ピッピの木を目指して
僕達がピッピの木を目指して10日ほどが経過した。
途中何度か集落を発見したものの、ともこちゃんを知る者は誰もいなかった。もう7日も歩いているのだ。裸でいたことを考えるとこんなに遠くまで来ているとは考えられない。本当に一体全体彼女はどこからやってきたのだろうか。
「なぁ、まだつかないのか?」
「もうすぐ着くから安心しろ。今日中には着くぞ」
「お、まじで。ついに到着か」
先頭を歩くタッタさんと和田君が何度目かのやりとりをする。
最初のうちはもうすぐとしか言わず、もう着くのかなと何度だまされたことか。しかし、ようやくそろそろ到着のようだ。今日中ってのもまた範囲が広いけどな。
「パパ、良かったね。やっと辿り着くみたいだね」
「ああ、早くペロンギさんにしずくを届けなきゃだな」
「それはそうだけど、パパの傷も治さなきゃ」
「そうだな」
ともこちゃんは未だに記憶は戻らないし、自分を知る者に全然会えないでいるというのに僕の心配をしてくれている。とても強くて心優しい少女だ。なぜこんなにも僕になついてくれているのかもわかならいままなんだけどね。
とにかく、しかし、パパは鼻が高いよ。
「鼻の下伸びてるわよ」
東堂さんが指摘する。
僕が怪我をしてからしばらくはしおらしくなっていたが、最近は以前のようにちょっぴりとげが復活していた。良いことである。
「なんでにやけてるのよ」
「いや、別に嬉しくてさ」
「意味わからない」
意味はわかなくてもいいさ。
やっぱり東堂さんはこれくらいがいいんです。申し訳なさそうにしてるのも新鮮でよかったけど、やっぱりこれくらいきついほうがしっくりくる。
僕達は道なき道をタッタさんの案内で突き進む。
茂みから魔物が飛び出してきた。僕はそれを無駄の少ない動きで迎撃する。
道中の魔物はもはや僕達の敵ではない。
視力と右腕が使えない僕でも、あっさりと倒すことができる。
最近は、人によってオーラというかなんというか生命エネルギーみたいなものを感じることができるようになってきていた。気ってやつだろうか。
魔物は黒いオーラを放っているのでよくわかるのだ。
「おお、もはや目が見えないとは思えないな」
「第七感ってやつに目覚め始めてるのかもね」
「それをいうなら第六感じゃね?」
実際はそうかもしれないけど、第七感だと思いたいのだ。
いずれは防具を脱ぎ捨てて戦ったりしてみたい。しないけどさ。
しかし、和田君にわかってもらえないとはな。
第七感じゃなくて、ちゃんとセブンセンシズって言えば伝わったかな?いや、駄目かな。言いたいけどもう言いなおせないよ。
「まぁ、そうともいうのかな」
「そうとしか言わないだろう。第七感ってなんだよ。」
はははと笑ってさらに歩く。
歩く。歩く。歩く。
そして、辺りが暗くなってきた頃、
「あ・・・・」
和田君が立ち止まる。
「ウソだろ・・・・」
「お・・・・大きい」
「記述以上だ・・・・」
みんなも立ち止まって呟く。
「え?どうしたの?」
「パパ、着いたんだよ。ピッピの木に」
ともこちゃんが説明してくれる。
僕も集中して周囲の様子を探ってみると、驚くほどのエネルギーに満ちた巨大なものが目の前にあることに気付いた。
「こんな気配に気付けなかったなんて」
僕が驚愕していると、
「それはしょうがないってもんさ。人間に悪用されないように俺達の祖先が作った認識を阻害する魔法器が作動してるからな」
タッタさんが何かしらごそごそとしながらそう言った。その認識を阻害する魔法器とやらを止めたのかもしれない。
「さぁ、早くしずくをとってくるんだ」
僕達はピッピの木へとさらに近付いていった。
しかし、木の根元へと近づいてみると。
「そんな・・・・嘘でしょう」
東堂さんが驚愕の声をあげる。
僕にもすぐに原因がわかった。
ピッピの木の根元には魔物が放つ気よりもさらにどす黒い気を放つものが立っていた。
僕はその気を忘れることができなかった。頭の中で何度も何度も繰り返し思い返していたものだった。
「お前は・・・・」
「ふふふ。久しぶりですね。あなた生きてたんですね。しぶとい人ですね」
ペロンギさんに呪いをかけた、あの忌々しい男がそこにいたのだった。
「このやろ~」
僕は男に向かって駆け出した。
目が見えなくてもわかる。まがまがしく毒々しいオーラに向かって思いっきり剣をふる。
男は軽々と跳躍して僕の剣を避ける。
「いきなり何をするんですか。私はこの忌々しいピッピの木を破壊するところなのです。邪魔をしないでいただきたい。・・・・ん?」
男は何かに気付いたように言葉が詰まる。
「どうした!降りてきて僕と勝負しろ!!」
僕は男に向かって叫ぶ。しかし、男はそんなことは気にもならないといった感じで笑いはじめた。
「くくくく・・・・。私はなんて運がいいんでしょうか。城を落とせずダンジョンまで攻略されてしまいましたが、自暴自棄になる必要なんてなかったのですね。すべてはここに至るための布石。君達その子を私に渡しなさい」
とも子ちゃんが僕の腕をぎゅっとつかむ。
この子をこんなわけのわかならい男に渡す?
そんなわけないだろう!
「何を馬鹿なことを言ってるんだ!どうしてお前みたいなやつにともこちゃんを渡さないといけないんだ」
「ともこちゃん・・・・?勝手に名前などつけているのですか。全く。なんと恐れ多いことを。すぐに渡せばここまでその子を連れてきてくれた礼に見逃してやろうかと思ってましたが、皆殺し決定です!!」
そういって、木々の反動を利用して男はものすごい勢いで跳躍した。
男が跳躍すると同時に僕の横からふたつの風が飛び出し、男にするどい一撃を与えた。
「!?」
男は地面に激突する。
「おいおい。ここにはお前達二人しかいないわけじゃないんだぜ。油断しすぎだ、このやろう。今度は前みたいに逃げるだけではおわらないぜ」
「なんだこのまがまがしい男は。ピッピの木を破壊する?そんなことさせるわけがないだろうが!」
和田君とタッタさんがびしっと決めた。




