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「一つだけ、君と話していて不思議に思ったことがある。どうして君は裏サイトに入ることができたんだ?
「人に聞いた? それはあり得ない。だって君は友達がいないだろう。誰に聞くって言うんだ。そして誰が教えると言うんだよ。携帯アドレスも知らない、ましてや普段話すこともない奴に、こんな楽しい情報を教えるとは思えないね。
「いや、話す人間がいたところで、可能性は低い。裏サイトは最初、まったく広まっていなかった。君と話す人間が偶然知っていたとは思えないね。そして裏サイトが広まった後だとすると、更に可能性は低い。先程も言ったように、裏サイトが広まるとほぼ同時に、このメールが広まり出したんだ。君のような攻撃しやすい人間にわざわざ教えるわけがない。
「よって、君にはどうやったって裏サイトの情報を知ることができない。ならば、どこから裏サイトの情報を得たのか。
「君にネット上で探し出せるわけがない。だって君は、検索エンジンの違いさえ知らないんだから。そんな君に見つけられるほど簡単に探せるようなら、既にこの裏サイトだって消されているよ。
「考えれば分かることだ。情報を探さなくても聞かなくてもいい人間がいる。そうさ、君が裏サイトを作った張本人だったなら、話は別だ。
「サイトを作るのは多少知恵があれば可能だ。今どきサイトの作り方なんて、ネットで探せば腐るほど見つかるよ。それこそどんな検索エンジンでも探せる。多少知識がないくらいでは、できない理由にはならない。付け加えるなら、裏サイトはバグだらけだと私は言ったね。初心者の君が作ったからだろう?
「では何故、君が裏サイトを作ったのか。それはこのチェーンメールを広めるためだった。最初のスレッドのテーマがこのチェーンメールだということからも明白だ。
「裏サイトを見に来た人間が最初からわざわざこんなわけの分からないスレッドを建てるわけがない。どう考えても不自然だ。それに最初のスレッドがサイトを作った人間以外が建てるというのも不自然なんだよ。
「よって、裏サイトを作った君が、このチェーンメールをつくったと結論が導かれるんだ。
「……確かに今の説明を聞くとそうかもしれません。でも、今の説明って穴がありますよ。だって、僕が裏サイトを作ったとしたら、裏サイトが他人に知れ渡るわけがないですよね」
「それは簡単だ。何人かの携帯のメールアドレスを手に入れればいい。そこへメールで裏サイトの情報を送れば、誰かしらは興味本位で見にいってくれるさ」
「ですから、僕は――」
「友達なんて必要ないんだよ。携帯をちょっと見せてもらえばいいだけなんだ。勿論、無断でだけどね。体育の授業中にでも、携帯は見ることができる。手にさえすればメールアドレスは手に入るだろう」
「……」
「今のは何の反論にもなっていない。むしろ補強さえしてくれるよ。今言った方法を取ったからこそ、最初の内は全く裏サイトが広まらなかったんだ。もし他の方法だとしても、君が取れる方法なんて似たり寄ったりだ。どちらにしても、広まりにくかった理由になるんだよ」
反論しても、無駄だったようだ。
「そろそろ答えてくれないか。どうしてこんなことを君はしたんだ?」
ここまで言われたら、否定する意味もない。
「……答えるも何も、僕はもう半分くらいは答えを言っていたんですけどね」
「というと?」
「僕はずっと疑問に思っていたんですよ。周りの人間が言う友達というものが何なのかって。友達っていうものはもっと大切なものなんじゃないかって」
「それを調べたかったと?」
「そうです。これは実験だったんですよ。僕は言いましたよね。予想したではなく期待したと。僕は期待したんです。学生達が本当は友達をすごく大切に思っていて、『友達が不幸に』ならないように『友達に送る』んじゃないかって。だからこそ広まるんじゃないかって」
「そして実際はそんなことはなかった。君が一番気にしていた『友達が不幸になる』という部分は蔑ろにされ、他人を中傷するための道具として広まっていった。だから君は不満を訴えていたわけだ」
「そういうことです」
「しかし、ただそれだけのために、君は裏サイトを作ったと言うのか?」
「あなたにとってはそれだけかもしれませんけど、僕にとってはそれほどだったんですよ」
