力の使い方②
次の日、エドワードさんに勧められて朝食をご一緒させていただいた。
シンプルにレタスとベーコンエッグとパンとスープだった。
パンは柔らかくいい香りのする美味しいバターロール。スープはコーンをすり潰してできたであろう濃厚なコーンスープだった。
レタスもシャキシャキとした食感がたまらなく美味いし、程よい塩加減のベーコンエッグはお代わりをもらってしまった。
食後すぐにエドワードさんに連れられて昨日民証を作ろうとしていた部屋に向かった。
昨日作成していた机の上にそのまんま鎮座している箱は昨日とは違い淡い光が消えていた。
「これは出来上がってるんでしょうか?」
「ふむ、完成…と言った所ですね。しかし実に不思議ですねぇ、こんなに時間がかかるとは思いもしませんでした」
エドワードさんが箱を手に取りフタを開けると中からエドワードの持っているやつと同じブラックカードが現れた。
それを見て「おやおや」とエドワードさんが顔を緩ませた。
「どうやら私の身内…という扱いになってしまったようですねぇ。」
俺はその言葉の真意を理解できなかった。
「身内ですか?俺とエドワードさんは家族にでもなってしまったのですか?」
「いえ、それは否と言わざるを得ないのですが、民証の色が同じということは「私の身内扱い」として登録されるということです。」
「ごめんなさい。いまいち意味がわからないのですが…」
「まぁ今の所気にしなくていいでしょう」と言って俺に民証を渡してきた。
俺がそれを手に取ると急に力が湧いてくるような変な感覚がした。
不思議な感覚にアタフタしてるとエドワードさんが言葉を紡いだ。
「やはりまだ覚醒してなかったようですね。だからあなたは狩猟が下手だったのです。多分今ならオスロー鳥くらい造作もなきことでしょう。」
「覚醒ですか?この民証にはどのような効果があるというのですか?」
「民証は7歳になると誰もが取得するというのは昨日話したかと思います。7歳になるまでは非力な子供であるということです。そしてそれ以降は自分で自分の道を切り開くために神から与えられた証として民証を貰えるのです。
この民証を貰うことによって自分の本来の力に目覚めます。数値でいうと民証を授かる前と比べて10倍違うと言われています。」
そうか。だから俺は弓が全然引けなかったのか。
じゃああのポイントの振り分けはなんだったのだろうか…
わからん。
「そうですか…だから俺の矢は全く飛ばなかったのですね。」
「それが原因だと思います。蓮君は色々と能力を持っているみたいですね。確かに民証を持っていなくても能力に目覚めることは多いです。遺伝だったりするからです。しかし自分の体力だったり魔力だったりは親からの遺伝は稀有で、ほとんどが覚醒によって目覚めますね。」
「そうですか…わかりやすいです。エドワードさんはその数値というものが見えるのですか?」
「私は私のモノなら見えますが蓮君のものは蓮君しか見えません。」
「見れるんですか?どうやって?」
「民証を額にかざしてください。そうすれば見えるはずです。」
そう言われ俺は民証を額にかざしてみた。
すると脳内といか、眼前というか、とにかく文字が見えるようになった。
【名前:蓮
年齢:12歳
職業:狩人、回復士、生成士
武器:初心者ハンターボウ/初心者魔法の杖/∞矢
防具:体温調節マント/初心者皮鎧
持ち物:魔法筆、携帯食料3日分、水筒、経験値の指輪、回復のネックレス、アウラの実、地図
能力:インベントリ、回復魔法、生成、魔力感知、魔力操作、遠見、我が物、
ステータス
HP600
MP1500
筋力2200
運2200
残り500ポイント】
あれ?ポイント割り振った時よりステータスの数値が20倍くらいに上がってる?10倍じゃないの?
……ていうか能力!!完全に忘れてた!ずっとポッケに入ってたアウラの実だけどインベントリとかいうハイスペック能力持ってたじゃん。てかなんで気づかないんだよ俺!
しかも水も食料もあったし!
しかも歳が12歳になってるのなんでなん?
1人カードを見ながら悶々としていると不思議そうに俺を見る視線に気づいた。
「どうしました?」
「いや、なんでもない…訳ではないんですけど忘れていたことを思い出したまして。自分の間抜けさに腹が立ったというか…そんな感じです。」
「拝見することは出来ますか?」
「うーん。こうゆうのって普通人に見せたりするものなんですか?」
「まずありえませんね」と笑いながら答えるエドワードさんに少しだけイラっとした。
じゃあ聞くなよと思うが民証を作ることができたのはエドワードさんのおかげなのでその言葉を飲み込んだ。
「それでこれから蓮君の力を見たいと思うのですがそちらはどうでしょうか?」
そうだなぁ。確かに力が湧いたみたいな感覚がするから試して見たい気もする。でもエドワードさんに見られるのはなんか嫌な感じがするんだよな…
すっごいこっち見てるし。
見せてくれみたいな眼差しでこっちみんなし!
