砕けた心
僕達は今だ城門の前にいた。涼宮さんは、東堂さんと三上さんと合流して傷ついた人を癒している。
残ったみんなでタッタさんから事情を聴いていた。
「なんだって。そんなことがあったのか」
神宮寺君が眉をひそめて、タッタさんの話を聞く。
タッタさんの話によると、僕達がペロンギさんのもとへ向かってすぐにあのまがまがしい男がやってきたらしい。男とはいっても、あの時とは違う外見をしていたようだ。しかしその邪悪さからあの男で間違いないと感じだらしい。男はともこちゃんを狙ってきており、一緒に連れてきた赤鬼と青鬼がタッタさんの邪魔をしている間にともこちゃんを連れ去られてしまったのだそうだ。それとあの爆発は男がさりぎわに町に向かって何かを投げてそれが爆発したのだそうだ。
「その男、何やらきな臭いものを感じるな」
槍使いである葛城君も話から不穏な気配を感じたようだ。
「しかし、どこに逃げたのか居場所がわかない以上、こちらから手出しすることができないな」
轟君が腕を組みながら言う。
轟君が腕を組みながら立っていると、ものすごい威圧感でとても同じ高校生とは思えない。オーラが凄い。
「なに。次に何か行動を起こしたらその時に全て解決してやるさ。俺達ならできるさ」
「「「そうだな」」」
神宮寺君の言葉に、葛城君、轟君、そして弓使いの長宗我部君が応える。
僕達もよく同じようなことを口にする。僕たちならできるってね。
ても、彼らが同じ言葉を口にすると、自分たちの今までの言葉はまるで紙っきれのように薄っぺらいものに感じてしまう。
和田君と林君をみると、僕と同じような気持ちを感じているのか、どこか晴れない表情をしている。
「だから、君達は俺達に任せて待っててよ」
神宮寺君が僕達にそんなことを言ってくる。
確かに彼らからみたら僕達なんてちっぽけで頼りない存在なのかもしれない。しかし、ともこちゃんとともに時間を過ごしてきたのは僕らなんだ。僕達が助けにいかないでどうする。それに、相手が動くのを待っていたらともこちゃんがどうなるか。
「・・・・」
しかし、僕らは何も言い返せない。
「おい、そんなことを言われてるけど何も言い返さなくていいのか?」
タッタさんが僕達を見て言う。
それでもやはり僕達は何も言い返せないでいた。するとタッタさんは寂しそうな顔をして続ける。
「そうか。それなら俺は何も言わない。好きにすればいいさ。俺はあいつにピッピの木を破壊されたことの落とし前をつけさせる。1人でもやってやるさ」
そう言って、タッタさんは1人森の中へと消えていった。
ともにケルベロスを倒し、ピッピんのしずくを手に入れた仲間でであるタッタさんにあんな表情をさせてしまった。本当ならばここでたちあがるのが筋なんだろう。でも。。。。
「1人でやりたいというのなら、俺達もあえて邪魔はしないさ」
神宮寺君がタッタさんが消えて言った森を眺めながら呟いた。
「さて、俺達も城の復興を手伝おうか。君たちも落ち着いたら来てくれよ」
そう言って、神宮寺君達はいまだざわめきが残る城門の方へと足をすすめた。
残された僕達は一言も発さなかった。
ただただ虚空を見つめていた。瞳に涙を蓄えて。
翌日、本来は昨日開かれるはずであった勇者の帰還パーティは昨日の事件で多くの人がなくなってしまったために中止となった。代わりに、王様からスピーチが行われた。
「魔王の復活が迫る中、この城にも強力な魔物攻めてきた。以前の魔物の大進行の際には剣の勇者である神宮寺殿が偶然居合わせてくれたが、今回はほんの少し間に合うことができなかった。これからどんどんと危険は大きくなっていくだろう。しかし、国民よ、これ以上不安になることはない。彼ら勇者の皆さまにしばらく城に滞在していただくことになった。だから安心して今までどうりに生活してほしい。彼らは死者の軍団や、古の竜を見事に退治してみせた。昨日の魔物も一瞬で倒してしまった。どんな魔物がこようとも彼らがいれば絶対に安全だ」
