7話 「向かう城」
「…………っ……」
…………もう朝か、なんだか早いようでやっぱり長かったような感じだな。
壁掛け時計を首を捻って見てみると、時刻は丁度5時ちょっと前ぐらいだった。
よし、ベスト起床!
と、ワタシは起き上がろうと思い体に力を込める。
だが何故か起き上がれない。
原因は、ワタシの隣にあった。
「ん〜…………むにゃむにゃ〜……」
そう、理由は隣でリョーカが寝ていたからだよ!
というか何でリョーカが寝てるんだよ!
ちょっとだけ状況を整理するのに時間を要する。
まず昨日(いや、日またいでたかも……?)、ワタシとリョーカは枕投げをテンション上げ上げで楽しんでいた。
そして疲れたからと寝ることに。
当然ワタシとリョーカはそれぞれベッドと布団に分かれて寝た。
だが今、目を覚ますと隣にリョーカがいる。
……………………どゆことだ?
正直、起こして事情を問いただしたいところだが、今はそういうわけにもいかない。
『リョーカには気付かれないようにして欲しい』
昨日、お父さんに言われた言葉だ。
今日は、ワタシの身元確認的な意味合いで国城に行くことになっている。
だがそれを、何故かは分からないがリョーカに知られてはいけないという。
理由を聞くほどの関係はまだ築けてはいないだろうから当然訊きはしないが、とりあえずワタシはリョーカに気付かれないように下まで行く必要がある。
「んっ……しょ」
今はリョーカの腕を、ワタシの体から外す作業を行っている。
理由は不明だが、寝ている時の方がリョーカは力があるのかとても締め付けが強かった。
おかげで割と体が痛い。
そんな中ワタシはリョーカの腕と悪戦苦闘中。
…………よしっ、片方!
ワタシはリョーカの締め付けてきていた片方の腕を外すことに成功する。
まぁ、こうなれば後は体を抜くだけだね。
ワタシは体を慎重にリョーカの腕の間から抜くと、何とか起き上がることに成功。
と、その時、
「…………リョーカちゃん……」
「っ!?」
起きたの!?
なんて一瞬思ったが、リョーカを見てみるとまだまだ夢の中にいるような顔をしている。
実際はただの寝言だったようだ。
一安心。
そしてワタシは、風呂場で着替えて以来着ていた寝間着からこの世界に来た時の、元の世界での制服に着替えた。
「ふぅ……、やっぱりこっちの方が馴染むな」
身支度を済ませて、ワタシは部屋をそっと出るためにそれこそ、そっと扉に手を掛ける。
「それじゃ、また後でね…………リョーカ」
ワタシはそう告げて、廊下へと一歩出た。
「…………行っちゃ嫌だよ……」
その時、またリョーカのタイミングの良すぎる寝言が聞こえる。
心臓を再び跳ね上がらせたものの、落ち着いている風な態度を取りワタシは扉を静かに閉めた。
「……………………」
◇◆◇◆◇
ワタシは、風呂場と同じところに設置されている洗面台で歯磨きと顔洗いを済ませリビングへ。
ちなみに、歯磨きはこれを使ってね、と昨日リョーカに教えられていたから特に問題なく事を済ませられた。
そして部屋に入ると、既にご両親お二人が椅子に座っていた。
うぅ〜、やっぱりまだ緊張する……。
「リョーカさん、そんな緊張なさらずに。ささ、席に着いて朝食にしましょう」
「は、はい……」
緊張してたのバレてたのか、何か恥ずかしいな。
それはさておき、お父さんに促されたワタシは席へと着く。
リョーカがいないと、どうしても緊張はしちゃうな。何だって大人二人だもの。
「はいどうぞ、リョーカさん」
お母さんはそう言って、ワタシの前に食事を並べた。
時間も無いからと、あまり豪勢な朝食では無いけれど(そもそも朝そこまで食べれないからワタシはいいんだけど)、それでも十分に美味しそうなトーストとスープだ。
「…………美味しそうですね」
ワタシは素の部分から、自然と言葉を発していた。
思わず自分でも驚いた。
「うふふ、お世辞はいいのよリョーカさん。それよりも早く食べましょ」
そしていただきます、と何処の世界でも変わらない食事前の挨拶を済ませて、朝食へと取りかかった。
「どう? 満足されたかしら?」
「いえいえとんでもない、十分すぎるほど美味しかったです」
お母さんはワタシの言葉を聞いて笑う。
「さて、時間も無い。早く出よう」
ワタシはお父さんのその言葉に頷いて、玄関へ向かった。
と、お父さんは言い忘れたことがあったかのように振り向いて口を開く。
「エリちゃんは、留守番頼んだよ」
「はい承りましたわ、ゲンさん」
…………エリちゃん? ゲンさん?
