宴と修行
僕達はケルベロスを倒し獣人の集落へと戻ってきた。
三上さんは僕の怪我に驚いていたが、東堂さんの表情から何かを察したのかあまり追求してくることはなかった。ともこちゃんもとても心配してくれたが、すぐによくなるよと言ったら「それなら良かった」と言って僕の腕にくっついてきてしばらく離れなかった。
そうこうしてるうちにマッチ村長もやってきてあれよかれよと宴の準備が進み、
「それでは、村のために散っていた我らの英雄達をしのび、またこの村を救ってくれた英雄たちをたたえ、かんぱい!!」
マッチ村長の乾杯の音頭で宴が始まった。
どこにこれだけの人数がいたのかというほど人々があふれ、にぎやかにお酒を飲んでいる。
僕達も村の中心のテーブルに座り、いろんな人々と会話を楽しんだ。
「あのね、みんなを待ってる間にすごいことがあってね、ちょっとともこちゃんあれやってみて」
三上さんが興奮した様子でともこちゃんを呼ぶ。
「わかった」
そう言って、僕の隣に座っていたともこちゃんが立ち上がり「ファイア!!」と呟くと、突然ものすごい熱量が発生し、そして上空で炸裂した。
「おおお~」
僕達は感嘆の声を上げた。
いや、しかし、ん?
「え、ちょっと待って!この世界って魔法器がないと魔法は発動できないはずじゃ・・・・炎の杖でも拾ったの??」
僕が疑問の声をあげると、
「ううん。炎の杖なんて拾ってないよ。ともこちゃんが何も持たずにやったんだよ」
「え?そんなことあるの?」
「まぁ、実際こうやって魔法を使ってるんだからあるんだろうよ。すごいな~ともこちゃんは」
みんなお酒で酔いが回っているのか、すごいすごいと言ってともこちゃんをほめはやす。
「林君、そこのところどうなの?」
「ん~、なんでもエルフやなんかは魔法器を使わなくても魔法が使える人もいるらしいから、ないことはないんじゃないかな?」
林君まで息を酒臭くして、特に疑問を抱いていないようだ。
案外普通のことなのかな?
「すごいな。水も出せるのか?」
「出せるよ。ウォーター」
「おお~、これなら外で新鮮な水が飲めるな」
タッタさんまですんなりと受け入れている。
まぁ、異常なことだったらもっと大変なことになってるか。
僕も深く考えるのをやめた
「私こんなことできるんだよ!だから今度は一緒に連れて言ってね」
「わかった。わかった。もう少し安全なところだったらね」
「うん♪」
こうして、僕達は夜遅くまで飲み明かしたのだった。
この村を出発するのは一日休んで明後日になった。
翌朝、僕は村のちょっと離れた場所に和田君といた。
「本当にやるのか?」
和田君が困ったような声を上げる。
「ああ、今日中に感覚をつかまないと足手まといになっちゃうからね」
「わかったよ。かる~くいくからな」
「お願い」
和田君には視力を失った僕の修行に付き合ってもらっている。
木刀を持ち、それを避ける修行である。
まずは聴覚や触覚、嗅覚を使って今までと同じように周りの状況を把握しなければならない。
「よし、それじゃあ。とりゃ」
和田君が剣を振る。
和田君の声や土を踏む音、そして木刀が空気を切り裂く感覚を感じる。
「よいしょ!」
僕は和田君の横に振った剣をあえてぎりぎりのところで避けてみる。
無事に木刀は僕のお腹ぎりぎりを通っていく。
「おお!じゃあもうすこし速く」
そう言って和田君が僕の懐に入りこんでくるのを感じる。そのまま木刀を振り上げる、のだろう。
僕はそれに合わせて今度は左手で和田君の体勢を崩してみる。
和田君が「うわ!」と言って体勢を崩す。
「案外わかるよ。もっと本気で来ても大丈夫かな」
「言ったな」
体勢をくずされたことでちょっぴり怒ったのか、和田君が一気に移動する。
僕の後ろに回り込み、木をつたって上に飛び、縦横無尽に動きまわる。
く・・・・これは流石に
僕の真横で動きが止まり、一気にこちらに向かってくるのを感じる。
僕はとっさにそちらの方へと向きを変える。
しかし、向きを変えるだけが精いっぱいで、
「ぐあ!」
僕は和田君の一撃を横腹に思いっきり受けてしまうのであった。
「あ、悪い悪い。ちょっとマジになりすぎちゃった」
「いや、本当に痛いよ。てか、視力無事だったとしても今の動きに反応できた自信がないんだけど」
「ははは。ケルベロスを倒してから体の調子が絶好調でさ。レベルが凄い上がってるのかもな」
和田君が手を伸ばし、僕が起き上がるのを手伝ってくれる。
「次はもう少し軽くお願い」
「わかった。わかった」
こうして、僕達の修行は夕方まで続いた。
途中からタッタさんも合流して、和田君とタッタさんの一騎打ちがあったりして、なかなか充実した修行であった。
そして翌日、僕達は村の入り口にいた。
最初にマッチ村長に絡まれた場所だ。
「それじゃあなごり惜しいが、さらばじゃ。タッタも務めをしっかりと果たすんじゃぞ」
「はい、ご協力ありがとうございます」
「おう、俺が確実にピッピの木まで案内してやるぜ」
僕達はマッチさんたち獣人の人々に別れを告げ、ピッピの木を目指した再び森へと旅立った。




