒コートのフードを外し主人公キャラをまっすぐ見上げ…言い切った。
俺がフードを外して言い切ると、まさか断れるとは思わなかったんだろう……主人公キャラは分かりやすいほど狼狽て黙り込んだ。そして女達が騒いだ。
あえて彼女達が何を言っていたのかはここではやめておこう…罵詈雑言すぎだ。
まぁこいつらの気持ちはわかるよ。
女だと思って声をかけたら男だったわけで、さらに誘いを断られてるんだからな。
でも俺だってなんで女に間違わられなあかんなやら。
俺は主人公達をチラッと見てから建物を出た。
♢
さて前置きが長くなったけど俺がこの町に着いてからすでに1ヶ月が経っている。
着いた日に手頃な宿を案内所で紹介して貰ってから、俺は定番の建物へと足を向けていた。
冒険者ギルド。
いや俺は狩人だから冒険をする気は更々ないから最初こそ案内所で狩人ギルドとかないかなぁと思ってたけどやっぱりそんなもんはなかった。
俺の中での冒険者ギルドのイメージはそこそこ悪かったからちょっと嫌だったわけだが、紹介されたのがそこしかなかったからしょうがないと思い諦めたけど。
まぁ案の定絡まれる絡まれる……
やれ
「おいおまえ!金貸せや」とか「俺が先輩として教えちゃる」とか「いいけつしてんなぁ」とか、最後のやつに声をかけられた時は脱兎のごとく逃げた。
俺はそれら全てを無視して受付へと向かい登録をした。
そこでも民証を提出すると一瞬ギルド内の空気が張り詰めた気がした。つい先ほどまで絡んで来ていたやつもいつの間にかどこかに行っていた。
どうしたんだろうあいつは。
民証見せてからはトントン拍子で登録もできで、もともと狩人をしていた件を伝えると本来はFランク下位からスタートだけどFランク上位からのスタートで良いと言われた。
俺はもともと狩りと採取以外のことをする気にはならなかったからランクとか別にどうでもよかったんだけど「規定ですから!」と言われれば従うしかない。
その後は朝起きて、魔力操作の練習と体操を宿の庭でして、朝飯食って歯を磨き、昼の弁当を宿で作って貰ったのを待って外壁を抜けて森へと入り、狩りをして、ギルドに持って行き、換金してもらって、夜少し呑んでから寝るというサイクルで過ごしている。
そうして過ごしているとギルド内での立ち位置や、通り名みたいなのも決まっていくみたいで、基本的に俺はギルドに入り浸ることはないのだがたまに換金が長引く時などはギルド内にある酒場で夜食を取る事がある。その時にそこのマスターと喋ったりして情報を得たりする。そこで聞いた話なんだが、俺は「黒の仕事人」とか「毎日兎」と呼ばれいるらしい。前者についてはイマイチ理由がわからないけど、後者の方はギルドに登録してから毎日必ず1羽のウサギを必ず納品しているからだと思ってる。
そうした通り名が付くやつに共通することは良い意味でも悪い意味でも名が売れる傾向にあるということだ。
俺の場合はなかなか良い意味で捉えられているらしくFランクでしかも依頼を受けた事がない、冒険者としては失格なのだがギルドからの評価は高いらしく、周りの冒険者も一目置いているらしい。
それはありがたいけどたまに女と間違えて尻を触ってくる奴がいて困る。名が売れてるんじゃないのか?と思うのだが…信憑性は薄いようだ。
♢
そして今日も今日とていつも通りにギルドに行ったら金髪主人公に声をかけられたわけだ。
「はぁ〜朝から鬱陶しいやつに絡まれた」
俺は名も知らない金髪主人公を以降『勇者(笑)』と呼ぶことに決めてギルド酒場のマスターに愚痴った。
「ははっ。黒は冒険には興味がないもんな」
マスターは銀髪の渋いお爺さんだ。
名前はクロードといい、元Aランク冒険者で趣味で料理を作っていたが年齢を重ねるごとに趣味が本業になってしまうほど料理が美味いと評判になり冒険者をやめた過去を持つロシアンブルーみたいな毛並みの耳を持つ猫獣人だ。
この人は俺の事を「黒」と呼ぶ。黒コートだから。捻りがないけど別に嫌じゃない!俺はそう呼ばれることに憧れがあってエドワードさんのこの服を見つけた時はテンションが上がってこれを着ているわけだから。
ちなみに俺も「クロさん」と呼んでいて、年は上だが特に敬語は使ってない。敬語を使うのは貴族かギルマスだけで良いんだとさ。
「冒険は嫌って訳じゃないけどそこまでしたいとは思わないんだよなぁ。俺は狩人だし、どうもその辺は住み分けたいと思ってるから。」
「まあ冒険者ギルドに登録してるやつには色々な理由がある訳だからな。好きにしたら良いんじゃないか?」
「そうだよなぁ。はぁ…あいつまた絡んで来なければ良いんだけどなぁ」
「多分無理だな!はっはっは」
「だよなあ」
がっくりと頭を下げて、吹っ切るためにクロさんの料理をかきこんで狩りへと出かけた。
やっと冒険者ギルドの事をかけた。
詳しい事はまた後日出てくるでしょう