力の使い方④
エドワード視点の話もあります
「良かったですねぇ、これで第一ステップは終了です。今日はこれで終わりにして休みにしましょう」
エドワードさんの言葉により3日間敢行していた「ドキドキ森で野宿?野生の動物達と座禅を組もう」合宿が終了した。
俺はすでに悟りを開いた偉人のように肩や頭の上に乗る鳥達を乗せたままエドワードさんと向かい合っている。
「それにしても…3日でこの有様は、ぷくくっ優秀な人材ですね蓮君は!」
「初日の夜くらいから頭に乗ってる数匹はいましたよ…でも馬鹿にしてたけど座禅って凄いですね。」
「想像以上の出来上がりでこちらも驚いていますよ」
頭の上の何匹かはすでに使役してると言っても過言ではないくらいよく話を聞いてくれるようになった。
それに座禅を組むことによって体の中の魔力が自然に溶け込んだり、逆に自然の魔力?を感じ取って自分の体内に入れたりといろいろする段階で課題であった魔力の『返し』ができるようになった。
「じゃあ今日は休みにしますね」
「はい、ゆっくりしてください」
そうして俺はエドワードさんの屋敷に設けられた俺の部屋に向かった。
…でもすることがない。
なんだかんだこの世界に来て早くも2週間とちょっと経った。サバイバルして、エドワードさんの授業を受けてと結構濃密な時間を過ごして来たから急に休みになっても何をしたらいいのか分からなくない。
んーどうしようかと悩んでいるもこれと言って思いつかなかったので俺は森に入ることにした。なんだかんだ森に入ると時間を潰すことができる上に自分の力を確認することができると思ったからだ。
♢
「たーいりょっ、大漁、わっしょいしょーい」
スキップしながら森を駆けてる人がいたらそれは僕です。
これまでで1番の成果にウキウキランランとしてしまい身体で表現したくなったからスキップしてるとしか言いようがないほどに気分が高揚してる。
オスロー鳥5羽、オスローワニグマ1体、オスロニアデビル1体、マズイヨ草10束、トレダケ5本、そして何と言ってもオスローヘラクレス1匹が1番の成果だと思う。
オスロニアデビルは真っ黒の肌で体毛の無い醜い顔をした犬みたいな動物だ。味は知らん…
マズイヨ草は毒消しの草。
トレダケは毒キノコだけど加熱処理すれば絶品のキノコ。そしてオスローヘラクレスはエドワードさんがここに住んでいる理由と言っていいほど貴重なカブト虫だ。
俺は過去に一度だけこいつを見たことがあった。その時にたまたまエドワードさんも一緒にいたのだが、今まで見たことのないほどにテンションが爆上がりしていて若干引くくらいに気味悪いエドワードさんを見ることができた。
なんでも、エドワードさんは収集家でもあるらしくオスローヘラクレスは滅多に市場にも出ることがなく『オスローの幻』と呼び声高い虫らしい。それを生きた状態で捕まえることができたから今最高に嬉しい。
今までとこれからの授業料じゃ無いけどエドワードさんには世話になってるからな捕まえれてよかった。
「エドワードさーん!これ見てくださーい!」
俺は屋敷に帰るなり足早にエドワードさんの部屋に向かっている。
早く見せたい一心で部屋をノックもせずに開けるとエドワードさんがベッドで寝ていた。
寝ていたと言うよりは伏せていたと言った方が表現としては正しいのか。エドワードさんの傍らにはいつも通りシズさんがいるのだが、シズさんはエドワードさんのおでこに濡れタオルを絞って置いたり、汗をぬぐったりとお世話をしていた。
「シズさんエドワード風ですか?」
シズさんはチラッとこちらを見てゆっくり首を横に振り「いつも通り」とだけ言って世話を続けた。
え?いつも通り?なの、これ?
エドワードさんてもしかして…
俺は軽くパニックになりかけたが持っているカゴに気がつくとシズさんにそれを渡して部屋を出た。俺ができることはあの場所には無い。なら何ができるか?毒消しの草と毒キノコならいつも簡単に見つけることができる!それで治らないか?
