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お水遊び

 ゼンへの説明が終われば、今度は緩への報告である。


「て訳で、刺されはしたけど至玉で治った。治らなかった火傷もゾマが丁寧に薬塗ってくれたから大丈夫だ」


「そう、なんだ……」


 勝八が毒ナイフで刺されたことを報告すると、彼女は目を白黒させた。

 しかし毒の影響がなかった事が知れると、ホッと息を吐く。

 相変わらずの百面相である。


「背中に薬って、手で直接?」


「……足では塗らないだろ」


 だが、どうも吐息の意味は、安堵ではないようだ。

 間抜けな質問に、勝八は呆れた声で答える。


「そ、そうだよね!」


 薬を塗るのに足を使われるなど、自分はどれだけ嫌われているのだ。

 いや、光景を想像するとそれも悪くない気もするが。


「ゼンの前で尻まで揉まれて大変だった」


「お、お尻まで!?」


 考えながら、一応薬の話を補足する勝八。

 すると緩は、今までで一番大きな声を上げる。


「下の婆ちゃんに聞かれたら何事かと思われるから、それ叫ぶのやめろ」


「だって、勝ちゃんが変なこと言うから……」


 一応年頃の男女である。

 尻の話なんぞで盛り上がっていると勘違いされたら、出入り禁止になってもおかしくない。


 ついでに尻の影響で、異世界に歪みができても気まずいし。

 それでなくても、最近緩の尻が世界を潰したばかりなのだ。


「なんか他に気になる所ないのかよ」


 そもそも昨日は一晩で様々なことが起きたのだ。

 だというのに尻への食いつきが一番良いとは情けない。

 とんだおしりかじり虫だ。


「……だって、何だか色んなことが起き過ぎちゃって、現実感が沸かなくて」


 ジト目で見られ体を小さくする緩。

 彼女が口にしたのは、勝八にとって意外な言葉だった。


「いやいや。お前が作った世界だろ」


「あ、うん……そうだよね」


 勝八のつっこみに、力なく笑う緩。

 この反応は、言いたい事を我慢している時のものだ。


「俺の説明が下手なせいか?」


 幼なじみの直感でそれを見抜き尋ねる勝八。


「ち、違うの! そうじゃなくて……」


 緩はそれを、慌てて否定する。

 だが結局彼女は、おどおどと自らの心境を語りだした。


「私が作った世界のはずなのに、知らない事がいっぱい出てきて……それに、最近は、私が関わらないでも事件がどんどん進んじゃうし」


 お下げを垂らして語る姿は、仲間外れにされた子供そのものだ。


「なるほど……」


 世界には緩が制御できない闇ができ、それに彼女が積極的に関われないからこそ、勝八が派遣されたわけである。

 それが道理なのだが、勝八にも気持ちは理解できた。


「要するにアレだな。仲良い奴が別の奴と楽しそうに話してるみたいな」


 緩は人一倍、自分の作った設定に愛着を持っている。

 そのせいで取り残されたような気分になり、異世界自体に集中できないのだろう。


「あ……あの、それって」


 目を丸くした緩が、勝八をまじまじと見る。


「な、なんだよ」


 思い当たることがあったのか。それとも的外れだったのか。

 計りかねる勝八に、緩は首を横に振る。


「そうだね。その……勝ちゃんも楽しそうだし」


「楽しそうな俺に、嫉妬した?」


 何故そこで自分の名前が出てくるのか。

 少し考えて、勝八はそんな理由にたどり着いた。


 仲の良い『友人』が異世界を楽しんでいるせいで、疎外感がより強くなる。

 有り得る話だ。以前にも緩は、ゾマに嫉妬したと打ち明けたことがある。


「勝ちゃんって言うより、周りにかな……」


 しかし今回は、ご明察とは行かなかったらしい。

 聞こえるか聞こえないかの音量で呟く緩。

 

