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MP SOULー魔力を授かりし者ー  作者: 鈴風
第1章 -友達-
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2話 「飛ばされた先で」


 本日二回目の目覚め。


 ワタシの目に映ったのは質素な天井だった。

 どこだここは、と思いながらワタシはベッドから体を起こす。

 そしてベッドに座り直して辺りを見渡す。

 木造で建てられた家であろう、ワタシはそう第一に思った。

 壁や天井、部屋の隅にある薄汚れた木机もワタシにそう思わせる理由の一つ。


「…………て、ここ本当にどこなの」


 ワタシはここの事を知るために立ち上がり部屋を端から歩いてみる。

 そこまで広い部屋ではないけども、人が10人ぐらいは入るかなというぐらいの大きさ。

 そしてワタシはぐるっと一周歩いたところで、設置されている窓へと寄る。


 閉められていた窓をそっと開け、外の光景を目の当たりにした。


「……うわぁ…………」


 思わず圧巻。

 空いた口は塞がらなくなり、ワタシはその光景にただただ目を見開くだけだった。

 下に広がるのは街、恐らくさっきまでいた街だろう。

 その街は賑やか。

 明るい声が辺りを響いている。

 遠くには山。

 雲に隠れて頂上が見られないほどに高い山から、低くてほのぼのとしてそうな山までたくさんの山が連なっている。

 街の外には木が所狭しと生えていた。

 ワタシが砂一面のところを見回した時にも森は見えていたし、あんなところがあっても何ら不思議ではなかった。


 そんな風景に魅入られていたせいか、後ろから掛かっていた声にワタシは気付けなかった。




 ひと段落ついて、部屋を出て誰か人を探そうとして後ろを向いた時、人がいた。


「……うおっ」


 ワタシは少し驚く。

 いきなり人がいたから、そりゃビビるでしょって話です。

 しかし、


「わぁぁぁぁぁっ!」


 何故か驚くべきワタシより、その少女は声を高らかに上げて驚いていた。

 それにワタシはもう一度驚く、ちょっとだけどね。


「…………ふぅ、びっくりしましたぁ〜」


 彼女はひとつ大きな息を吐き、張っていた肩を下ろして安堵の表情を浮かべた。

 そんな彼女の容姿は、ワタシより少し低いぐらいの身長とワタシより少し幼い顔立ち。

 そしてワタシより大きい胸。


「ぐぬぬぬぬぅ〜……」


 思わずワタシは嫉妬してしまう。

 まったく羨ましい限りだ、とは思うもののワタシはちょっぴり顔立ちが険しいと周りから言われていて、そんな顔に巨乳は似合わないと自分で思っていたりする。

 そんな外見云々も含めて彼女に嫉妬心を抱いていた。


「…………?」


 彼女はワタシの視線に気付いてしまったのか、自分の胸元を見る。


 そして目の前で胸を手で揺らしやがった。


 ぷるんぷるん。

 凄い柔らかそうな音が聞こえるような気がする。

 それぐらいに彼女の胸は柔らかそうで気持ち良さそうだった。


 …………気持ち良さそう?


 ワタシは彼女の胸を見て気持ち良さそうと思ったのか? これでは変態じゃないか。

 そしてそんな自分を戒めるために、ワタシは自分の胸を触った。


「…………よし、ぺったんこ」


 何故か心が落ち着いた。


「……えーと、どうしたんですか?」


「はっ! いっ、いや特には……」


 ワタシは変なことをしているなぁと今更感じて、慌てて手を離す。


 そしてそんなワタシの無様な光景を見届けてから、彼女は一拍置いて話し始めた。


「えーと、さっきも言ったんですけど、目覚めたんですね?」


 うーむ、それは別に言う必要があるかね? 現にこうして今起きてるんだから訊く必要はあるのかね?

