いきなり休日
次の日、神宮寺達は朝早くに昨日話していたダンジョンに出発したらしい。
いまだ攻略者のでていないダンジョンらしく、国の人たちもレベル上げだけにとどまらずついでに攻略してしまえと騎士団の多くをつれて進軍した。
そんなこんなで人手不足らしく、僕たちは急きょ休日になった。
「なんか、だんだん扱いに差がでてきたよな」
和田君が僕の横でぼそりと呟く。
ふてくされたような顔で、悲しいことを言わないでほしい。
「そうだね。もしかしたらもう僕たちのレベル上げ手伝ってくれないかもね」
「おいおい。そんな怖いこと言わないでくれよ。そんなんじゃいずれ宿からも追い出されちまうよ」
「でも昨日ペロンギさんも一般人レベルにはなってきたなって言ってたし、区切りはいいよね」
この世界の一般人も僕たちと同じように若い時にウサギ狩りをしてレベルを上げるらしく、だいたいみんな10-15レベル位になるらしい。僕たちは昨日レベル5になっていた。ちなみにペロンギさんとは、一緒にウサギ狩りをおこなっている騎士の人である。
「いやいや、一般人レベルでお終いなら、マジで俺たち何の意味があって呼ばれてきたかわからねぇよ」
「それは確かにそうだけど」
「はぁ、なんか面白くないよなー」
そんな愚痴のようなものをこぼしながら、僕たちは街をぶらぶらしていた。
中世ヨーロッパを思わせる街並みは、散歩をするだけでもわくわくさせる。
冒険なんかしなくても、こんなに楽しいんだからいいじゃないか。和田君はわかってない。
「おい、現実逃避するなよな」
別に現実逃避じゃなくて、事実の確認さ。
「まぁ、でもせっかくの休日だし。今日は楽しもうぜ。お金もたっぷりもらってるわけだしさ」
「そうだね」
僕は国からもらったお金を思う。
金貨10枚。
金貨1枚10万円ほどの価値だから、だいたい100万円分だ。
ちなみに10万円の価値というのは、宿の一泊が銀貨5枚から逆算している。
銀貨100枚で金貨1枚の価値で、宿で一泊って大体5000円位だろ?5万円はしないよな?そんな感じで算出されている。ゆるゆるのがばがばな計算ではある。
「しかし、金貨10枚も多いのか少ないのかいまいちわからないよな」
「まぁね。世界の命運を託すには安いけど、日本の間隔だと結構もらってる気もする」
でも宿代と食事代、それに装備代も考えたら結構投資してくれてるのかもしれない。
ぶらぶら町を歩く僕ら。
武器屋をみたり魔法器なんかが売ってる店をみたりしてまわる。
魔法器というのは空気中に充満?している魔力を魔法という形で顕現させるものをいう。例えばお湯なんかがでる魔法器があったりするので、生活レベルはそこそこに高かったりする。部屋には空調を保つ魔法器もあるしね。神宮寺君たちの武器は魔法器でもあるようで、武器から炎がでたり氷がでたりするらしい。
「しかし、不思議だよな。魔法器っていうのは」
「そうだね。どういう原理なんだろうね。原子とかそういうものを分解・再構築してるのかな?」
「そんなSFな原理だったとしたら、ここは異世界じゃなくて地球のずっと先の未来とかって落ちもありそうだな」
僕たちがそんなくだらないことを話していると、
「おーい。武井君、和田君。こんにちはー」
「お、三上さんに東堂さん。こんにちは」
三上さんと東堂さんが僕たちのもとへと歩いてくる。
三上さんと東堂さんは僕たちと一緒にレベル上げを行っている仲間で、異世界にきてからほんの少し仲良くなったメンバーだ。
もともと女の子と話しりとかしたことなかったから、これだけはちょっぴり嬉しかったりする。
お互い暇を持て余していたので、一緒に行動することになった。
「そういえば、林君とは一緒じゃないの??」
林君とはレベル上げを行っている仲間で、メガネがトレードマークのナイスガイだ。
でも、普段はあまり一緒に行動していない。彼はどちらかといえば1人でいるのが好きな方であった。
「声をかけたんだけど、部屋でのんびりしたいってさ」
「そっかー。林君もいたらみんな集まったのにね」
こういう自分も含めて一つの集団と認識されていると思うと嬉しくなる。
特にかわいい女の子だと嬉しさもひとしおだ。
女の子と一緒にぶらぶら町を散策する。
冒険なんて本当に必要ない。これで十分だよ。
和田君の方をみると、彼もとてもにこやかに笑っている。すると、彼と目があった。
「・・・・・」
「・・・・・」
言葉は交わさなかったけど、お互い思いは一緒だった。
異世界転移さいこー!!!
何も不満なんてないのだ。
女の子と楽しい休日を満喫していると、門の近くに見慣れた人がいることに気付いた。
「ねぇ、あれってペロンギさんじゃない?」
僕がそう言って指をさすと、みんなもペロンギさんをみつけて、みんなで勤務妨害をすることにした。
「おーい、ペロンギさーん」
「ん?おお、三上さんとその仲間たちじゃないか」
こっちもこっちで扱いの差が露骨になってきている。
「なんだよ。そのくくり。差別反対」
「悪い悪い。冗談だよ。冗談」
「ペロンギさんはダンジョンに行かなかったんですか?」
「ああ、ダンジョンに行くのは国でも有力な騎士だけだよ。みんなレベル30以上のな」
「そうなんですか。ペロンギさんも強いのに、もっと上がいるんですね」
あの森からやってきた爬虫類を一刀両断したのを見て以来、僕はペロンギさんをとても評価している。
そんなペロンギさんがダンジョン攻略に呼ばれないなんてとても意外であった。
「俺なんて、中堅の騎士さ。お前らには悪いけどな」
そう言って笑う。
謙遜なのか、なんのか、僕にはわかならかった。
「あの、このまま僕たちのレベル上げは中止なんてないですよね??」
僕は不安に思っていたこと尋ねてみた。
もしもそうだとしたら、自分たちで計画だててウサギを狩らないといけなくなる。
冒険はする気はないけど、もう少し身を守れる位には強くなりたいからね。
「あ?そんなわけないだろ。お前たちだって異世界人だ。魔王討伐までは期待していないけど、街を守るのには期待してるぜ。」
「そうんなんだ。よかったー。俺たち捨てられるかと思ってたよ」
「あはは。確かに神宮寺達とは扱いがだいぶ違うからな。でも、あいつらは特別中の特別だからしょうがないんだよ。気にすんな」
飾り立てないまっすぐな言葉にとても安心した。
三上さんや東堂さんも同じような心配はしていたようで、安心した表情を浮かべている。
「じゃあ、あんまり邪魔をしても悪いですし、私たちは行きますね」
「おう、暇つぶしになったぜ。ありがとよ」
東堂さんがそう言って、僕たちはまた町の散策に戻った。
ペロンギさんの言葉通り、僕たちのレベル上げは神宮寺君達が帰還してから再開されることになった。
神宮寺君達は国の期待通りにダンジョンを攻略し、さらに強くなったようだった。