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モブのままでは終われない!  作者: とんけ
第3章:モブのゲシュタルト崩壊
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自分の道を行く

 輝きを失った念話石が花畑に散らばっている。もう誰の声も聞こえてはこない。

 突然の出来事に僕の思考回路は爆発寸前だ。


 僕以外もみな驚いた表情をしている、バギンスさんを除いて。バギンスさんはやはりこのことを知っていたのだろう。その表情はどこか楽しそうにも見える。


 「何か言いたいことでもあるのかな?ん?」


 バギンスさんが僕の方を向き、しゃべりかける。


 「いや、あなたの表情がこの状況を楽しんでいるように見えたので」


 バギンスさんがわかりやすくニヤリと笑う。

 その表情が既に僕の疑問に対する答えになっていて、心に怒りの感情が浮かぶ。


 「そんなに怒るな、ともたけよ。わしらにも事情があるのだ。魔王にはちゃんと覚醒してもらわないと困るのだよ。決して楽しんでるわけではない。ただお前達の行動だけが不安要素だったからな。それがつぶれてほっとしているのだよ」


 「だとしてもそんな表情をされたらこっちも我慢ならな―――」


 そう言って僕がバギンスさんに近づこうとした瞬間、首筋に剣が当てられる。


 「それ以上バギンス様に近づくんじゃない。いかにペロンギと知り合いだとしても躊躇なく斬るぞ」


 「く・・・・」


 首筋のひやりとした感触が、僕の熱くなった心を沈める。

 ここで感情的になってもしょうがない、か。


 「おいおい、ビルボ。物騒なことはやめてくれよ。そいつは俺の大切な弟子?友達?こい・・・友達なんだから」


 「いや、悪いがこれだけはやめられない。私がここにいるのはバギンス様を守るため。あのような表情をしたままバギンス様に近づくことは許せない。まぁ、少しは落ち着いたようだがな」


 「すみません、ちょっとカッとなってしまいました。もう大丈夫です」


 僕がそう言うとビルボさんがじっとこちらの瞳を覗き込み、剣を鞘へと戻した。

 

 「ちゃんと事情を教えてもらえないと釈然としません。もう少し詳しく理由を話してくれませんか?」

 「全くです。どうしてともこちゃんが魔王にならないと困るんですか?」


 僕の問いに三上さんも同意する。

 

 「駄目だ。質問は1人1つ。その理由を話すことは、先ほどの質問以上に世界の根幹にかかわってくる質問だ。それをほいほいと話すわけにはいかない」


 「そんな!」


 「だが、先ほども言ったが魔王が覚醒して世界の魔力量を調整しないと大変なことになる。それが私の言える全てだ。いくらペロンギが言っても駄目だからな」


 ペロンギさんが何かを話そうとしたが、バギンスさんの最後の一言で口を閉ざす。おそらく言っても無駄だと思ったのだろう。さきほどまでペロンギさんに向けていたおじいちゃんの表情ではなく、真剣な表情であったから。


 「わかりました。言えないのなら、それでいいです。ですが、僕達がともこちゃんを救いに行くとしても邪魔はしませんか?」


 僕はたとえ世界が大変なことになるとしてもともこちゃんを救いたい。大変なことが世界滅亡レベルだったとしたら考えも揺らぐかもしれないけれど、それを話してくれないのなら、僕は僕の気持ちにしたがって行動するまで。


 「わ、私も助けに行きます。世界が大変なことになるのだとしても、魔王が覚醒する以外の方法を探してみせます」


 僕達がこう反応するのはわかっていたのだろう。

 バギンスさんがちらりとビルボさんを見て、その直後一気にビルボさんが僕達に向かって駆け出した。


 僕はさきほどの対応から、黙って行かせてくれるとは思っていなかったので、内心では戦闘態勢ばりばりであった。そのためなんとかビルボさんの初撃を感知することができた。今度は止める気はないであろう、殺意のこもった剣を振ってくる。


 僕はそれを剣で受け流した。


 「なんだと!?」


 ビルボさんが驚いた表情をする。まさか防がれるとは思っていなかったのだろう。

 確かに僕はペロンギさんにも勝てなかった。しかし、だれが好きな人に対して本気を出せるであろう。もちろん全力のつもりではあるけど、やはり心のどこかではブレーキがかかってしまう。しかし、今目の前にいるのはイケメンなエルフ。ペロンギさんのお義父さんかもしれないが、殺す気でくるなら全力で対応するまで。


 その後、数度の剣戟を交わす。


 対応はできても歴然として実力差は存在する。

 数度のやりとりで僕は押され始める。


 「思ったよりもやるようだが、これで終いだ」


 そう言ってビルボさんが僕に対してとどめを刺そうとする。しかしその一撃は僕に届くことはなかった。いな、ふるわれることもなかった。超高速の一閃がビルボさんの頬を掠めたからだ。


 「はぁ、はぁ。ともこちゃんを救う邪魔をするというのなら、私も容赦はしません」


 いつもはほんわかしたオーラを発している三上さんが、鋭い表情で槍をふるっていた。

 そうなのである。三上さんは決して弱くない。ただ戦うことが嫌いなだけで、戦闘の才能は実は高いのだ。レベルは低いが、このように不意を突けば格上にも通用する無駄のない美しい槍を振る。


 「はは、まさかこんな虫も殺せないような娘もここまで実力があったとはな。お前達には驚かされる。一見すると神宮寺達よりも華がないが、実力はあいつら以上だな」

 「ほめられてもあまり嬉しくないですね。まるで僕らを雑草みたいに言わないでくださいよ」


 「お、お前ら落ち着けよ。お前達で争ってもしょうがないだろう。ここは冷静に話あおうぜ」


 ペロンギさんが僕達の間に入って、戦いを止めようとする。

 しかし最早戦いを止めることはできない。


 最初に会話を拒絶してきたのは相手の方なのだから。

 

 こうしてる間にもタイムリミットは刻々と迫っている。

 


 

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