「周り?」


「な、何でもない! 今度からはちゃんと話を聞くね!」


 それは、勝八に届いてはならない言葉だったようだ。

 周り……蛮族だの忍者だの身分を隠した王様だのになりたいという意味だろうか。


「おう、俺も臨場感が伝わるように、刺されたり揉まれた時は感触をリアルに覚えて……」


「そ、それは教えなくて良いよ!」


 勝八なりの気遣いを見せるが、答えはノーサンキューである。


「お前もあっちの世界に行けたら良いんだけどな」


「うん……私も勝ちゃんと冒険したい」


「いや、冒険って言うか……」


 直接世界を見られたら、原因を取り除くのも楽だろうに。

 そんな意図の言葉だったのだが、何やら楽しそうに微笑む緩を見て勝八はそれを飲み込んだ。


 ――ポワリ。その時緩が手を置いた異世界設定本に光が灯った。

 だがそれに、勝八も緩も気づかなかった。



 ◇◆◇◆◇



 しかし、すべてを伝えると言っても、この姿は見られたくない。


「ぶぶぶぶぶぶ」


 水面に体を浮かべながら、勝八はエアーポンプの如く息を出していた。

 場所はグリフ地下遺跡。

 空気を抜けば自然と潜れる仕組みである。


「ガンバレ」


 きゅわんきゅわんという反響を伴いながら、ゾマの声援が聞こえる。

 現在勝八は、グリフ王に頼まれた潜水調査の準備中であった。

 とはいえこの準備、既に一時間もの時を使っている。


 勝八の脳に刻まれた死の記憶は存外強烈であり、彼から潜水能力を著しく奪っていた。

 頭を沈めることぐらいはできるのだが、地下遺跡の水深は約40メートル。

 どう頑張っても届かない。


「ぷはぁ!」


 体が沈みかける。

 そのタイミングで、またしても勝八は顔を上げてしまった。


「ウウム……」


「面目ない……」


 難しい顔で唸るゾマに男のプライドが傷つき、濡れ犬の風情でしょぼくれる勝八。


「苦手な物は誰にもであル」


「ゾマにも?」


「私はバシリスクの肉が苦手ダ。舌が石化シタ」


「そりゃ俺もダメそうだ」


 ゾマは慰めてくれるが、あまり前向きにはなれそうになかった。


「私が潜ってみようカ」


「いや、ゾマが潜っても石碑とやらは持ち出せないし、それに」


 泉の足を浸したゾマが、ちゃぷちゃぷとしながら提案してくる。 それを断って、勝八は立ち泳ぎをしながら泉の底を見た。


「キュールくんも言ってただろ。魔物が棲んでる可能性があるって」


 そもそも勝八達は魔物を退治するため、地下水路へとやってきた。

 ここで魔物を釣り上げ一応事態は解決したのだが、あの魔物が何処からやってきたかは謎のままである。

 泉と水路が何らかの形で繋がっており、そこから魔物が入り込んだのではないか。

 ゼンからの話を横流ししたところ、推論の一つとしてキュールくんはそんな可能性を挙げていた。

 お咎めがなかったことに胸をなで下ろしたり、超古代文明の遺産に興味津々なキュール君の姿もあったが、まぁそんなことはどうでも良かろう。


「泉と下水が繋がっているのなラ、ここの水も汚染されて然るべきではないカ?」


「そこはほら、超古代文明の力っぽい奴だろ」


 役に立てないことに不満げなゾマは食い下がろうとする。

 勝八はそれを、曖昧模糊な言葉ではぐらかした。


 というか水の底の調査というのであれば、もっと適任の人材がすぐ側にいる。


「なぁドロシア」


「……ふん」


 だが、勝八に呼びかけられた水の友達ドロシアは、鼻を鳴らして祭壇の向こう側へ泳いでいってしまう。

 彼女はどうも、泉の調査に乗り気ではないようだ。


「何だってんだ」


「浄化装置が見つかれバ、役目が無くなってしまうからナ」


 反抗期か。父親気分で口を尖らせる勝八。

 それに対し、ゾマは母親のような慈愛の笑みを浮かべる。

 ただ水に浸した足と腰布の間の風景は、「母ちゃん」と呼ぶには刺激的過ぎる案配だった。


「そんなもんか」


「そんなもんダ。頼られないのは寂しイ」


 平静を装いつつ魅惑の暗闇に目を凝らす勝八に、ぴしゃりと水をかけるゾマ。

 先ほどの続きだ。やはり彼女は勝八が命令してくれないことに不満を持っている。


「ゾマが見てくれてるだけで助かってるよ」


 別のことに集中していたせいか。

 勝八の口からキザなセリフがさらりと出た。


「……そんなものカ」


「そんなものだ。こんなトコ他の奴には見せられないしな」


 先ほどのやり取りを繰り返し、再び水面を睨む勝八。

 おかげで彼は、ゾマの頬が若干紅潮したのを見事に見逃した。

 

「神にもカ?」


 その間に平静を取り戻したゾマが問う。

 顔色は戻ったが、声がうわずるのは抑えきれなかった。


「緩には……余計にだな。あいつ無駄に心配するし」

 

