就職活動・・・・
『仕事に就く』
最近まで普通の一般的な高校に通っていた僕らにとって、それはあまりにも突然で、なんの心構えもできていなかった。いや、僕らというのは間違いか。人によってはやってみたい仕事がイメージ出来ている人もいたかもしれない。少なくとも僕は何にも決まっていなかった。
第一、地球にいたころと勝手が違いすぎる。
地球にいたころであったならば、大学に進学してから三年間色々考えてからリクナビやマイナビやらといったサイトを利用しながら就職活動をしたり、より専門的な大学院に進学してから始めるだろう。人によっては高校在学中に就職活動をする人もいるかもしれないが、今の世の中それは少数だろう。しかし、ここではそう言った便利な就職補助機能はない。普通に生活しいる人達はよほどなりたい仕事がない場合、おそらく親の仕事を継いでいくのだろう。農家は農家に、商人は商人に、貴族は貴族に、鍛冶屋は鍛冶屋に。サイト利用もなければ家の助けもない。ないないづくしの僕らにとってやりたい仕事に就くのは容易ではないだろう。
よくある小説みたいに、天職やらスキルやらがあったならば、それに見合った仕事に就けばいい。生産系の能力なんて、仕事に就くという点でいえばこれほど優れた能力はない。何も悩まず自分の才能を活かせる仕事に就けばいいのだ
でもこの世界はファンタジーとはいえ、その人固有の能力がわかりやすく表示されていたりはしない。地球にいたころと同じように、自分の能力とやりたい仕事を吟味して選ばなければならない。
「な~んて、こんなのはただの言いわけだよね」
僕は河原でねっ転がりながら、ぐっと体を伸ばした。
言いわけばかりが頭の中でぐるぐると湧きあがる。高校2年生であった僕達は、きっと本当ならある程度将来の道筋を決めていないといけないのだろう。僕は単にそれができていなかっただけ。だから、こうやって自分で将来を決める時に行動ができないのだ。そもそもやりたい仕事とかやりがいのある仕事とか、やってみたいこともよくわかないから全然わからないんだよな。
多分、きっと、おそらく、地球にいたとしても同じように思い悩んで結局何も決められなくて無職で寂しい生活を送ることになっていたんだろうな。和田君みたいに即断即決でやりたいことを決められる人間がうらやましいよ。
そんなことを考えながら、僕は日向ぼっこを続ける。
国から勇者を解雇されてから10日ほどが経っていた。
その間にみんなは少しづつ仕事を決めていった。夕方の戦闘訓練の時に色々と話を聞くけれど、みんなそれぞれ新しい物語が始まっているようだった。和田君は初日に絡まれた冒険者となんだかんだあって意気投合して一緒に依頼をこなしているらしい。三上さんと東堂さんもそんな傷ついた冒険者の治療を行って今では冒険者ギルドのマスコットになっているようだ。林君はこっちに来てから図書館に通っていたそうで、そこの司書の女の子と仲良くなって司書見習いとして頑張っているらしい。
神宮寺達は勇者として様々な場所で活躍し、和田君達はこの国になじんで楽しい生活を送っている。
自分だけ世界から取り残されているみたいだ・・・・
「おい、こんなところでごろごろして何してんだ~??」
悶々としていると、河原の上から声をかけられた。
振り返るとそこにはペロンギさんがいた。
「ペロンギさん・・・・」
「なんだよ、しょんぼりして。よっと」
ペロンギさんが河原を滑って僕の横まで下りてくる。
「どうした?まだ仕事が決まらなくて悩んでるのか??」
ペロンギさんがぐさりと僕の心をえぐってくる。
僕が何も言えずにうつむく。
「そんなうじうじ悩まなくたっていいだろ。まだ金貨も残ってるんだろ?ゆっくり決めればいいんだよ」
確かに金貨はまだ9枚も残っていた。娯楽もほとんどないからお金なんて宿代とご飯代くらいしか減っていなかった。このペースならあと100日は生活できると思う。
「そうかもしれませんけど、みんなの話を聞いてると自分が情けなくなってきて。結局自分は何も決断できないんですよね・・・・」
「悩んでうつむいてるくらいなら剣をふれ!そうすれば汗もかいてすっきりしてご飯もおいしくなるぞ」
そう言って、ペロンギさんが剣を僕のそばに突き刺す。
ペロンギさんをみると、良いから剣を握ってふってみろという感じで剣を握らせようとする。
「わかりました」
剣の柄を握り素振りを始める。
この10日間でペロンギさんから習った型を行う。
次第に頭の中から悩みが抜けていき、僕はただただ無心で剣をふった。
「そうだ。それでいいんだ。悩むなんて無駄だ。なんでもいいから体を動かせ。体を動かしてご飯を食べて寝る。生き物はそれだけできればいいんだよ」
「はい!」
何の解決にもなってない気がしたけれど、どこかすっきりとしてきていた。
まぁ、いつかなんとかなるだろう。どこでどんなことをしてたって、悶々としたら剣をふればいいんだ。ちょっぴり肩の荷がおりた僕は、昼間も剣を降るのが日課になった。