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弓使いが魔法を覚えたら  作者: 肝臓の支配者(ノンアルコールマスター)
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力の使い方⑤



エドワードさんが病気でしんどそう。

なんとかしたいと思い俺は太陽が沈みかけて来て暗くなってきた森の中へと入っていった…のはいいのだが、ふと疑問に思った。


「エドワードさんなんの病気?」


俺はその考えに至って少しだけ恥ずかしくなった。というか悶えた。勢いよく屋敷を出て森に入り薬になりそうな薬草を探しにきたけどなんの病気かわからないとはこれなんぞや?だよな。

一回帰るか?とも思ったけどその間にエドワードさんの容態が悪くなっていたら目も当てられない。

俺はそのことを考えるのをやめて目に映るキノコや薬草を片っ端から採取してインベントリに突っ込んで回った。何か効くものがあればいいと思いつつ暗闇の森を駆け回った。


♢♢♢


「エド様……」


シズのか細い声が聞こえたあたりで意識を手放した。



ふと体がポカポカと暖かく火照るような感覚がして目を覚ました。別に嫌な感じの火照りではなく、暖炉のような暖かさでとても体の芯から温まるような感覚だった。

うっすらと瞼を開けると目の前には泣きそうな顔をしてこちらを見ているシズと、両手をグーにして突き上げて喜んでいるような驚いてるような感じの顔をしてこちらを見ている蓮君がいた。


何か喋ってるようにも見えるけどよく聞こえないなぁ

私も喋ってみるけど声がうまく出てる気がしない。

するとシズがテーブルに置いていた水差しからコップに水を注ぎそれを私の手を使って飲ませてくれた。


「ん〜ふぅ、…それでわたしはどうなりましたか?」


掠れている声に一瞬誰だ?と思いましたがわたしの声でしたか…

その問いに答えてくれたのはシズだった。


「蓮さんが森から様々な薬草や毒キノコを取ってきてくださったのでそれらを調合して薬を処方しましたところ、徐々にエドワード様の容態が回復方向に向かったので目を覚ますのを心待ちにしておりました。」


シズが説明している間横にいる蓮君は少し照れ臭そうに頬をぽりぽりとかいている。


「蓮君ありがとうね。君とシズのおかげで助かったよ」

「私がエドワードさんにやってもらったことを返したまでですよ!まだ返しきれてないですが…」


なんのことを言ってるのかさっぱりわからなかったけどどうやら私は彼を助けたことがあるらしい。


「いや、君には感謝してもし足りないなぁ。」


私がそう呟くとやっぱり頬をかいて照れ臭そうにするからは年相応な少年に見えた。


それから経過観察ということで何日か様子を見ることになったけど悪化することは無かった。

そして経過観察を終了していつも通りに過ごし始めて数日が過ぎた頃、シズが私と同じ病になった。私は手を尽くそうとしたがシズが「私のはもう期限切れです。どうかエド様より先に逝かせてください。」と頼みこんできた。動かない体を無理矢理に動かそうとしてできないことに腹立たしいと思っているのだろう。舌打ちを少しした後こちらに目線だけ向けて話しかけてくるシズ。


