森の中の美少女
「パパ・・・・」
少女が僕に近づいてくる。
いやいやちょっと待ってほしい。
まったく心あたりがないんだけど。
ていうか、胸が、小さいけども柔らかい胸が当たってます。
「武井君・・・・武井君は他の男子達と違ってそういうことはしない人だと思ってたのに」
東堂さんがジト目をしながら言ってくる。
確かにクラスメイトの中には現地の女の人とそういうことをしてる人がいるみたいだけども。僕はペロンギさん一筋でしたから。
「ともたけ・・・・今までそういうお店に行かなかったのは他に相手がいたからだったんだな。俺はてっきりペロンギさん一筋だからだと思ってたよ。人ってわからないものだな。俺は人間不信になりそうだよ」
和田君がどこか遠い目をしながら言ってくる。
人間不信にならないで。それであってるから。裏で何かしてたわけじゃないから。
「ここが地球だったなら年齢的に武井が父親である可能性はゼロなんだが、ここは異世界だからな。もしかしたらレベルアップとともに体が成長するのかもしれないし、父親の可能性もあるか。う~む、わからない」
林君が悩まし気に言ってくる。
そんな現実的に考えないで。多分異世界だって成長速度は一緒のはずだよ。お願いだから冷静に辻褄合わせしないで。
「武井君がパパかどうかはどっちでもいいけど、とにかくこの子に洋服を着せてあげようよ」
三上さんがそう言って、少女に自分の予備の洋服を着せてあげる。
うん、こういう対応を期待してた。小さいとはいえ裸の女の子が密着してると大変なことになってしまいそうだから。早く助けてほしかった。ありがとうございます。
「冗談はこれくらいにして、この子は一体だれなの?武井君の知り合い?」
東堂さんが空気を切り替えて尋ねてくる。
「いや、僕も全然知らない子だよ。だれかと勘違いしてるのかな?」
僕にはまったく身に覚えがなかった。こんなにかわいい子ならきっと多少は覚えているはずだ。角も印象的だし。
「そう。じゃあこの子に直接聞いてみるしかないわね。」
そう言って、少女のもとへと近づいていく。
すると少女が三上さんの後ろに隠れる。どことなくオーラが怖いのかもしれない。
僕もたまにぞくっとする時があるからわからなくもない。三上さんがわたあめみたいな感じだとすると、東堂さんは氷みたいな感じだからね。冷たくきらりと光ってる、みたいな。いや、本質は優しいんだけど見た目がね。
「みかを怖がってるみたい」
三上さんの後ろに隠れている少女も脅えた視線を向けている。
「ふぅ。私ってなぜか小さい子に好かれないのよね。私はすごい好きなのに」
「フシギダネ」
「なんで片言なのよ」
東堂さんが鋭い視線をむける。
そういう視線が怖がる原因だと思うんだけどな。あと、声もきついし。
「そんなことより、東堂さんは怖がられてるから三上さん聞いてみてよ」
「わかった」
そう言って、三上さんが少女の方に振り返って尋ねる。
東堂さんがいまだにきつい視線を向けてくるけど気にしない。
「お名前は?」
「わからない」
「パパとママは?近くにいるの?」
「パパ!」
そういって、僕を指さす。
「う~ん、おうちはどっちかわかる?」
「わからない」
「どうしてお花畑にいたの?」
「わからない」
僕がパパであること以外は何もわからないようであった。
「一体どういうことなんだ?記憶喪失か何かか?」
和田君がお手上げだという感じで言った。
「この子が誰でどうしてここにいるのかはわかないけど、この角的に獣人っぽいよね」
僕が言うと、みんなもうんうんと頷いた。
「もしかしたらこの辺に獣人の村があって、散歩の途中で迷子になってしまったのかもしれないな。それで山賊か何かに襲われて記憶をなくしてしまったとか」
「そうかもしれないわね」
林君の推理に東堂さんも賛成する。
獣人族が裸族でない限り、この子は何かしらの事情があって裸でいたことになる。こんなところで裸でいるということは何かしらに襲われたと考えるのが妥当だろうか。襲われたショックで記憶喪失というのも納得できなくはない。
「つらかったね・・・・もう大丈夫だよ」
三上さんがそういって、少女を抱きしめる。まだそうだと決まったわけではないけれど、何かしらのっぴきならない事情があるのだろう。
少女も三上さんに抱きしめられて、一瞬驚いたような表情をしてから安心した表情に変わった。
「村をみつけるしかなくなったね。もう少し頑張って探してみようか」
「そうだな」
こうして僕たちはこの少女のためにも獣人の村をみつけるべく、再度探索に移った。
少女は僕と手をつなぎながら歩いている。もう片方の手は三上さんとつないでいる。少女は森の中を楽しそうに進む。こうしているとまるで本当に親子のような気がしてきてしまうな。そうすると、三上さんがお母さんか、きっといいお母さんになるんだろうな。でも、意外に教育熱心なお母さんになるかもしれない。でも幸せな家庭を築ける気がする。
「何にやにやしてるのよ」
僕の妄想を東堂さんの鋭い刃が切り裂く。
「いや、幸せだなぁと思って」
「あ、そう」
そういってぷいっと顔をそむけてしまった。
和田君がそんな僕たちを見て、なぜか憎々しい視線を向ける。
「なんだよ?」
「いや、別になんでもない」
そういって和田君もそっぽを向いてしまう。
僕が何か悪いことでもしたのだろうか。
「おい、あれ!」
後ろがちょっぴりギクシャクしていると、先頭にいる林君が何かを見つけたように上の方を指さした。林君の指先をみると、まさにファンタジーとでもいうべき町の姿があった。木々の上に家らしき建物がずらーと広がっている。
僕たちがその景色にみとれていると、木々の上の建物から誰かが下りてくるのが見えた。
その人影は僕たちの前にストンと着地した。
「人間がこの場所に何の用だ・・・・」
獣耳を生やした中年の男性が僕たちにそう訪ねてきたのであった。