王様のスピーチで町には平穏が戻った。
スピーチまでは昨日の事件でみな不安そうな顔をしていたが、夕方にはみんな元の表情に戻っていた。
僕達が召喚されて120日ほどが経っただろうか。わずか4カ月の間に神宮寺君達はこれだけの信頼を勝ち得たのだ。それはとてもすごいことで、僕たちみたいな人間にはとても真似できそうにない。
だから、これでいいんだ。ともこちゃんのことは彼らに任せて、僕達は普通の日常に戻ればいい。無職だけど剣の特訓はして、ペロンギさんとまた前みたいに特訓する。それでいいじゃないか。
僕は悶々としながら、いつも剣を振っていた河原の近くを歩いていた。
すると、前からヤンキーが歩いてきた。僕は絡まれないように下を向いて歩いていると、
「お、武井じゃないか。帰ってきてたんだな。どうした?そんなとぼとぼ下を向いてあるいてよ」
ヤンキーはあの、NEET軍団隊長の飯室君であった。
「飯室君か。そっちこそどうしたの?ぶらぶらして。仕事の面接でも受けてきたの?」
「はは、馬鹿にしてやがるな?ちょっと息抜きに散歩してただけだよ」
「散歩、ねぇ」
僕の仕事の面接というはブラックジョークであったが、散歩というのもまたしらじらしい嘘である。飯室君は肩に木刀を下げ、服を汗まみれにしながら歩いてきたんだから。
「ははは、散歩だよ。散歩。それに今俺働いてるからな」
「え!?働いてるの?NETT軍団はどうしたの!?」
隠れて特訓をしているということ以上に衝撃的なことをさらりと言ってのけやがった、こやつは。
「は?なんだよ。NEET軍団って。お前、俺達のこと馬鹿にしすぎだろ、マジで」
「いや、馬鹿にしてたのはあやまるけど、働いてるの??」
「ああ、働いてるぜ。町でマッサージ屋をやっている」
マッサージ屋・・・・?
肩とか揉んだりするあの?マッサージ?何かこちらの言葉で違う意味があるのか?
「え・・・あの肩とか揉んだりするマッサージ?」
「そうだよ」
「なんでまた一体」
働いているのもびっくりだけど、マッサージというのもこれまたびっくりである
「う~ん、シンプルな話、俺がマッサージ好きだったからだよ。地球にいたとしたらきっとこんなことはしてなかっただろうな。でもさ、ここにきて不満たらたらで生きてて、で、俺よりも格下だと思ってたお前に2回もボロボロに負けて、なんかもーどうでもよくなってさ。それで、やりたいことをすることにしたのさ」
「そ・・・・そうなんだ」
「本当は俺達、お前にぼこぼこにされなかったら城に侵入してお宝盗むつもりだったんだぜ?笑えるよな」
何か計画をしていたみたいだったけど、そんなことをしようとしていたのか。
恐ろしい子達である。
「あの秘密基地に集まってたみんなでやってんの?」
「いや、女子連中はこの国の貴族たちに拾われて貴婦人やってるよ。メガネとチャラ男の5人でやってる。俺とチャラ男がマッサージして、メガネが色々運営とか宣伝とかその他もろもろ雑用をやってもらってるって感じかな」
「すごいね。ちょっと前までは本当に不満しかない感じだったのに」
僕達がペロンギさんを救いにいってる間に、みんなも色々とやっていたのだな。
「お前のおかげだよ。ただの雑魚だと思ってたお前にぼこぼこにされたから、色々考えることができたんだよ。お前も何もやってないようで色々やってるのに、俺達がこのままでいいのかなってさ。今では俺達が一歩リードだな」
「飯室君も僕のこと馬鹿にしすぎでしょ」
「ははは、お互いさまだろ」
僕達はお互いに笑いあった。さっきまでの憂鬱な気持ちがどこかへと消えていた。
人と話すことで気持ちというのは簡単に変わるものである。
僕は、理由はわからなかったけど、飯室君と話してもうすこし頑張ってみようと思ったのであった。