 勝八は緩に、弱いところをなるべく見せないようにしてきた。

 いや、勉学に関しては弱みを見せがちなので、『頭以外の弱いところ』というのが正しいかもしれない。

 それは緩が心配性という理由もあるし、彼女がまた虐められた時に真っ先に頼られるような存在になりたいという理由もある。


 緩にはまだ、遠慮しているところがある。

 頼られないのは寂しい。

 だから、勝八は緩の前で強がるのだ。


「それに、ゾマには全裸だの死んでるところだの全部見られたしな」


 一方ゾマには、出会い頭に生まれたままの姿を晒している。

 勝八の死体を守ってくれたのも彼女だ。


 ゆりかごから墓場まで見守られたのなら、隠すものなどなにも無い。


「何でも見せられル。と、弱いところを見せたくなイ……カ」


 などと考える勝八の前で、ゾマがブツブツと呟いている。


「ゾマ?」


「どちらが良いのだろウ……後で聞いてみよウ」


 呼びかけると、彼女は自己完結して顔を上げた。

 ゾマが意見を仰ぐとなるとマリエトルネや娼婦のお姉さん達になるだろう。

 だが、間違いなく禄な事にはならない。


「やめとけ。特にマリエトルネはやめとけ」


 巡り巡って貞操が危うくなる予感がし、勝八は念入りに釘を差した。


「ワカッタ」


 了承の返事が貰えたことに安心した勝八は、さてと気を取り直す。


「やっぱ自分の体に任せちゃダメだな。岩でも括り付けるか」


 今考えるべきは、潜水する方法である。

 体が怖がるのなら、強制的に沈めてしまえばいい。

 そもそも今の体は緩の作った仮の体な訳で、自分の体というのもおかしいのだが。


「カッパチを沈められる岩などナイ」


「そういやそうだ。じゃぁ思いっきり助走つけて飛び込むとか」


「壁に刺さル」


 が、理論派蛮族ゾマはその辺りの案をまとめて却下する。

 確かに余程急角度にしなければ、勝八が全速力で飛び込むと勢いを殺しきれず途中で壁に刺さるだろう。

 それで終われば良いが、そのまま地下遺跡が崩壊しないとも限らない。


「じゃぁ後は気合いか根性だな……」


 二つも案が却下されれば、勝八の脳は限界を迎える。

 体と技術が通用しないとなれば、後は精神論しかない。

 知力体力時の運という言葉もあるが、それは第二の奥の手だ。


 世界の水問題。アゼータの問題。ドロシアの問題。

 これらを全て解決するには、勝八が水に潜れなくては始まらないのだ。


「……そんなに水が嫌いなの?」


 自身にプレッシャーをかける勝八の背中に、祭壇の周りをぐるり一周してきたドロシアが声をかけた。

