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モブのままでは終われない!  作者: とんけ
第1章:モブの異世界生活
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ペロンギさん

 「すまなかった!」


 ペロンギさんが机に額をこすりつける。

 僕達はペロンギさんに声をかけられてから、町場の酒屋に移動していた。


 「勝手に呼び出しておいて、明確な理由もなしに支援を打ち切りにして、はては蔑むような発言をして本当に申し訳ない!謝ってもあやまりきれることではないかもしれないが、本当にすまない・・・・」


 周りをみると、僕以外のみんなも困ったような表情を浮かべている。

 確かに国にたいして不満はたくさんあるけれど、ペロンギさんに対しては不満なんて全くない。今まで世話してきてくれていたし、僕達のレベル上げという任務以外でも普通に気さくに対応してくれた。僕にいたっては爬虫類に助けられていらい好意を寄せている位である。


 そんなペロンギさんにこれ以上頭を下げさせるわけにはいかない。


 「顔をあげてください。僕達は確かに突然解雇宣告のようなことをされて正直憤っています。でもペロンギさんにそんなに謝られると僕たちも戸惑ってしまいます。だって僕達はペロンギさんに対しては全然怒っているわけではないんですから」


 「しかし・・・・」


 ペロンギさんは本当に良い人だ。

 自分達の都合で呼び出したことに負い目を感じていたとしても、神宮寺みたいな選ばれた勇者に対してならいざしれず、僕たちみたいな一般人よりちょっと強い位で手間のかかる子供に対しても誠実に接してくれているのだから。

 

 「そうだよ。ペロンギさん。私達は不当な扱いに怒って暴れたりするような人間じゃないし、ペロンギさんに対してその不満をぶつけたりなんてしない。だからそんなに謝らないでください。」

 「俺はまだかーなーり怒ってるけど、ここのご飯おごってくれるなら許すよ」


 三上さんと和田君が僕に続く。

 東堂さんと林君もうんうんとうなずいている。


 「お前たち・・・」


 ペロンギさんが顔をあげる。瞳はどことなく潤っているように見える。

 なんでペロンギさんが僕達が不当な扱いを受けて泣くのか。むしろ僕が騎士の立場だったらなら、厄介事から解放されてすっきりしたと思う。ペロンギさんが僕達の先生というか担当騎士で良かった。

 

 「あ、でもご飯をおごってもらう以外にも一つお願いがあります」

 「なんだ?なんでも言ってくれ。かなえられることなら叶えよう」

 

 僕はまだペロンギさんと一緒にいたかった。もっと色々なことを教えてもらいたかった。

 ペロンギさんは良い人だからこんな流れでお願いしたら絶対断らないだろうとわかっていて、僕はわがままを言う。


 「これからも剣の訓練を続けてくれないでしょうか?レベルに頼らない強さを身につけたいです」


 ペロンギさんはしばらく思案をし、


 「わかった。これからも訓練を続けよう!」


 僕のわがままを受け入れてくれた。






 ペロンギさんも落ち着きをとりもどし、僕達はご飯を食べ始めた。


 「でも、ペロンギさん、戦闘訓練は中止にするって王様達が言ってたけど俺達の訓練を続けて大丈夫なんですか?」


 林君がステーキを食べながら尋ねる。

 戦闘訓練にはみんなも参加することになった。みんなの意見を聞かずに勝手なわがままを言ってしまったが、みんなもまたこのままペロンギさんと疎遠になるのは嫌だったようだ。僕達はこの3週間ほどの間に随分と仲良くなっていたようだ。地球にいたころは和田君と二人でわいわいやるくらいだったのにな。


 「昨日も言ったが、この国では戦闘技術というのはかなり二の次にされている。だからレベル上げなどを手伝うことはできないが、武器の扱い方などを教えることは問題ないはずだ。仮に問題があってもそれ位は押し通して見せるさ」

 「迷惑をかけてしまうかもしれないですけど、よろしくお願いします」

 「迷惑なんてとんでもないさ。本当だったらこんな対応をされれば国に対して反逆心をもったっておかしくないんだから。それなのにこんなお願いしかしないなんてどんだけ良い子達なんだよ、君たちは」


 ペロンギさんはそう言って笑う。

 僕たちもそれにつられて笑いながらステーキを食べる。なんの肉が使われているかはわかないがとっておも美味しかった。僕達はこの国から完全に見捨てられたわけではない。さっきよりもさらに胸が軽くなる思いだった。


 

 戦闘訓練はペロンギさんの勤務終わりの夕方からすることになり、これからしばらくは就職活動をしながら戦闘訓練をしていくことになるだろう。

 就職活動‐‐‐‐ふと冷静になると、“バイトもしたことない僕達が働けるのか”“戦闘訓練よりも仕事を斡旋してもらった方が良かったのではないか”そんな思いが胸をよぎった。


 「就職活動か・・・・」


 僕がそんをな風に呟くと、和田君を除いたみんなの顔色が暗くなった。


 「就職って言っても、冒険者一択だろう?なにも悩む必要なんてないでしょ」


 和田君はそれでいいかもしれないけど、普通は命の危険をさらすような仕事はしたくない。自ら進んで過酷な労働条件に飛び込むようなものだと思う。地球で言ったら建築現場の作業員とかに喜んで就職する感じだろうか。どちらに対しても酷い偏見かもしれないけどさ。


 「まぁそんなに深く悩まなくても、ゆっくり探せばいいさ。武器選びのようなものだよ。きっとみんなに合った仕事が見つかるさ。何かっあったら相談にも乗るしさ」


 ペロンギさんがフォローをいれる。

 しかし、いったん沈んだ気持ちはなかなか元には戻らなかった。 

 

 こうして僕達はちょっぴり持ち直した気持ちをどん底にまで下げてそれぞれの宿へと帰還したのであった。

  

 

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