VSケルベロス 前編
「で・・・・でかい」
扉をあけるとそこには思っていた以上に巨大な生き物がいた。
一つの体に三つの頭。ケルベロスってやつだ。顔だけで僕達と同じくらいの大きさがあり、全体では3階だてのアパート位はあるだろうか。
異世界に来て初めての巨大モンスターである。
魔物というより怪獣って感じだ。
「はは・・・・腕がなるぜ」
和田君が僕の隣で足をぶるぶる震わせながら呟く。
すると、僕の視線に気づいたのか
「武者震いってやつだぜ」
そんなことを言っているが顔色も悪い。
「タッチ隊長のかたき!覚悟しろ!!」
僕達が予想以上にビックで巨大でグレートなその体型にビビっているなかで、タッタさんだけは復讐心で目が燃え恐れを全く感じていないようだ。
そして、一気にケルベロスのもとへと駆け出した。
「よし、僕たちも行こう!きっと勝てるよ!」
「「「おう!」」」
タッタさんに続いて僕たちもケルベロスへと駆け出す。
タッタさんが腕に付けた爪、RPGなどでよくある鉄の爪をケルベロスの頭の一つへと切りつける。
しかし、それを他の頭が邪魔をする。
するどい牙がタッタさんを襲う。
「く・・・・」
タッタさんはとっさに防御態勢をとる。
しかし、その牙がタッタさんへと直撃する前に2つの矢がそれぞれの頭へと突き刺さった。
林君が放った矢である。
タッタさんはちらりと林君の方を見て
「すまねぇ!おら~!!」
当初の狙い通りケルベロスの真ん中の頭を鉄の爪で切り裂いた。
「ギョアアアアアアアア」
ケルベロスが悲鳴をあげる。
僕と和田君もその隙に、他の二つの首元へと切りつける。
「はぁああ!!」
全力で剣をふったものの、剣が毛皮に埋もれるだけで切ることができない。
「な・・・・」
僕が一瞬戸惑った刹那、ケルベロスの頭の一つが僕へ向かって火炎弾を吐きだした。
とっさに盾でガードするも、炎は僕の全身を包みこみ、また吐き出した際の衝撃で僕はボス部屋の壁際へと吹き飛ばされた。
「ぐぁああああ、熱い、熱い!」
僕は半分溶けかかった盾を捨て地面に転がることでなんとか火を消しとめた。
火炎弾の直撃を受けた盾はいまだ燃えており、鉄でできた盾であるにも関わらず半分ほど溶けかかっている。
「武井君!!」
東堂さんが僕に駆け寄ってヒールをかけてくれる。
「ありがとう。大分ましになったよ」
「よかった。でも、あんな怪物どうやって倒せっていうのよ・・・・」
僕は膝をつきながら戦闘を見る。
初めにタッタさんの一撃を与えたものの、それ以降はこちらもいい一撃を加えられていない。
和田君の大剣の一撃でさえ、ケルベロスの首を落とすことはできなかったようだ。
ケルベロスのかみつき攻撃と火炎弾による攻撃をなんとかやりきるだけで精いっぱいのようだ。
「・・・・東堂さん、ちょっと離れてて」
「何をする気なの?」
「ちょっと試してみたい技があってさ」
「わ、わかったわ」
東堂さんが僕から距離をとる。
試してみたい技。それはもちろん道中でも使ったカウンター技である。
「おい!!!」
僕は腹の底から大きな声を上げる。
ケルベロスが一瞬こちらに目を向ける。
しかし、そのまま3人との戦闘へと意識を戻した。
「・・・・」
ちょっぴり恥ずかしい。
こういう時はこっちの思惑に乗って突撃してきてくれよ。
東堂さんもこっちを心配そうにみているよ。
「うあああああああ!!」
僕は恥ずかしさを心の奥にしまいこみ、全力でケルベロスの元へと戻る。
「大丈夫だったか?」
和田君が大剣を構えながら尋ねる。
「大丈夫。でも、あの火炎弾は危険だから絶対に受けちゃだめだ。鉄でできた盾が溶けかかってた」
「まじかよ。こえーな」
ケルベロスが話していた僕達に向かって火炎弾を放つ。
「危ない!」
僕達はそれぞれそ火炎弾を避けてケルベロスへと接近する。
そして再度ケルベロスの頭に向かって、剣を振る。
しかし、はやり切ることはできない。
それなら!
僕は剣の構え方を変える。
刺突でケルベロスの分厚い毛皮をぶち抜いてやる!!
いざ突き刺そうとした瞬間、ケルベロスが体を大きく回し、強烈な尻尾で僕達をなぎ払おうとする。
僕はそれをぎりぎりジャンプすることで回避する。
「がはっ」
タッタさんがよけきれずにその鋭い一撃をくらってしまう。
そして、壁に激突する。
ここにはヒールが使える東堂さんがいる。
きっと大丈夫だ。
僕は意識をケルベロスから離すことなく、地面に足が着いた瞬間に走り出す。
狙うは無防備になった背中!
「うおおお!!!」
僕は力いっぱい剣を突き刺した。
先ほど切れなかったケルベロスの毛皮を剣がつき抜き、肉を刺す感触を感じる。
「よし!!」
僕はすぐに後ろへと飛んで距離をとる。
突きならばケルベロスの分厚い毛皮を突破できるぞ。
しかし、どうやら傷は浅いようだ。
ケルベロスは動じることなく、僕にかみつこうとせまってくる。
ふふふ・・・・ようやくたこちらの狙い通りに突っ込んで来てくれたか!
このまま突きで攻め続けようと思ったばかりであったが、カウンター技を決める潜在一隅のチャンスがやってきた。
僕は突きの構えからもう一度構えを戻す。
そして、ケルベロスが僕にかみつこうとした刹那、すばやく動きだし一瞬で剣を振り抜いた。
道中の魔物同様、切れなかった皮膚を切りぬいて、大ダメージを与える。
「よっしゃ~!」
しかし、僕がおたけびを上げた瞬間、他の頭が僕に向かって火炎弾を放つ。
――――――しまった!またか!
僕は先ほどの熱さを思い出し、目をつむる。
しかし、予想をこえても熱さはやってこない。
僕が目をあけると!
「油断するな!」
タッタさんが爪で火炎弾を一刀両断し、さらにその熱をもったままケルベロスへと叩き込んだ。
体から生成してるのだから熱にも強いような気がするが、しかしケルベロスの頭の一つはそのまま切り裂かれた威力と熱量で動かなくなった。
「おお!!」
僕が歓声を上げる。
「・・・・しかし今の熱で爪がおしゃかになっちまったみたいだ」
タッタさんの鉄の爪がどろりとけだしていた。
ケルベロスの頭は残り2つ。