…はぁしょうがないか、下手でも笑うなよ。
「じゃあ狩りに行くので一緒についてきてください。というか生態系とか教えてくれるとありがたいんですけど」
「わかりました!じゃあすぐ準備するので少し待っていてください」
そういうやエドワードさんがシズさんを相変わらず指パッチンで呼ぶとすでに用意していたシズさんが服やらなんやらをエドワードさんに渡していた。
相変わらずシズさんぱねぇ。
「では行きましょうか!」
「はい」
そう言って俺とエドワードさんは屋敷を出た。
♢
「これは蓮君も持っている、アウラの実という木ノ実です。味はしないですが毒消しをしてくれる大変重宝する実です。」
あぁこれは……、それとこれは……、とエドワードさんは大変博識でいらっしゃる。
俺が1週間森で生活していた時に食べたものは全て毒消しに使われるような薬草と毒キノコで味は正直悪いものだったらしい。これを好き好んで食べる人は偏食家にもいないそうだ。
さらに言えばこの森に植生するキノコは生で食べると毒キノコの部類に入るものしか無く、俺はそれを食べていたのだが、毒キノコと毒消しの薬草を一緒に食べていたから難を逃れていた新事実にへたり込んだりしていた。
「おや、オスロー鳥が見えますね。」
エドワードさんがそういってとある木を指差した。最初俺にはそれが見えなく「遠見」を使ったことで見えるようになった。
「ほんとですね…てゆうかエドワードさん目がいいんですね。俺能力使ってやっと見えたのに」
「森で生活をしていればこんなもんですよ」
と笑いながら答えてくれた。
納得はできないけどそういうもんだと思い込むことにした。めんどくさい。
「では蓮君、実践して見ましょう。距離は50mくらいでしょうか、あれに矢を放って討ち取って下さい」
「いやいや、無茶言わんで下さいよ…届かないに決まってるじゃないですか!」
半ば自嘲気に答える。
「それは民証を手にする前の蓮君ならね。でも今は?きっとあなたなら取れますよ」
そう言われれば取れそうな気がしないでもない。
いや取れる!
俺は背負っている弓を手に取ると矢筒から矢を取り弓にかける。
そして力一杯に引く。そして狙いを定め、射る。
ドシュンと結構鈍い音を発した矢がオスロー鳥の頭を射抜いた。
「は?まじか?!」
俺は確かにできそうな気がしたがここまで正確にヘッドショットを狙ったかと言えば否だ。
当たればいいなぁくらいに狙っていたが正確に当たったことに驚きを隠せない。
「エ、エドワードさん!?今、俺が。えぇ?!俺がやったんですよね?」
「これは驚きましたねぇ!いやはや弓ってあんな落として飛ぶんですねえ」
どうやらエドワードさんも驚きでいっぱいいっぱいのようだ。
「す、スゲ〜。これが俺の力かぁ」
「そうです。それが覚醒したあなたの力です。これでやっとあなたは実感したはずです。自分の力に。よかったですねぇ」
俺は自分の力を初めて実感している。
心が喜んでいる。この1週間という無駄な時間を過ごしたがエドワードさんに出会えたことに!
体が喜んでいる。空想とは違う現実の体で起こした現象に!
俺は横でまだ驚いているエドワードさんに向き直り深々と頭を下げた。
「エドワードさん。ありがとうございます!エドワードさんに出会えなければ俺は今頃森で発狂していたか死んでいたでしょう。」
「いえいえ!いいものを見せてもらいましたよ。
それで蓮君はこれからどうしますか?君は狩りができるだけの力を身につけた。ですが、私はあなたにまだ教えたいことが山ほどあります。旅に出ますか?」
俺は即答する。
「いえ、エドワードさんとの交換条件はまだ叶っていないようですから、俺はまだこれからもエドワードさんに色々と教えていただきたいと思います。」
俺はまだ知らないことが多すぎる。能力も多分使いこなせていない、この世界のこともよく知らない、生態系も知らない、狩りの基本もままならないのでは今旅に出れば死ぬだろう。ならばエドワードさんとの約束も破らなくて済み、俺も成長できる手段がある方を選ぶ。
「それはありがとうございます。では今日は帰りましょうか」
そしてエドワードさんと頭を貫かれて絶命したオスロー鳥を持って屋敷に帰っていく。