 糾弾するような声色だが、振り向くとそこには不安げな眼差しがある。


「別に嫌いじゃねぇよ。むしろ好きな方だっての」


 親に捨てられそうな子供の瞳。

 それを察した勝八は、髪を撫でつけながら彼女の言葉を否定した。


「……本当に?」


「言ったろ。今度緩とプールに行くって」


 狂犬病でもあるまいし、勝八も水自体が嫌いなわけでない。

 窒息のトラウマが、潜水を躊躇わせているだけだ。


「プールとは、遊び場か何かカ?」


 それに対し、水際のゾマが首を傾げる。

 異世界にはプールに該当する言葉が無いらしい。


 そう言えば緩とプールに行くと話したときは、そこがどういう場所であるかという説明はしていなかった。


「こういう風に水が貯めてあって、そこで泳いだり水掛け合ったり……するところだ」


「そんなの、何が面白いのよ」


 が、勝八の貧弱な語彙では、プールの楽しさは伝えきれない。

 説明した自分ですら、ドロシアと同じ感想を持つほどである。


「後はこう、流れるプールとかもあってだな……」


 透き通る体で眉間にしわを寄せるドロシアに、とにかくプールの楽しさを説明しようとする勝八。

 その中で、彼はふと思いついた。


「ちょっと待ってろ」


 ドロシアに背を向けた勝八は、ドーナツ型をした泉をスイスイと泳ぎ出す。


「何やってるの?」


 急な行動にドロシアが困惑の声を上げている内にも、泳ぎのスピードはどんどん増していった。


「おおお前にも、たたた体験させて、ややややろうと思って!」


 フォームをクロールに変えた勝八は、壁に当たらないギリギリの速度を出しながら、息継ぎと共に言葉を吐き出していく。

 あまりのスピードに、彼の声は5.1サラウンドとなり部屋の全方位から響いた。


「体験って何を……ひゃっ」


 気づけば、ドロシアの体が勝手に流され始めていた。

 勝八の猛然とした泳ぎによって、泉に流れができたのである。

 それは嵐の海のようにごうごうと音を立て、ドロシアの体を洗濯機の汚れ物が如く翻弄する。


「きゃー!」


「わははは! これが、流れるプールだぁ!」


 激流に同化し悲鳴を上げるドロシアに、勝八は勝ち誇った声を上げた。

 水精霊が水に翻弄されるとは滑稽である。


「……神々の遊戯とはかくも過酷なのカ」


 少し離れたところに避難したゾマが戦慄している。

 妙な誤解が発生しそうなので、勝八は泳ぐ速度を弛めた。


「まぁ実際は……こんぐらいの早さかな?」


 シフトダウンした流れに身を任せながら、ゾマへと説明する。

 

