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モブのままでは終われない!  作者: とんけ
第3章:モブのゲシュタルト崩壊
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到着だ~

 「動くなよ・・・・」


 ペロンギさんが小声で指示をする。

 僕達は岩の陰に隠れて、息をひそめる。僕達のすぐ近くを銀色の鱗におおわれた龍が歩を進めている。その大きさはケルベロスを軽く凌駕していた。10mはあるだろうか。和田君が見たら喜びそうである。


 ドシン、ドシン


 雪で覆われた大地を踏みしめる音が吹雪に埋もれることなく響き渡る。

 とてつもない重量感である。歩くたびに大地が揺れる。早く通り過ぎてくれ。

 見つかったらいくらペロンギさんがいるとはいえ無事にすむとは思えない。


 一瞬がとても長く感じる。


 ドシン、ドシン・・・・ドシン・・・・


 次第に足音がはなれていき、そしてその雄大な姿も吹雪の中へと消えていった。




 「はぁ、死ぬかと思った~」


 僕は止めていた息を思いっきり吐き出した。

 ペロンギさんと三上さんも安堵の表情を浮かべている。


 今僕達の横を悠然と歩いていた魔物は氷龍ニブルヘイムと言われている。

 それは神宮寺君達が討伐した古龍に匹敵すると言われている規格外の存在である。魔王を除いた全魔物のトップに君臨しているといっても過言ではない。魔物図鑑の文句なしのSランクである。そんな存在が通りすぎていたのであった。


 

 僕達は現在“全知の賢王”に会うために、ガガル王国を超え、その横に存在するビルビル山脈に来ていた。旅を初めて5日目である。ビルビル山脈はとても高い山々で、山を登り始めて2日目位から辺りは雪景色になっていた。地球と同じで高度があがると寒くなって雪が降るようである。

 予定ではもうすぐ到着するということで僕達は気が緩んでいた。そんな時にあいつはあらわれたのであった。

 

 「はは。お前達は運がいいな。私でも2回しか会ったことないぞ。ついてるかもしれないな」


 「2回も遭遇して無事だったんですか。そっちの方が強運ですよ」

 「まったくです」


 僕達はペロンギさんの過去にとても興味が湧いたが、しかし、またいつあの龍が戻ってくるかわかない。すぐに歩き始めたのであった。


 とにかく寒い。最初は雪に感動して三上さんと雪合戦なんかして遊んでいたんだけど、すぐにそれどころではなくなった。昨日の夜は洞窟で寝たんだけど、本気で朝起きれるのか不安だった。よくもまぁ、“全知の賢王”さんはこんなところで暮らしているものである。よっぽど人嫌いなのだろうか。


 ぶるぶると震えながら僕達は歩く。

 途中雪男のような白い毛皮に包まれた人型の魔物が襲ってきたり、サーベルタイガーの群れに遭遇したりしながらも僕達は順調に進んでいく。幸いにもニブルヘイムと再度出くわすことはなかった。


 そして、ついに、僕達はたどり着いた。


 「あ・・・あれが」


 僕はぽかんと口があく。隣をみると三上さんも同じようにびっくりしている。

 

 「ああ、そうだ。あそこに“全知の賢王”がいるぞ」


 なぜ僕達が驚いたかというと、雪山の中に花畑が広がっていたからである。

 ここはかなり標高が高い。1日前から360度一面雪景色であった。それなのにもかかわらず、僕達の目の前には一面花畑が広がっており、はてには蝶々が飛んでいたりする。


 「僕はやっぱり死んでいたのか。ここは極楽ですか」

 「なにを言ってるんだ。違うって。あそこ一体は何かしらの魔法器で外界から隔離されてるらしい。年中過ごしやすい気候になってるんだ」


 なんだそれは。便利グッズがでてきたな、突然。

 まぁ、それはいいか。


 しかし、ようやくたどり着いた。

 依然胸騒ぎは続いている。一刻も早くともこちゃんを助け出さなければ。


 僕は意を決して花畑の中へと入る。

 おお、暖かい。芯まで凍りつくかのような地獄の寒さから解放された。


 「やっと、やっと・・・」


 ばたり。三上さんが花畑へと倒れこむ。


 「三上さん!?」


 あわてて僕は三上さんのもとへと駆け寄る。

 うん、大丈夫。無事である。

 ただ極度の疲れで倒れこんだだけであった。


 花畑に倒れこんだ三上さんがこちらを見てにっこりと笑っていた。

 あいかわらずどんな時でも笑顔である。笑顔パワーが注入されすぎてやばいです。


 僕は三上さんに手を差し出した。


 「うー、もう少し横になっていたい気もするけど。ありがと」

 

 三上さんが僕の手を取って起き上がる。

 

 「さて、いこうか。ともこちゃんの居場所を聞きに」

 「うん」


 僕達は花畑のど真ん中に位置する質素な木造の建物を見る。

 山奥にあると言われればしっくりくるようなシンプルな建物だが、せっかくわざわざ雪山に温暖な気候を作って、さらには花畑まで用意してるのだから、家ももう少しちゃんとしたものを作ればよかったのに。そんな風に思わせる家だ。一階建てで、山小屋といった感じだ。

 

 「懐かしいなぁ」


 いや、うん、やっぱり良い家だな。家ってのはシンプルが一番なんだ。あれかな、コテージというかロッジというか。余計な物を一切そぎ落として、それでいておしゃれな感じ。きっと良い木を使っているのだろう。この世界の木は地球の木とは比べ物にならない位いい素材のものもあるしな。きっとそうだ。


 ペロンギさんは周りを見て、花の匂いを嗅いでいる。


 「きっと、“剣神”さんも“全知の賢王”さんもペロンギさんの帰還を喜んでくれますよ」


 僕の言葉でペロンギさんがぴたりと固まる。

 

 「う~ん、実は言ってなかったんだけど、半ば家出みたいな感じで強引に飛び出したんだよな。だから喜んでくれるだろうか。ビルボはもしかしたらまだ怒ってるかもな~」


 「ビルボ?」


 「“剣神”の名前だ。実質親父みたいなものだな。あ~、なんか考えてたら不安になってきた。俺、やっぱり帰ろうかな」


 「何言ってるんですか。せっかくここまできたんですから寄って行きましょうよ」

 「そうですよ。お父さん?も会いたいにきまってますよ」


 僕と三上さんはペロンギさんの手をとって歩き始めた。ずるずると引きづられるペロンギさん。本気で抵抗したら僕達ではひっぱれない。口ではこんなこと言ってるけどペロンギさんだって会いたいはずだ。


 そして、コテージの前へとやってくる。

 

 「開けますよ」


 僕がコテージの扉のドアノブをつかもうとしたところ、扉がすっと開いた。

 扉の先には耳がとがった30代位かと思われるイケメンが立っていた。エルフだろうか。


 「久しぶりだな、ペロンギよ」

 「う、ビルボ」


 ペロンギさんの顔がゆがむ。

 この人がペロンギさんの育ての親か。ということは仲良くなって損はなし!


 「こんにちは、おとうさ――――」

 「よし、そのまま表へ出ろ。勝手に飛び出していったおしおきをしてやる」


 ペロンギさんの予想は当たっており、お義父様は怒っていらっしゃったようである。 


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