表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤錆色の霧  作者: 機乃 遙
パーフェクト・キス
35/67

死にかけた十字架を抜けて

 とりあえず、死の口づけ(キス・オブ・デス)に近づく情報は得ることができた。行政府がにらむ通りならば、現在ラリュングで起きている一連の事件は彼女の仕業だ。わたしのかつての同僚であり、巨人フォグの乗り手であった女……。

 わたしは、彼女はてっきり死んだものだと思っていた。霧の彼方に葬った記憶。彼女は、その中に生きている。だから正直なところ、わたしは死の口づけのことを正確に思い出せないでいた。だが、死んだということだけは、確信していた。

 ともかく、今は武器密輸犯を追うのが得策だ。わたしと同じ霧の向こうを知る彼女なら、向こう側の武器を売りさばいていても不思議ではない。

 わたしは、ラリュング市警察から出ると、ピルグリム・サーカス方面へとハンドルを切った。

 中央区はいつも人が多い。昼時ということもあってか込んでおり、交差点ラウンドアバウトの手前では大渋滞が起きていた。牛歩の列に一度入り込むと、あとはその流れに乗っていくことしかできない。わたしは退屈にハンドルをたたきながら、端末に言った。

「ラリュング・グローブのマリー・ライアルに電話して」

 まもなく、車載端末が電話を発信。マリーの携帯端末にコンタクトを取った。

「もしもし。なんですか、急に」とぶっきらぼうな口調のマリー。スピーカーの向こうでは、何か液体を飲むような音がしていた。コーヒーだろうか。

「ちょっと調べてほしいことがあるの。武器を密売している男を捜しているんだけど。特徴は――」

「ちょっと待ってください。武器密売ですって?」

「そう。あなたのとこのデスクになら、密売人の記録ぐらい残ってるでしょ?」

「まあ、公式の逮捕記録はすべてアーカイブ化してあります。あと、ウチで抜いた特集記事も。……で、今度は何を探してるんですか?」

「ある女性を捜してるの。で、その足取りを知るためには、どうやら最近起きてる事件を追わなきゃいけなくってね」

「最近の事件って……まさか、霧の向こうの兵器ですか?」

「その通り。警察はいつも通りの対応をしているけれど、最近起きている一連の事件には黒幕がいるみたいなのよ。霧の向こうの兵器が、ラリュングに迷い込んでるんじゃない。何者かが手引きをしているらしいの」

「それ、警察発表にありました?」

「ないわ。……それで、調べてほしいのは、密売人の男。特徴は、黒髪で長髪、色黒でラテン系の顔立ちらしい。わかる?」

「それだけでわかるわけないじゃないですか」

「でしょうね」

 わたしは嘆息した。相変わらず渋滞も進みそうにない。

「でも、少し気になってることはあります。マフィアがらみですけど。……先日、コンウェイ・ファミリーから破門された男がいるんです。知ってますか?」

「知らないわ」

「そうでしょうね。ウチも偶然に知り得た情報なので。まだ記事にもしてないんで、どこにも口外しないでくださいよ。

 その破門された男の名前は、ダヴィッド・ガンボア。主にクスリと武器の密売を行っていた、小売り人のリーダーといったところでしょう。ガンボアは、コンウェイ・ファミリーでも下層の人間でしたが、それでも売り上げを着実に伸ばし、上層部から一目置かれていたようです。ですけど一週間前、ガンボアがキリング・クロスの地下鉄ホームで拘束された状態で倒れているのが発見されました。見かけた通行人が救急車を呼んだそうですが、彼は逃げていったそうです。そして、目撃者の情報によれば、彼の胸元には焼き印が見えたと……」

「焼き印?」

「ええ。正確に何の印かまではわかりませんでしたが、おそらく破門された者を意味する『太陽の焼き印』だと思います。そして、その焼き印がされる者というのは……」

「ボスに背いたもの。しかも、コンウェイと言えば……」

「はい。ラリュング最大のマフィア、コンウェイ・ファミリーのボス、ミスタ・コンウェイは、百歳を越える長老です。そしてあの人は、かつて霧の向こうであった戦争を知る数少ない人物の一人です。ゆえに霧を恐れ、霧の向こうの世界を憎んでいます……ご存知ですよね?」

「もちろん。……だとしたら、破門されたガンボアは、霧の向こうに手を出してコンウェイの逆鱗に触れた……と」

「そう考えられませんか? ちょうどウェザフィールドさんの話と合致するかと。……実はガンボアが破門されたことは分かっていたんですが、その原因はつかめずにいたんです。これなら、辻褄が合いませんか?」

「そうね、なるほど。おもしろい推測ね。……ありがとう、マリー。ガンボアについて調べてみるわ」

「まさかコンウェイ・ファミリーに首を突っ込むつもりですか? 正気です?」

「正気よ」

 と、言いたいところだったが、目の前の渋滞を見ては、気が狂ってきそうだった。

 わたしはマリーに一言礼を言うと、また大渋滞と格闘し始めた。これは長期戦にもつれこみそうだ。


 キリング・クロスを抜けると、ようやく渋滞も落ち着いてきた。どうやら原因はトラックの横転事故だったらしい。事故を起こし立ち往生したトラックは、道のど真ん中に居座り、他のクルマの邪魔をしていたのだ。一時間ほどかけてようやく撤去されたみたいだが、それでも事故の影響は残り、渋滞が続いていたようだ。

 事故現場は、あまりよい様子では無かった。タイヤのスリップ痕と、何か液体が漏れただろう痕が残されていた。もしこれが薬品などを運ぶトラックだったら、一時間では収まらなかったはずだ。

 わたしは事故現場を横目に、キリング・クロス・サウスへと向かった。そこの先にはコンウェイ・ファミリーの屋敷がある。

 もしかすると、このトラック事故もマフィアの仕業なのでは?

 脳裏に一瞬そんな考えがよぎったが、余計なことは考えるべきではない。わたしはクルマを進ませ、マフィアの根城へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