「何すんのよ!」


 水に翻弄される経験など今まで無かったのか。

 半透明な顔を心なしか青ざめさせたドロシアが勝八へとバシャリ水流を飛ばす。

 形が戻りきっておらず、彼女の体は少し縦長に伸びていた。


 以前のように窒息させに来ないのは、勝八の症状を慮ってのことだろう。


「わっはっはっはっは! わっはっはっはっは!」


 その気遣いが嬉しいのだか恥ずかしいのだか単にテンションが上がったのだか分からないまま、勝八は水かけで彼女に対抗した。


「わ、ぷっ! この、この!」


 ドゴンドゴンと砲弾のような勢いでドロシアにぶつかる水。

 それによって今度はゼリーが如く崩されながら、ドロシアは消防車のような放水で反撃する。

 一見するとモンスター同士の決戦のような様相だが、ドロシアの口元はいつの間にかニヤケていた。


「楽しそうだナ」


 それを見とめたゾマが嬉しそうに、しかし一抹の寂しさを滲ませ笑う。


「わっふぁっふぁ、あ、あぶ! ゾマ! 助太刀してくれ!」


 直後、やはり水の扱いではドロシアに勝てないらしい勝八が情けない声を上げた。


「ドロシアを手伝えば良いのカ?」


「違っ! そっちじゃないって!」


 喜々としながら着水するゾマ。

 こうして彼らは、しばらくの間使命を忘れ水遊びに興じたのであった。



 ◇◆◇◆◇



 ――2時間後。


「……遊んだな」


 ただの水たまりだけでこれだけ遊べる自分。

 それに半ば呆れ、勝八は呟いた。


「あぁ、魔物も出なかったナ」


「……忘れてた」


 泉の縁に腰掛ける彼の隣には、ずぶ濡れのゾマがいた。

 体に密着した布切れ達がセクシーである。


 そういえば、泉の底には魔物が潜んでいる可能性があったのだ。

 しかしこれだけ騒いで出てこないのだから、あれはキュール君の考え過ぎだったのかもしれない。


「……水が怖いんじゃなかったの?」


 散々水をかけられたり泉ごとかき回されたり飲まれたりしたドロシアは口を尖らせる。


「それも、忘れてたな」


 指摘され、勝八は天井を見上げた。


 思い返せばこの2時間。

 ドロシアに水をかけられ息継ぎが難しくなったり、ゾマの腰巻きが水中でヒラヒラするのが気になって軽く潜ったりもした。

 しかし彼の頭には、先ほどまで散々感じてきた恐怖が一切沸いてこなかったのだ。

 

「呆れた」


 あの躊躇やこれまでの長い前フリはなんだったのだ。

 ドロシアは眉間に皺寄せ息を吐く。


 多少は心配していたのか。

 その吐息には安心の色も混じっていた。


「いや、これはその、違うぞ?」


 が、そんな機微は感じ取れない勝八は、腹案もないまま慌てて弁解する。


「何が違うのダ?」


 黄金の目をまんまるにしながら、ゾマがその顔を覗き込んでくる。

 至近距離な事もあって、勝八の狼狽は更に加速した。


「い、今までの俺は、世界を救わなきゃという使命感でいっぱいになってたわけだ。でも……おぉ」


 必死で言葉をたぐり寄せる中で、それっぽい理論が引っかかる。

 自分でも合点がいって、勝八はポンと手を打った。


「俺に必要なのは、水を愛する気持ちだったのさ!」


 ついでに不器用なウィンクまで決めてそれっぽいセリフを言い放つ。


「あ、愛!?」


 告げられたドロシアの頭上で、ボンと水蒸気爆発が起きる。

 彼女は勝八の言葉を自身への告白と勘違いしたようだった。


 その様子を「あーあ」と見守ってから、ゾマは傷が深くならない内に話題を切り替えた。


「しかし、良かったのカ?」


「何が?」


 所謂ドヤ顔を晒していた勝八だが、ゾマの問いかけにきょとんとなる。


「神より先に、我々と水遊びをしてしまっテ……」


「んー、まぁ、良いんじゃないか?」


 少々言いづらそうにするゾマを不思議に思いながら、勝八は軽いノリで答えた。

 緩とは何度もプールへ行っている。

 去年はそうならなかったが、まぁ学校のプールで一緒だったし……。

 そう考えるのだが、この妙に落ち着かない気持ちは何だろう。

 これはまるで浮気――。


「――良くないよ」


 そんな時、勝八の思考に聞き覚えのある声が差し込まれた。


「緩!? いやこれは……」


 慌てて弁明する勝八だが、よくよく考えれば緩様がこんな場所――異世界に居るはずがない。


「ドロシア……?」


 ゾマの視線を辿ると、先ほどの発言をしたのはドロシアのようだった。

 しかし、あの舌っ足らずな口調。

 あれは確かに聞き慣れた緩のものだったのだが……。


「な、何よ」


 発言をした自覚が無いらしく、ドロシアはたじろいだ様子を見せる。


「……何なんだ?」


 自身のトラウマはあっさり克服したが、それよりまずいな事が起こり始めている。

 その予感に、勝八はおののいたのであった。

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