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MP SOULー魔力を授かりし者ー  作者: 鈴風
第1章 -友達-
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1話 「飛ばされた場所」

 

 意識が目覚めると、そこは見知らぬところだった。

 今さっきまでいた平穏な世界とは一転した、騒がしい世界。

 ふと上を見上げると竜が飛んでいる。

 何となく横を見てみると、トカゲを拡大したような生き物が高速で這っていく。


「……………………」


 ワタシは当然のように身の危険を感じる。

 あんなのに喰われはしないだろうかとか、さっき飛んでった竜の仲間が拐いにきたりしないだろうかとか色々と。

 だが、それらはワタシの思いを見事に裏切ってくれる。


「……はぁ、ありがとう」


 そしてワタシは一度溜め息を吐き、今の場所をゆっくりと観察する。

 といっても、今ワタシがいるところは正直言って何もない。

 言うなら砂漠のようなところである。

 剥き出した岩があちこちにあり、枯れている木が数本。

 水分を失った砂が一面に広がったこの場所、やはり尋常じゃないほど喉が渇く。

 だって太陽が照りつけてきてるんだもの。

 というか、


「……なんでワタシはこんなところに飛ばされてるの?」


 ワタシは思わずそんな疑問を口に出した。

 とりあえず今の数分で起きたことを整理してみよう。

 まずワタシは、いつものようにバイト先へと続く道を歩いていた。

 そこで突如、"黒い何か"とぶつかった。

 そして奴の容姿の不気味さから、ワタシは慌ててその場から逃げた。

 だが逃げるために普段知らないような道を走ったせいで迷子になり、挙げ句の果てには行き止まりの道に入ってしまった。

 そんな絶体絶命の時に、とある長剣がワタシの左手に握られていた。

 そのあとは突然その剣が光り始めて、ワタシは思わず目を瞑ってしまう。

 そして次に目を開いた時にはここにいた、という感じだ。


「……帰れるのかなぁ……」


 不安のあまりそう吐いてしまう。

 その呟きでワタシは一層不安な気持ちでいっぱいになる。

 自分で自分の首を絞める、みたいなことをしてしまった。

 たとえ元の世界を退屈に思っていたからって、こんな恐怖が付き物の世界は嫌だ。

 ワタシはもっと静かに生きたいんだ。


「ガアァァァァアァァァアァァッ!」


 それは叶わないと言うように、さっき飛んでいった竜の方から咆哮が聞こえた。

 あんなモンスターがいる世界で、平和に生きられるわけがない。


「…………はぁ」


 少し大きめな溜め息を吐き、ワタシはおもむろに立ち上がった。

 ワタシの今いる位置は、少し砂山が出来ている。

 そこから遠くを見下ろすような場所に、一つの街があった。

 街の波が揺れ動いていることから、人が行き交っていることがわかる。


「賑やかだなー……」


 声が聞こえるわけでもないのに、ワタシはそんなことを口にした。

 なんだが賑やかそうな場所だと思ったから。

 ちょうどそんな時、


 ぎゅるるるるぅ〜


 お腹がなった。


「……………………っ!」


 周りに人がいたら赤面ものだ。

 ワタシは恥ずかしさのあまり手で顔を覆い尽くす。

 でも、確かにお腹が減ってきたのも頷けはする。

 現実の世界ではもう夕方5時半頃だった。

 バイト先のまかないをよく食べているため、昼ごはんは基本的に少なめである。

 そしてそのまかないがないんじゃお腹が空くのも当然だった。


「…………あそこの街にいったら、何か食べられるかなぁ」


 とても安直な答えだった。

 だが、今はそれしか考えられなかった。

 この空腹と喉の渇きをなくすには、とりあえず食事をするしかない。

 それが出来そうなのは、あそこの街ぐらいだ。

 もう一回周りを見渡すも、遠くに森が出来てたりするだけで、とても食事をすることの出来る場所はなさそう。


「……まぁ、とりあえずどこかに行かないと何も始まらない気がする」


 そうしてワタシは、少し恐怖の残っている身体を奮い立たせる。

 目的地は1kmぐらい離れているであろう賑やかな街。

 そしてそこへ向かって、ワタシは歩き出した。


 ◇◆◇◆◇


 歩くこと30分。

 程なくして目的地へと着いた。

 喉の渇きは一層増し、空腹もほぼ限界に近づいていた。

 早く何か食べたいよ〜。

 ワタシはゆらゆらとした歩きで、目の前の大きな門を通ろうとする。

 だが、


「許可証がないと、この先は通れませんよ」


 目の前の巨大な門の横にいた門番らしき人にそんな風に言われた。

 ワタシは泣きそうだった。

 知らずのうちに知らない世界に飛ばされてあまつさえ砂漠に放り出され、そしてお腹も空いて喉も渇いてやっとのことで街に着いたのに、まだワタシにこの苦しみを味わえというのか。

 あんまりだ。


「ん、んーーー…………」


 ワタシは、その門番に一言文句を言ってやろうとする。

 しかし、言葉が上手く出ない。

 そりゃそうだ、当たり前だ。


 だってワタシは、コミュ障だから。


 コミュニケーション障害。

 日常の他愛ない会話すらまともに交わせないような症状。

 空気を必要以上に読んで会話出来なかったり、人見知りで滑舌悪くて口下手で話すことに劣等感を覚え話せなくなるということが原因とされている。

 ワタシは特に人見知りが当てはまるだろう。

 だから学校でも1人になって、昼休みも孤独に購買のパンをかじって体育だと準備体操を先生とやったりして、それはそれはただ1人で生きてきた。

 もちろんバイト先でも1人黙々と商品を詰めている。


 実にぼっち道をまっしぐらだった。


 やがてワタシは気恥ずかしくなってきて、小さくなってしまう。

 いやだって、門の前で色々言われるなんて何だか馬鹿な人みたいじゃん。


「それで、君の名前は?」


 門番がワタシにそう訊いてくる。

 なに、名前も訊いてくるの? そんなことしていいの? なんて事を思ってもどうせワタシは門番さんにそう言うことは出来ない。

 だから素直に従った。


「あ、えとー…………燎香」

「ん?」


 なんなの、ちゃんと言ったじゃんか。

 しっかり聞いてよね全く、2回も言うなんて恥ずかしいったらありゃしない。

 これじゃあまるで、名前もちゃんと言えないようなお馬鹿さんみたいじゃん!