「そうか…もうそんなに時間が経ったのか。分かったよ。私もすぐ追いかけるからね」


そう言って私はシズのか細い手を握った。


しばらくするとシズは眠ってしまった。私の握るシズの手はすでに冷たくなってしまった。

私は庭に出てシズが毎日手を加えていた花を一輪手に取ると屋敷のシズの部屋に戻りシズの胸の前に置いた。


「安らかなれ、愛しいシズ」


そうしてシズは死んだ。


私も悲しんでばかりはいられないなと思い、涙を拭うと手紙を書き始めた。

誰に送るかは彼しかいない。

私の見つけた原石であり、私とシズの仮の息子へと。


♢♢♢


エドワードさんが病気から治って10日経つかという日にシズさんが死んだ。

俺は死に目に立ち会えなかった。

その日俺はいつも通りシズさんに挨拶をして森に入って行った。

帰ってきたらエドワードさんにシズさんの部屋に連れて行かれて死んだことを伝えられた。

俺にはシズさんとの思い出は少ない。


いつもどこかからか現れていつの間にか消えるようにいなくなるシズさん。

俺が採取してきた毒キノコを美味しく調理してくれるシズさん。

エドワードさんが病気で苦しんでいる時に俺が持ってきた何かわからない毒キノコや薬草を調合して薬にしてしまったシズさん。

無表情だけどエドワードさんの近くにいる時だけは少し穏やかな表情になるシズさん。

オスロー鳥を毎日狩ってきても文句1つ言わず毎日同じオスロー鳥料理を俺にだけ嫌みたらしく振る舞うシズさん。

オスローワニグマとやりあった日に心配かけないでと俺を抱きしめてくれたシズさん…

あれ?おかしいな…この世界に来てシズさんと接した時間が少ないはずなのにたくさん思い出があるや。


でももうシズさんはいない。この屋敷には俺とエドワードさんだけになった。

エドワードさんも涙で腫らした目元をしてる。

それでもいつも通りの話し方で俺にシズさんの最後を話してくれる。シズさんとの思い出は2人だけの思い出として残したいから話してくれることはないと言うけど。


「さて、実は君にこれを読んでほしいんですよ。これは私からの手紙です。」


エドワードさんはそう言ってた俺に結構分厚い手紙を渡して来た。


「その手紙の内容は簡単に言うと私もそのうち死ぬはずですからこの屋敷についてなどのことについてが8割後の2割は私達と蓮君についてのことです。」

「……え?」


なん…て?


「エドワードさんが死ぬ?どうしてですか?」


「私たちは同じ病気です。『逆行病』という病に私とシズは侵されていました。私は前回の発作の時蓮君がたまたま持って来た『モドリ草』を煎じた薬によって少しだけ永らえました」

「えっ?じゃあ俺がモドリ草をもっと取ってくれば助かったのですか?」

「いえ、本来モドリ草はそんなに簡単に見つけられるものではないのです。これも蓮君のおかげだったのでしょうね…」


そこで一度目を瞑りぎゅっと閉じたエドワードさんはすぐに目を開き俺の方をじっと見て話を続けた。


「私より先に死ぬ…のがシズの夢でした。同じ病になった時からのシズの夢だったそうです。私はその後を追うのが夢になりました…君にあってから。

君はなんと言うか不思議な少年です。運がいいでは語れないほどにね…。私たちは貴方に返しきれない恩と感謝があります。ですからこの手紙を読んでください。」


お願いしますと俺に手紙を預けてエドワードさんはシズさんの部屋を出て行った。

俺は手渡された手紙を持ちシズさんの寝ているベッドの横に椅子を置いて手紙を開いた。



「拝啓蓮君へ


僕はもう長くはないでしょう。

シズが逝く時私は彼女と約束をしました。

すぐ僕も逝くよ…と

彼女の夢は僕より先に死ぬこと。

僕の夢は彼女の後を追うこと。

それが僕たち2人の夢です。

でも僕たち2人には共通の夢ができました。

蓮君の親になることです。

蓮君と初めてあった日のことは今でも覚えています。泣きそうな顔で何か叫んでいた君。

その後疑いながらも民証を作って自分の力に目覚め、森で成果を見せつけた君。

毎日オスロー鳥を獲ってきてはシズに同じ料理を出されて苦笑いを浮かべながらも美味いと言って食べていた君。

私を助けてくれた君。

シズの第2の拠り所となってくれた君。

僕たちは君に感謝しかない。

僕の病が治った後に見せてくれたオスローヘラクレスは感動したなぁ

シズも喜んでいたよ…僕の嬉しそうな顔が見れたってね…


君が僕たちの元に来てくれて本当に楽しい時間を過ごすことができた。

僕たちが死んでも君を助けられるようにこの屋敷と僕たちの財産を君にあげるよ。

君には迷惑をかけるけど、最後のお願いを聞いてほしいんだ。

僕とシズの最愛の息子として生き抜いてください。

迷惑かもしれないけどよければこれを持っていてね。」



エドワードさんからの手紙を読み終えた。

涙が止まらなかった。


「あんたに助けられたのは俺の方だよ…」


手紙の中には銀色のペンダントが入っていた。それはロケットというらしく中には写真が入っていて、仲睦まじい1組の夫婦らしい男女の写真が付いていた。どことなくエドワードさんぽいエルフのようなとんがった耳を持つ男性と、優しい笑みを向ける老婆の姿だった。


俺はそのロケットを首から下げるとシズさんの手を握り「さよなら」と一言だけ言って部屋を出た。


その日エドワードさんを見ることはなかった。

俺は自室に戻ると眠くないけどベッドに潜った。


次の日シズさんの部屋に行くとシズさんの亡骸の横にロケットに映るエルフぽい男性の服を着たエドワードさんの亡骸があった。

俺は2人に黙祷を捧げると、屋敷のシズさんが毎日手入れをしていた花壇の横に大きな穴を掘り2人が横になっても十分なほどに掘った穴に埋めた。


その日から俺は蓮・ディアマンテスと名乗るようになった。


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