 そんな無粋なツッコミは控え、とりあえず首を縦に振っておく。


「はぁ〜、それなら良かったです〜……」


 彼女は心底安心したのか、文字通り胸を撫で下ろした。

 そのデカイ胸をワタシにそんなに見せつけたいのかいこの女の子は。

 それとさっきも言ったが見た通りワタシは起きてるから、そんな大袈裟に安心しなくて良いよ。

 心の中でそうツッコんでおく。


「それで……、えーとー……?」


 彼女は何だかもじもじしながらワタシにそう言ってきた。

 あぁ、名前かな。

 確かに名前知らないんだよね、当たり前か。

 そんな見ず知らずの人間を部屋まで連れてきてくれたのか? しかもこんなか弱い女の子が?

 とても献身的だなぁ、とワタシは心の底から思う。

 ま、名乗るべきだよね、普通に考えて。

 このままじゃ失礼にも程があるし。


「……あ…………」


 そうしてワタシは口を開くも、やはり言葉が出ない。

 やっぱり緊張すると言うか何と言うか、恥ずかしい……。

 ワタシからしてもやっぱり彼女は知らない相手で、でもここまで連れてきてくれてくれたこともあるし名前を告げないのも良くはないし。

 う〜……。


「ん? 大丈夫ですか、顔色が優れないみたいですが……、はっ! やっぱりまだ良くなってないんですねっ、それなのにワタシのことを気遣ってくれて……、ホントすいませんっ! すぐお水持ってきますから!」


 そう彼女は一方的に告げ、部屋を出て行った。


「……………………」


 忙しないなぁ……。


 ワタシは率直にそう思った。



 ◇◆◇◆◇



 ワタシはずっと考えていた。


 そう、どうやって彼女に名前を伝えるかを。

 正直口で伝えるのはキツイと思うんですよね、だから他の案を出そうとしているんですよ。

 とりあえず第一の方法としてはやっぱり紙に書いて伝える、かな。

 でもこれだと心がこもってない風に見られないだろうか。

 わざわざワタシを運んできてくれたんだから、もっと気持ちを込められることにしたい。


 なら次の案は体表現、ジェスチャーでどうだろうか。

 これなら精一杯の気持ちを伝えることが出来る。

 多少恥ずかしいけど、これなら問題ないだろう。

 よしこれにしよう、これに決定だっ!


 …………待て待て。

 何か案が決まった瞬間にすっと冷静な気持ちになって、普通に考えたらそれおかしいだろみたいな事に気付いた。

 というか、多少恥ずかしいのがありなら別に言葉で伝えてもいいんじゃないの、違うのワタシ?

 …………うん、そうだね。

 やっぱり言葉で伝えるのが一番だね、何がジェスチャーだよ馬鹿かワタシは。


 恥ずかしさ何てものは捨てろ。

 この気持ちをワタシは彼女に伝えたいんだ。

 彼女に運ばれてこなかったら、ワタシはあのまま干からびていた可能性だってあったんだ。


 よぉし、頑張ろうワタシ!



「お、お水持ってきました! これで」


「あっ、あの!」


 彼女を前に、ワタシは少しテンパってしまう。


「は、はい……?」


 彼女はワタシが何か言いたいのだと知ると、持ってきた水をそっと近くにある木机に置いた。

 思わずテンパってしまった……。

 たが、ワタシはそんなものには屈しない。

 この覚悟の気持ちを固めるため、ワタシはより一層恥ずかしいことをしてやる!


 パシッ


「えーっとー……、何でワタシ手握られてるんですか?」


「そんなことはいいの! ……それより、ワタシの話を聞いて?」


 凄い、手握ったら恥ずかしいけど逃げられたりもしないから覚悟がより固まるかなとか握ってみたけど、結構ワタシ今喋れてるじゃん。

 しかも割と恥ずかしいこと言っちゃったよワタシ!