 まぁ、今はこっちの不慮です。すいません。


「…………瀬々良木(せせらぎ)燎香(りょうか)

「……リョーカ? あぁ、そうなんだ。じゃあリョーカさん、とりあえず手続きしましょうか」


 ワタシは名前を言うだけで限界で、門番の言葉にただ頷くだけだった。


 それから10分後。

 色々された質問に、首を縦に振るか横に振るかだけを繰り返して無事許可証を作ることに成功した。

 ただ、この許可証は1日きりのものらしく、一回ここから出てしまうとまた手続きをし直さなくちゃいけないようだ。

 だから、正式な手続きをしてこなければならない。

 しかしその正式な手続きをする場所と言うのが……、


「あぁ、ここは王都からは離れてるけど一応は城の敷地内だからね。手続きは王城で済ませてもらわないと」


 城、か。

 まぁそんな世界に来てるとは思ってたけど、流石に王都とか王城なんて単語が飛び出してきては信じる他ない。

 いやこの門番さんがおかしな事を言っているだけかもしれないが、そんな事を訊くほどのメンタルを持ち合わせていない。

 仮にこういう場合、王の存在をどうこう言った時には「愚か者めがっ!」となって今のこの関係を壊す結果となってしまう。

 なるべくワタシは人との関係を崩さないようにしたいから、こういうところはしっかりする。


 でも、城ってここからどれぐらい離れているんだろうか。

 場合によっちゃ許可証を作りに行くのに丸一日かかるかもしれない。

 そうすると必然的に寝床等を確保しておかなければならない。

 しかし今の状況じゃ、そんなものを準備するお金もないし人望もない。

 だからワタシは、頑張ってこの気持ちが届くように視線を送り続ける。


「……………………!」


「あーえっとー、どうしたの?」


 あえなく撃沈。

 どうやら伝わらなかったらしい。

 ま、それも当然だよねそんな超能力はないんだし。


「あ、ちなみに城までは10km以上あるから歩きだと遠いよ? 何か足を見つけて行った方がいいよ」


 いや届いていた、ワタシのこの気持ち。

 門番さんは言っておいた方がいいかなという風に言った。

 そんなことはどうでもいいんだよ、城までの距離がわかったんだから。

(ありがとね門番さん)

 心の中じゃないとこの言葉は言えないから言っておきます。


 そしてワタシは、ひたすらに門番さんに頭を下げて感謝を体表現。

 門番さんはいやいや気にすることは無いですよと言わんばかりに手を振る。

 やがて巨大な門は開かれ、ワタシはその中へと入っていく。

 最後に、ホントにありがとうございました、という気持ちを込めた礼をする。

 門番さんは少し照れていた。

 こんなワタシに照れなんてしないでくださいよ、と言ってやりたかった。



 こうしてワタシは、この"異世界"の街を歩き出した。



 ◇◆◇◆◇



 街はとても賑やかだった。

 道行く人同士で挨拶を交わし、商店の人は大きな声で客呼びをしている。

 時にはヤンチャな子供がワタシの横をダッシュで駆けていく。

 その、何処か心安らぐような風景がワタシの顔を少し緩ませた。


 しかし、こういう場所は裏を返せばコミュ障人間にとっては最も避けたい場所でもある。

 そりゃまぁ相手から話しかけてくれるのは、こっちから話しかけるということをしなくていいから助かるんだけど、それでも積極的に話しかけられると、どうもおどおどしてしまう。

 だって怖いじゃんっ! 見知らぬ人に突然話しかけられるのって!


 けど、そんな弱音を吐いてちゃいけないとワタシは思う。


 そんなことでは食事にありつけない、だからワタシは久々に頑張る!

 と、ただのコミュ障じゃないところを見せつけるために大きな足取りで街を歩き始める。


「よぅ姉ちゃんっ!」

「っ!!」


 横を通りすがった店の中から、その店のおっちゃんらしき人に突然呼ばれてワタシは肩を思いきりビクらせる。

 ワタシは恐る恐る店の方へと振り向く。


「はい、何ですか?」

「今さっきいい品物が届いたんだ、一つ買ってかないかい」


 その店の前には1人の女の子。

 その子は店のおっちゃんに呼び止められて話をし始めた。


(勘違いかよっ!)


 思わず心の中でそう叫ぶ。

 するとその時だった。


「あ…………」


 突然目眩がした。

 視界がぐるぐる回り出して、今自分がどこにいるのかさえわからなくなる。

 空腹に喉の渇き、そして暑すぎる気温。

 元の世界より断然暑いからか、きっと温度差がすごかったんだろう。

 いわゆる熱中症。

 ワタシはそのままその場に崩れ落ちる。


「えっ!? だっ、大丈夫ですかっ!?」


 さっきの女の子の叫び声を最後に、ワタシの意識は霞消えた。


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