「ふん。どうもまだ話していないことがあるように思えるけれど、一応納得してあげるよ」
「それはどうも。――でも話していないことがあるのはあなたもでしょう?」
「私が何を話していないと言うんだ」
「僕にこのチェーンメールを送ったのはあなたでしょう?」
きょとんとしたように彼女が停止する。
しかし、それも一瞬のこと。
「ははははは。流石に分かるか」
悪びれもせず彼女は言った。
「そりゃ分かりますよ」
このメールは僕の学校でだけ流行っているんだ。
偶然、僕の知らない誰かが送ったものだなんて考えられない。
そんなことよりも、
「何故ですか?」
「ん?」
「何故、わざわざ匿名で僕に送ったんですか?」
「それは単なる悪戯だよ」
「嘘くさいですね。もしかして最初から、僕が作ったと思って匿名で送ったんじゃないんですか?」
「それは買いかぶりだよ。現に私は君が裏サイトを知っていると思っていなかった。匿名で送ったのは気まぐれで、特に他意はなかったよ」
「他意? じゃあ本意は何だったんですか?」
「それは愚問だよ。このメールを送る理由なんて、一つしかないだろう」
……ああ。
それは、つまり――
「は、ははは、そうでしたね。愚問でした」
どうやらこれで、本来の目的は達成できたようだ。
「さて、そろそろいい時間だし、お開きとしようか」彼女は席から立ち、積み上げられた本を整理する。「聞きたいことは全部聞けただろう?」
「はい。知りたかったことが知れて、良かったです」
「知りたかったことねえ」
それは一体、何を指しているんだろうね――と、彼女は本を片付けながら呟いた。
今日を思い返しながら、僕はそれを手伝った。
そうだ。僕が知りたかったことは一つ。
彼女が僕を友達だと思っているかどうか。
それだけだった。
だからこそ僕は、自分が誹謗中傷されるリスクを背負ってまで裏サイトを作ったんだ。そして広まりさえすれば、彼女なら必ずメールの存在に気付く。そのメールを彼女が僕に送ってくれるかどうか、それを確かめたかった。
言葉以外の行為で示せば、友達だと証明できる。
――僕は僕の考えに準じて行動しただけだ。
最後は勢い余って聞いてしまったけど、僕としては彼女が僕にこのメールを送ったことが分かれば、それで充分だった。
しかし、彼女が匿名で送って来さえしなければ、わざわざ彼女にこの話をしなかったのに。そうすれば、僕が作ったこともばれなかった……はずだ。
まあ、ばれた時のために、嘘の理由を作れるようにしたからいいんだけど。
それにとりあえずは、彼女には本来の目的は隠せ仰せたみたいだ。
こんなことがばれたら、恥ずかしくて死にたくなる。
いや、どちらにしても、こんなことしている時点で、恥ずかしいことか。
「っははは」
「な、なんだ君は? 急に笑い出して。思い出し笑いか? 思い出し笑いをする人間はエロいと相場が決まっているが、君もそうなのか。不潔だな。これからは私から半径一万五千キロメートルは離れて暮らしてくれ」
「なんですかその言われ無き曲解は!? しかもそれだとブラジルくらいしか住めないよ!!」
「違う。二次元で考えるな」
……。
………。
「――地球に居られない!? っつか、そんな小難しいボケに突っ込めるか!!」
「突っ込んでるじゃないか」
「いえ、間があった時点でツッコミとしては失格です」
「ふーん、そんなもんかね。まあいいや。いいかげん帰るとしようか」
「あ、はい。そうですね」
彼女の後をついて、僕も歩き出す。
僕が隣に並んだところで、「ああ、そうだ。帰る前に聞いておかないとな」と、彼女は僕を見て言った。
「最初、わざわざ私にこのメールを送ったのは何故だ?」
「いや、読み上げるより分かりやすいと思ったんですが。……何でそんなこと聞くんです?」
「君と同じだよ。理由を知りたいだけだ」
……って、ばれてる。
一体、何処で気付かれた?
いや、そんなことよりも、何でこんなことを聞いたんだ。
もしかして、僕が確かめ合って初めて友達だとか言ったから?
……いや、違うな。
この顔は違う。
にやにやと底意地の悪そうな顔をする彼女を僕は見る。
多分、仕返しだろう。お返しかもしれない。
なんて言葉を換えても意味は同じだった。
だから僕は、彼女の言葉を借りて、お返しした。
「それは愚問ですよ」




