剣神でお義父様なビルボさん
どういうわけか戦うことになったペロンギさんと、お義父様であり“剣神”でもあるビルボさん。
僕と三上さんはぽかんとしながらも、しかし二人をほっておいて“全知の賢王”に会うわけにもいかず、二人がにらみ合っている様を体育座りをしながら見守っていた。
「何がどうなってるんだろうね?」
「さぁ?この世界の人は何かと決闘したがる癖があるからしょうがないことなのかもしれないよ」
僕達はお互い状況についていけていない。最近こんなことばっかりだ。しかし今回は自分が戦うわけではないので気は楽である。試験とか言われて戦わされたりするかもなと思っていたからちょっぴり安心している。ペロンギさんには申し訳ないけどね。
両者剣を構えている。こんなところに模擬剣はないので真剣勝負である。
父であり、師でもあるビルボさんの構えは、ペロンギさんと全く同一のものであった。
「む・・・本当に戦うのか?」
「もちろんだ。強くなりたいと言って家を飛び出したんだ。どれくらい強くなったか確かめるのがすじだろう」
「く、そういうわないと外出させてもらえないと思ったからそう言ってただけで、別に本心でそう言ってたわけじゃない」
「いまさらそんなことは私には関係ない。どっちにしろおしおきは決定しているんだからな」
「あいからず堅物だな。俺だってここを出てから色々あったんだ。今日こそお前を倒す!」
「父親をお前呼ばわりするんじゃない!!」
両者同時に動き始める。
そして、そのまま目にもとまらぬ剣をふるう。もの凄い剣速であたり一面の花々が散って行く。
「ああ、お花さんが」
三上さんがぽつりと花が散る様子に悲しい顔をする。
この状況でお花を気遣えるなんて、まったく優しい人である。僕は、すぐに二人の戦いへと意識を戻す。
同じ技、同じ速度。一見すると互角に戦っているように見える。
だが、実際はビルボさんにかなり余裕があることがうかがえる。
「ほう、確かにかなり強くなっているな。レベルもそれなりに上がっているようだし、何より剣のキレが昔よりもよくなっている」
「ありがとよ。そんな余裕を持って言われても嬉しくないけどな!」
ペロンギさんが渾身の力を込めて剣を振る。
ビルボさんはそれを真正面から受け止める。僕だったら上手く受けれたとしてもすっ飛ばされるような一撃を、ビルボさんは微動だにしないまま受け止めきった。
「わかった。だが、しかしまだ未熟だな!」
ビルボさんはそう言うと、組み合ったままの状態から突然ペロンギさんの背後に移動した。
遠くから見ていた僕でも全く見えない動きだった。おそらくペロンギさんはビルボさんが消えたように見えただろう。
そして、ペロンギさんの後ろに回り込んだビルボさんは剣を首筋にすっと当てた。
「ま・・・まいりました」
ペロンギさんが降参をする。さすが“剣神”である。僕達からみたら化け物みたいにつよいペロンギさんにいともあっさり勝ってみせた。神宮寺君が戦っていた時のようなとてつもないエネルギーを感じたわけではない。しかし、確実に格上であると感じさせる力を持っていた。技といった方が適当だろうか。とにかくすごい戦いだった。
すばらしいと称賛しようとした時、ビルボさんがニヤリと笑い、そのままペロンギさんの頭をげんこつでぐりぐりとしだした。
「い・・・痛い。だから降参だってば」
ペロンギさんが涙目でそう訴えるもビルボさんの手はとまらない。
「うるさい。おしおきだって言っただろ。確かに強くはなったようだが、やはり勝手に飛び出したことは許せない」
「な・・・あんまりだ。ともたけ、ゆかこ、助けてくれ~」
ペロンギさんが助けを求めてくるも、相手はペロンギさん以上の怪物である。僕達ではどうすることもできない。僕はただ苦笑いを返すのみ。三上さんも困ったような顔し、そしてそのまま視線を下げて散っていた花をいじり始めた。
こうしてビルボさんのぐりぐり攻撃はしばらく続いたのであった。
「はぁ、はぁ、はぁ。お前ら恨むからな~」
ペロンギさんがつかれた様子でこちらに歩いてくる。こころなしか頭の両側が膨れているようにみえる。ぐりぐり攻撃恐るべし。
ビルボさんもやってくる。こちらは対照的にどこかすっきりしたような顔をしている。
「さて、お前達は武井ともたけと、三上ゆかこだな?」
「「はい」」
「賢王様から話は聞いている。珍しい客がくるとな。お前達も神宮寺達と同じ異世界人なんだろう?彼らはどこか特別な感じがしたがお前達はなんだか普通な感じがするな。別に悪いわけではないが」
「え!?神宮寺君達もここに来たんですか?」
「ああ、なんでもガガル王国の人達に話しを聞いてきたらしい。元いた世界に帰る方法を聞きに来たようだな」
「帰る方法があるんですか?」
「それは神宮寺達に聞けばいいだろう。その質問をしにきたわけじゃないだろう?」
「確かにその通りですね。では、“全知の賢王”に会わせて頂けますか?」
僕はじっとビルボさんの目を見て問う。
年齢不詳のビルボさんの瞳は今までみた誰良りも澄んでいる。エルフだからなのか、彼の性格ゆえなのか。澄んでいるというのは思考を全く読みとれないということでもあって、ピリッとした空気になる。
「ああ、ついてこい」
ために溜めて、ようやく短い言葉を口にする。
ようやく“全知の賢王”とご対面である。どんな人なのだろうか。
僕達がコテージの中に移動しようとした時、コテージの扉が開き、中から白髪と白ひげをはやした老人が出てきた。
「バギンス様!!」
ビルボさんが驚いた声を上げる。
あの人が“全知の賢王”か。はたしていったいどんな人間なんだろうか。
バギンスさんがこちらをじろりと見る。
ごくり・・・。
ビルボさんと違ってバキンスさんの瞳は全てを見透かすようだ。心の中まで裸にされている気分になる。
そして、バキンスさんはにっこりと笑ってこちらへ走ってきた。
「ペロンギや~。わかってたけどようやく帰ってきたか待ってたぞ~」
そして、ペロンギさんにハグをした。
どうやらビルボさんと違ってバキンスさんは孫好きのおじいちゃんだったみたいだ。




