突然の解雇宣告
僕達は王様に呼び出され、城の王座の前にいた。神宮寺達を除く異世界人20名を甲冑をきた騎士が囲んでいる。普段は軽いペロンギさんも今日がびっしりと正装だ。甲冑の隙間からのぞく表情はどこか申し訳なさそうな感じである。むむむ、何か嫌な知らせがあって呼ばれたのかもしれないな、僕はちょっぴり緊張感を高めた。
「皆様に集まっていただいた理由は国からの支援に関しての変更点を伝えるためです」
王様の横にいるかしこそうな人がしゃべり始める。
「召喚時の説明では、宿と食事を提供し、また我が騎士団が戦闘訓練を施し、さらには1人あたり金貨10枚を100日毎に支給するというものでしたが、魔王復活の前兆である魔力の増加に伴う魔物の被害を防ぐために騎士団の多くが出向かなければならなくなったことと、我が国に伝わる武器に選ばれし勇者5人が魔王討伐に大きく貢献してくれることが考えられるため、その他大勢である君達への支援を打ち切ることにしました」
一瞬静まり返る僕達。
しかし、すぐに不当なことを言いつけられたことに気づき憤慨する。
「勝手に呼びつけておいて、役立たずだからって俺らのことを放棄するのかよ。そんなの無責任だろ」
近くにいたヤンキー風の男が大声をあげる。
全くその通りである。役に立つ駒が手に入ったからといってほいほい捨てられるのはたまらない。
せめてだったら地球にかえしてほしい。
「私達も申し訳ないと思っている。しかし私達の国も言い方は悪いかもしれないが役立たずを20人も養っておく余裕がないんだ。国民からも不満の声があがっていて、勇者5人に支援を集中するということに決まったのだ。最初に渡した金貨を回収はしない。それだけの金額があればあと100日近くは生活できるはずだ。その間に仕事をみつけ、普通の生活をしてもらいたい」
先ほど話した人と王様をはさんで反対側にいる小太りの男性が話す。
税金で生活している貴族の数は100人以上はいるだろう。それなのにわずか20人の人間を養う余裕がないというのか。まったくもってばかばかしい。
「ふざっけんじゃね~」
先ほど啖呵を切ったヤンキーが王様めがけてかけのぼる。
するとすぐに僕達を囲んでいた騎士が動き、ヤンキーを拘束する。
「く・・・・離せよ。このやろう」
「異世界人とはいえ、王様に無礼をはたらくことは許可できない」
騎士がヤンキーを完全に制圧している。
僕達は神宮寺と違って武器には選ばれていない、けれどそれでも異世界人だからこっちの人間よりも強い。レベルも10を超えており、実質てきにはレベル20ほどの力はあるだろう。しかし、それでもヤンキーは騎士たちの拘束をとくことができないでいる。
レベル差があるのか、はたまたそれだけ洗練されている騎士なのか。
どちらにしてもたしかに僕達は現状役立たずといわれてもしかたながないほど力に差があるようだ。
「まことにすまないと思っておる。しかし、しょうがないのだ。許してくれ。魔王が生まれる前兆で国民もピリピリしておるのじゃ。この国から追い出したりしないし、奴隷にしたりもしない。普通に働いて普通に生活してくれればそれでいいのじゃ。もちろん魔王を討ったあかつきにはそなたらの国に戻れるように尽力する。」
僕達には計り知れない事情があるのかもしれない。
王様のしんしな表情に僕達は怒りととまどいが薄らいでいくのを感じていた。
次第に僕達はしょうがないかと諦めかけていた。
しかし、僕達のグループのメガネイケメンである林君が挙手をして、声をあげる。
「確かにそちらにも事情はあるのでしょう。しかし、僕達のことをその他大勢と言ったり、役立たずということに対しては許せません。もうすこし違った言い方もできたのではないでしょうか。」
王様はそんな林君をじっとみつめ、
「確かにそちたちに対する配慮が足りていなかった。すまなかった」
頭を下げて謝罪をした。
王様の横にいる大臣のような人たちがあわあわとしだす。
「謝っていただけてよかったです。僕が言いたかったのはそれだけです。失礼しました」
なんてかっこいいのだろう。
僕は林君に対する評価がとても上がった。
あのまま王様サイドにいいように言われてそれを受け入れていたら僕達の自尊心はぼろぼろになっていたかもしれない。寸前のところで人としてのプライドを林君は守ってくれたのだ。
そうして僕達はお城をあとにした。
「林!お前すごいかっこよかったな」
「うん、本当にかっこよかった。林君のをおかげで人としての何か大切なものを守れた気がする。」
和田君と僕は林君をほめた。
「俺達をあまりにも下にみた発言に我慢ができなかったんだよ。あそこで黙れるほど俺は出来た人間じゃなかったらしい」
林君はそんな風に応える。
その対応もいつもならそっけないというかきざったらしいと思ったかもしれないけれど、今日はどことなくかっこよく感じた。
三上さんと東堂さんもやってきて林君をほめた。
「林君すごいかっこよかったよ。私胸をがつーんとうたれたもん」
「なんだかあのまま自然と流されそうになってたから、一言いってくれてよかったよ」
林君はそんな二人のほめ言葉もそんなたいそうなことはしていないと否定する。
そのまま僕達5人は林君をほめたり、これからのことを話したり、宿に帰るわけでもなくぶらぶらと街を歩いた。よくわかない土地で、よくわかない使命を与えられ、よくわかない理由でそれがなくなったけど、僕達は1人じゃない。それだけでなんだか頑張れる気がした。
「おい・・・・ちょっといいか?」
呼び止められて僕達は足をとめた。
するとそこにはペロンギさんが申し訳なさそうな顔をして立っていた。