 けど、それでもワタシは気持ちを伝える。


「え、……あ、はい……」


 そしてぎゅっと一層強く彼女の手を強く握る。

 思わず恥ずかしさがそうやって表に出てしまった。


 彼女は何故かワタシの目を見つめ、何かを汲んでくれたのか空いているもう片方の手を重ねてに握ってくれた。

 とても心強い感触。


 ワタシは肺に溜まった空気を一旦吐き出しもう一度呼吸を整える。

 多分、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になってそうだなぁ、それはそれで恥ずかしい気がする……。


 そして、ワタシは覚悟を決めて言う。



「ワ、ワタシの名前はっ、瀬々良木燎香! ……それとっ、助けてくれてありがとっ!」


 そう言ってワタシはさっと俯く。


 名前までと言わずお礼まで言ってしまった。

 胸の底から熱いものが流れてくる、きっと恥ずかしさによるものだろう。

 だがワタシは言い切った。

 顔の温度が上がっていっているのがよくわかる。


 しかも気付けばワタシの目の前には彼女の顔が。

 思わず超至近距離で話してしまったのか…、それは恥ずかしい……。


 そっとワタシは、視線を彼女の方へと向ける。


「……………………」


 そんな彼女は、あっけらかんとした表情をしていた。


 今の状況を確認してみよう。

 まずワタシは、彼女に名前を伝えるために色々考え、結果やはり言葉で伝えようとなった。

 そして部屋に戻ってきた彼女に思いを伝えるために口を開く。

 今だ覚悟のないワタシは、その気持ちを固めるため彼女の手を握る。

 それに彼女は手を重ねてきて、ワタシはそれによって決意を固めた。

 ワタシは緊張しながらも言葉を放った。


 自分の名前とお礼の言葉を。


 この状況なら、ワタシでもあっけらかんとするだろうね。

 さてさて恥ずかしくなってきたぞワタシ。

 何で名前告げるのにこんなに回りくどくなってるんだ。

 あ、ワタシがコミュ障だからか。納得。


「…………えっと」


「あのっ! どうもご丁寧にっ、名前まで教えていただけてありがとうございますっ!」


 ワタシはこの空気をぶち壊すために、適当に何か話そうと思ったが、それより先に彼女がワタシにそんなことを言ってきた。

 何故にワタシが逆に感謝されているのかが謎だが、このセリフから何とか話を繋げていこうかな。


「……いやいや、感謝されるのはおかしいでしょ」


「えっ!? 何でですか!?」


「いや何でって、そりゃワタシが名前を言うのはわざわざワタシなんかを看病してくれたあなたに対する感謝だから……」


 素で驚いた彼女に、ワタシは言葉の意味を伝える。


「……………………ワタシ、なんか」


「……?」


 彼女が、何か小声で呟いた気がするが、まぁあまり触れないでおこう。

 別にそこまでの関係がワタシと彼女の間にあるとも思えないからね。

 不躾がましく訊くのは、失礼だし。


「え、えーとっ、あなたが名前を言ってくれたのですから、ワタシも名乗るべきですよね。それが礼儀で作法です!」


 そんな作法は知らないが、礼儀に習ってワタシは名前を告げたんだから、それに返す必要はないんじゃないのか?

 恐らく彼女は、借りとか作れないタイプなんだろうな。

 借り作っちゃった瞬間に倍返しッ! て感じで反対に相手に借りを作らせちゃうような。

 まぁ、そんな彼女がそう言うんだ。

 素直に聞いてもいいんではないんだろうか。

 彼女の信念を折る方が、実に失礼極まりない行為だから。


「では、ワタシの名前を聞いてください」


 なんだこの、「ワタシの歌を聴いてください」みたいな感じのセリフは。

 と、そんなことはどうでもいいな。

 ワタシとしても、恩人の名前を知れるというのは嬉しい。

 ワタシの歴史の中で、彼女の名前は永遠と輝いて残るのであろう。


「ワタシの、名前は…………」


 そして彼女は、ワタシへ静かに名前を言った。











「セセラギリョーカ、です」




 瀬々良木燎香? ワタシの名前? とか勘違いしてしまいそうなほど同んなじ名前。

 というか、




「……………………同一姓名のお方?」





 ワタシはこの飛ばされてきた異世界で、何故か同じ名前の女の子と出会った。


まさかの同一姓名の女の子っ!?

という展開ですね


百合っぽさって出すの難しい……(遠い目

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