それともオスロー鳥をもっと取って来てシズさんが料理をしてくれたら元気になるか?といろいろ考えながら俺は暗くなる外を見て屋敷を出た。
♢♢♢♢
この地に来てどれくらい経ったかなぁ
ふとそんなことを考えることがたまにある。
私の名前はエドワード・ディアマンティス。
とある国の王族に名を連ねることも過去にはあった。でも今はこのオスロー国立自然公園の管理人をしているだけのただの老人になってしまった。
どれだけ国のために尽くしても見返りがない、王にならないと言っても周りが担ぎ上げようとする現状に嫌気がさして趣味の収集をしたいがためにかねてよりシズに頼んでいたオスロー国立自然公園の管理人に秘密裏になることができた。
私がオスローに来て見つけたいものはあと1つだけ。オスローヘラクレスただ一匹になった。
この地に来て30年経つが彼と一緒に森を入った日にしか姿を見たことがない。と言うことは彼に合わなかった30年間一度も見たことがないということか…笑えて来ますねぇ。
彼は一言で言えば「謎」としか表現ができない。
彼に初めて会ったのはある夜の管理人業務中の事だ。会ったのは初めてだけどそれまでずっと監視は続けていた。ある日からそこに住み着いた謎の少年は1週間毎日矢を射っていたけど一向に獲物を捕まえることができていなかった。見てて面白くなるくらいに矢が届かないんだ。獲物を取ることができないから、木ノ実や草やキノコを食べて生活をしていたけどほんとに運がよかったよね彼。
多分知らずに毒キノコを食べた時は焦ったけど、すぐ近くにたまたま生えていたマズイヨ草をすぐに食べて苦虫を噛み潰したようような顔で食べていた。
それだけじゃない。そもそもアウラの実はあんなにしょっちゅう木から落ちては来ないはずなのに彼は毎日一個食べていた。あれにも特殊な食べ方があるんだけど、それを知らないんだろうね、生で食べて不味そうな顔してた。
それから彼に接触してからはさらに驚かされることがあった。
彼は民証のことを知らなかった。
それじゃあ力なんか出るわけないよ。見た目10歳くらいの少年だったから持ってると思って話していたんだけど、なんのことだかわからんみたいな顔をされた時は笑っちゃった。
民証を得てからは見違えるように狩りが上手になった。オスロー鳥もあんなに見つかるわけない位には珍しいはずなんだけど…オスローワニグマなんかなんでこんなにしょっちゅう見つけるんだ?
毒消しの草も毒キノコも群生地は無いと言われてるくらい見つからないはずなのに彼はいつも束で持ってくる。
そんなある日彼には魔法の才能があるということを知った。
魔法はそもそも魔法の才能が無いと使えない。
魔法の才能を持っている人でもそこから基本属性に適性がないと使えない。
そんな彼が「回復魔法が使えるらしい」と言って来た日には「この子王族か何かか?」と驚きを隠せなかった。
魔法の基本属性には火、水、草、土、風、無がある。
そこから派生するように火なら炎、水なら氷、草なら木、土なら大地、風なら大気、無は虚無といった風に上級属性を覚えることができる。そしてここからが重要なんだけど、魔法は属性同士を掛け合わせることで別のことができる。火と水と草で聖属性、土と風と無で闇属性、火と水と草と無で回復といったように魔法は重ね合うことで上位の力を使うことができる。
王族には適性が2つ以上ある人もザラなんだけど回復魔法を使うにはそれこそ王族が2〜4人必要なほど適性を掛け合わせないといけない……んだけど彼は回復魔法を持っているという。ということは彼単体で4〜6属性を持っているということなるから驚いたのもやぶさかではない。
そんな彼に魔法を教えているが魔力の扱いは平々凡々でいたって普通の適性ある子供と同程度だったから少し拍子抜けしたこともある。
そして今日彼の第1ステップが終了した。
ちなみに彼の第1ステップは普通の人の3ステップくらいのものだ。最初から魔力を感知できていたし、少しなら動かすことができていたから「返し」を覚えさせるために通常の3ステップを第1ステップと称してやらせていた。
ご褒美に彼に休みを与えるとここ数週間の疲れが出たみたいだ、彼がくる前まではいつもなっていた病気がぶり返して来た。
私はベッドにシズに支えられながら向かい寝転んだ。
「シズ。いつもすまないな」
「…旦那様。」
「彼が面白くてつい動き過ぎちゃったみたいだよ。少し寝るね」
「おやすみなさいませ……エド様」
エド様かぁ、懐かしいなぁ
そうしてだんだん重くなる瞼に抗うことなく目を閉じた。
次話でもう少しエドワード視点続きます