VSケルベロス 後編
「残り2つ・・・・」
ケルベロスの頭は残り2つ。
しかも一つの頭は最初のタッタさんの一撃と、僕の一撃で瀕死の状態である。
これならいけるかもしれない。
しかし、手負いの動物というのは危険なもので、ケルベロスもまた頭を一つやられたことでより凶暴になっていた。
「グォオオオオ」
ケルベロスが雄たけびを上げる。
そして、2つの頭から広範囲にわたって火炎弾を無作為に噴き出した。
「やばい!!!」
僕は必死に避ける。
ケルベロスの口から吐き出された炎は大砲のようにもの凄い速度で発射されている。
く・・・・避け続けるのも容易じゃない。
みんなは大丈夫か!?
火炎弾の一つが東堂さんに迫っているのに目が行く。
東堂さんはとっさのことで動けていないように見える。
僕は東堂さんと火炎弾の間に割り込んだ。
「武井君!?」
東堂さんの叫び声が聞こえる。
時間がゆっくり流れているように感じる。
盾も持ってない。さて、一体どうやって凌ごうか。
火炎弾が眼前へと迫る。
僕はだめもとで火炎弾に向かって剣を振った。
真っ二つに切り裂ければ軌道がそれる。もしくは剣だけが犠牲になってくれれば。
しかし、どちらの予想も裏切られ、僕は炎に呑みこまれてしまったのであった。
「ぐあああああああああ」
先ほどの以上の熱さが僕を襲う。
呼吸ができない。僕は地面を転がりこむ。
そんな僕に布をかぶせて消化する。
「大丈夫か!」
林君が来ていたローブか何かで火を止めてくれたようだ。
熱さで目が見えないので、声でしか判断できない。
ケルベロスの火炎弾の嵐は止んだようだ。
「ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!」
東堂さんが必死にヒールをかけてくれている。
次第に痛みが和らいでいく。
「も・・・・だ・・だぃ・・・じょ・・ぶ」
喉も焼けて声が上手くだせない。
「ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!はぁ。はぁ。はぁ。」
東堂さんの呼吸が乱れる。
東堂さんの頑張りのおかげで、痛みが完全に消える。
「ありがとう。もう大丈夫みたい」
僕はそう言って、目を開けようとする。
しかし。
「目が・・・・見えない?」
痛みが消えたにも関わらず、全く目が見えなくなっていた。
―――――そ・・・・んな。
僕はしかし、剣を取って立ち上がろうとする。
しかし。
「あれ・・・・」
いくら探しても剣が拾えない。
いや、それ以上に
「右腕の感覚がない・・・・」
僕の目と右腕は完全に使い物にならなくなっていた。
「そんな・・・ヒール!」
東堂さんがさらにヒールをかけてくれる。
しかし、視界と右腕の感覚は戻らない。
「ダメみたいだ・・・・」
「そんな・・・・私のせいで」
東堂さんが酷く悲しげな声を上げる。
「東堂さんのせいじゃないよ!それより、ケルベロスは?」
今は自分の状態よりもケルベロスだ。
「そんなこと言っても・・・・ケルベロスは今和田君とタッタさんと林君の3人で戦ってるよ。火炎弾をはききったらなんか動きが鈍ってるみたいにみえる」
僕は耳をすます。
和田君達の掛け声と、ケルベロスのおたけびが聞こえてくる。
ケルベロスのあげる雄たけびはどこか悲鳴のようなものが多くなっているように感じる。
「これで、終わりだ~!!」
「おおお~!」
和田君とタッタさんの叫び声が聞こえる。
そして、その刹那、ケルベロスの最後の悲鳴が響きわたった。
ドサ・・・・
巨体が倒れる音と、その衝撃が伝わってくる。
「倒したよ!あんな化け物を倒したよ!!」
「やったね!」
僕達は怪獣のようなケルベロスを無事に討伐したのであった。
いや、無事ではないか。
ダンジョンからの返り道。
「私のせいでごめんなさい」
東堂さんがもう何度目かになるかわかない謝罪をしてきた。
「本当に東堂さんのせいじゃないから気にしないで。それにレベルのおかげが、視覚以外の感覚が鋭敏になってるおかげで思ってたよりも不便じゃないからさ」
そうなのである。
視覚は見えないが、音やにおい、肌に触れる風の感覚などである程度周りの状況がつかめるのだ。これはレベルの影響か。はたまたペロンギさんの特訓のおかげで達人の域に突入したのか。そんなことみんなには言わないけどね。
「ああ、俺達獣人も目をつむっても臭いでだいたい状況がつかめる。人間だってレベルがあがれば同じようなことができるかもしれないな」
タッタさんもフォローをしてくれる。
「目がみえない剣士ってのもかっこいいじゃん。なんかあったよな。そういう映画」
和田君の場合はやっぱりきっとフォローとかじゃなくて、本当にかっこいいと思ってそうだな。
「だからさ、本当に気にしないでよ」
僕だって自分のせいで誰かが傷ついたらきっと自分を責めてしまう。それこそペロンギさんの時のように。だからいくら僕が気にしないでといっても無理なことはわかる。
「わかったわ。わかったけど・・・・」
でも、いざ、こうやって助けた上で自分が大けがをおってみると、助けた側も複雑な心境だいうのがわかる。僕がもう少し強ければ、助けた相手にこんな思いをさせないですんだのにという思いが胸に湧き上がるのだ。
やっぱり自分がもっと強くなって、助けられる側も安心できるようにならなきゃな。
視覚と右腕を失ったけど、僕はしかし前向きになれた気がする。
「もしかしたら、ピッピのしずくで治るかもしれないぞ」
タッタさんがそう呟く。
「え・・・・。そうなんですか」
僕はポカーンと口が開いてしまう。
「ピッピのしずくは万病や呪い、さらには怪我なんかも治す効果があるらしいからな。今回の討伐はお前達がいなかったら倒せなかっただろう。少なくとも治療してもらえなければ尻尾の一撃で終わりだった。だからさ、俺が責任を持ってピッピの木まで案内してやるぜ」
異世界でよかった。でもちょっと決意を踏みにじられたような気もする。嬉しいんだけどさ。
「よかった。よかった~」
僕よりも東堂さんの方が喜んでいる。
泣いている・・・・のが目が見えない僕でもわかる。
やっぱり、二度とこんな思いをさせちゃいけないな。
決意だけは僕の心に残り続けたのであった。