…………まぁ恐らく、ご両親お二人の呼び方だろう。気にしないでおこう。
そして靴を履いて、ワタシは一言いってきます、と告げて家を出た。
◇◆◇◆◇
ただいまワタシとお父さんは、静まり返った街を二人で途方もなく歩いている。
お父さんの話によると、国城までは徒歩だと7、8時間は平気でかかってしまうとのこと。
うん、それは確実に死んでまうわ。
程なくして、お父さんはある場所で立ち止まった。
ワタシも同じように止まる。
ワタシが、いきなり立ち止まったことに驚いたような顔をしていると、それに気付いたお父さんは説明をくれた。
「ここは竜車乗り場でね。徒歩だと流石にダルくなるけど、竜車で行けば2時間ぐらいですぐ着くから断然こっちの方がいいと思ってね」
「…………まぁ、それはそうですが。……って、竜車ってことは竜の引っ張るそれに乗るというわけか…………怖そうな」
ワタシは、ハイスピードで駆ける竜のそれに乗っている自分を想像して身震い。
落ちたら一溜まりもないな。
「別にそこまで怖がることでも無いよ、ちゃんと程々のスピードで走るから」
そして遠くから竜が走ってきて、その竜の引いていた車体部分にワタシとお父さんは順に乗り込んだ。
竜車内にて
「あっ、あのーっ! めっちゃ速いんですけどぉーっ!」
ワタシは想像を絶する速さに、思わずお父さんにそう叫んでいた。
いやだって、流石にここまで速いとは思ってないから!
遊園地にあるような一番早いと言われている何処ぞのジェットコースターよりは断然速いッ!
「まぁ、初めはそう感じちゃうかもしれないね、でも慣れればそうでも無いよ」
「そっ、そうですか……」
お父さんは微笑みながらそう言うも、流石にそれは信じられなかった。
それぐらいに速く、外の風景が流れていた。
やがて、段々と竜車のスピードが落ちていった。
一瞬何故スピードが落ちてきたのかと考えたが、そろそろ城に着くのだろうと察する。
それなら、こんなけ早いんだからそれこそ早めにスピード落とさないと止まれないよね。
そして徐々に体へと掛かっていた負荷が抜けていくのをワタシは感じた。
竜車での移動中に聞いた話だが、どうやらこういう類の乗り物には全て『結界』なるものが張られているようだ。
そうしなければ、今頃吹き飛んでいるとのこと。
まぁ確かに、流れる外の風景とは段違いに体への負荷は少なかった感じがするしね。
しばらくしてようやく停車した竜車は、停車位置が少し悪いのか車体の部分をちょっとズラす。
仕事に律儀な竜だこと。
ワタシの横で、お父さんは一つ前の席で竜を操っていた男の人にお金を渡していた。
わざわざワタシの分まで……、いやまぁお金無いからどうしようもないんだけど。
「さて、目の前に見えるのが国城だよ」
「ですよね、ここまで存在感あったら流石に勘付きますわ……」
ワタシの目前に鎮座する巨大な要塞風な城。
これがお父さん曰く、この国の王の住まう城だそうだ。
デカすぎるだろう。
俗に言う、東京ドーム4個分に相当するだろう。
時刻はわからないが、逆算すればおおよそ7時30分頃。
こんな朝早くから来てもいいものなんだろうか、ワタシにはわからない。
まぁ、城で働いているというお父さんが連れてきたのだから恐らくいいんだろう。
「よし、とりあえず城に入ろうか」
「は、はい……」
「昨日のうちに、王の方には許しは得ているからね。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
「は、はい…………すいません」
なるほど、そういうことなら安心だ。
それとまたも緊張を見抜かれてしまった……、やるなこの父上!
そしてワタシは、お父さんと共に城の正門の前へと来た。
なんか鎧を身に纏ったカッコ良い兵士さんらしき人がいる。
あ、確か街に入る時にもいたね、あの好感持てそうなおじさん。
でもあのおじさんとは明らかに雰囲気が違う。なんて言うのか、本気で城守ってますんで、と言うような感じかな。
つまり本気ってことだね。
というと、あの時のおじさんが本気じゃないみたいな感じになっちゃうけど、おじさんも立派に門番、出来てんよ。
「さぁリョーカさん、行くよ」
ワタシは声で悟られてるんだろうと察し、静かに頷いた。
「ははっ、余程緊張してるんだね」
「何故バレたしっ!?」
そして二人してクスクスと笑いながら、城内部へと入っていった。
前二話ぐらい投稿前の見直しが出来ていませんでしたが、今回はある程度修正はしておきました!
ですが何とも言えません、自分からは……
明日がMP SOUL毎日更新最終日となります
そして区切り的にも章終わりです
章分けの仕方がよく分からないのでしてませんが……