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旅館の一角にしては広すぎるゲーセンに、紗希が目を輝かせる。

普通の大型ゲーセンと比べても、なんの遜色もないほどに充実してるな。

「ん?」

壁側に書いてある警告メッセージに、思わず吹き出しそうになる。

『18:00以降、地元民お断り』

「考えたねー。こういう経営判断、私は大好きだなー」

つまり、街のゲーセンのポジションもここが含み、客をゲットしてる…と。銭湯としての使い方なんかも含めれば、単なる旅館よりは集客や小銭稼ぎができるかもしれない。

並んでいるゲームも多種多様で客を飽きさせない。

バージョンの新旧が入り交ざってる意味では、その筋にとっていつもより豪華なくらいだ。

「私はあっちにいるわ。今のゲームは、難しすぎるもの」

ベンチの方へと歩いていく怜奈の後姿を見ながら、紗希が不満そうに小さくつぶやく。

「楽しみ方はいろいろあるのに、自分で無意識に縛りプレイする人が多いのが嘆かわしいね。べつに体感だろうが音ゲーだろうが、アクションだろうがシューティングだろうが…試しに一回やってみるぐらいの気持ちがあったっていいでしょ」

誰に向けていえばいいのか分からなくなったのか、泳いでいた視線が俺へと向けられる。紗希のゲーム哲学だのゲーム思想に関しては、権威と名乗れるほどに聞いてるから、あいつの言いたいこともよく分かる。

あいつの根源は、自分が楽しいと思ったことを他の人にも味わってもらいたい…という気持ちだから。

「自分が楽しいと思えなかったから、もうやらないっていうのは分かりやすいけど、下手だからやらないって言う人は、見栄っ張りかゲームがきらいな人。べつに、お金払って遊んでるんだから、誰かにケチ付けられる筋合いもないんだし、好きにやればいいのに」

話しているうちに上がっていく体内温度を抑えるために、ふぅっと紗希がため息をつく。

『ゲームがうまい人は、褒められたり、感動されてもいいけど…

ゲームがへたな人が、馬鹿にされたり、けなされたりするのは、なんかおかしい。だって、みんなが楽しむものがゲームなんだから』…だったな。

「まあまあ、おねえちゃんのアレは、封印を解かないためだから」

「封印?」

「怜奈は、やりだすと歯止めが効かないから。熱中すると、財布に相談しないで意見を押し付けるようになる」

いつもおねえさん役の怜奈が、ゲーセンでは、誰よりも目を輝かせてはしゃいで、財布が空になるまで止められなくて、よくみんなで怒られた。

怒られて涙目になってた怜奈なんて、あれ以来見た覚えがない。

「へえ、あの怜奈が…」

「今は、ぬいぐるみにも興味がなくなっちゃったみたいだけどな」

「それが、そうでもなかったりするんだな。とっきーが取った奴とか、誰もいないのを確認してから、たまーに抱きしめちゃったりしてるんだから」

あの怜奈が…と思うと、それだけで可愛いと思うけど、誰もいないのを怜奈が確認してるはずなのに、ちゃんと見てる璃奈がすごい。

まさに、家政婦も舌を巻く観察力(監視力?)だ。

「じゃあ各自散開で」

待ってましたといわんばかりに目を輝かせていく紗希たちを見送ってから、俺もぶらぶらと歩き始めた。


品定めをするように一週まわって戻ってくると、縦シューティング台の一角で舞衣がキョロキョロしてる。俺の顔を見つけると、唇を少し動かしてから、とてとてと歩みよってくる。

何を言ったのか、ここからじゃ全く聞こえない。

「せ、せんぱい」

「あの、も、もし許容いただけるなら、共にプレイしませんか?」

許容とは、また不思議な表現を…。

「紗希みたいな、子連れシューティングはできないけど、それを肯定いただけるなら、ぜひとも仕えさせていただきます」

ずれた日本語にあわせて、思いつくままに返す。

皮肉ではなく、愛嬌だということを互いに理解してるから。

「人もいないし、久しぶりに連コインしてでもクリアしてみるか」

「は、はい」

やってもいいことなはずなのに、変に意識してなのか、お金がもったいないからなのか、連コインをしない人、できない人がやたらと多い。今のゲームは難しすぎるって聞くが、初心者が初見でクリアできたら上級者も当然クリアできるわけで、よほどのやり込み要素がないと、一回で終わらされて採算取れないだろう。

100円でどこまでいけるか、その距離を伸ばすことを楽しんでもいいだろうけど、400円でクリアできるのを200円でクリアできるようにするのを上達として、そういう遊び方を楽しんだっていいはずだ。

椅子を寄せ合って、コインを互いに一枚ずつ投入。

「もう少し、真ん中でいいよ」

「め、滅相もないですっ」

いいながら、二人で少しずつ真ん中にずれて、位置を調整する。

キャラセレクト直後のマニュアルは吹っ飛ばして、ゲームスタートだ。

『子連れシューティング』それは、二人プレイの様式の一つ。

絶えず敵を即殺しながら、自機だけじゃなく相棒を守り抜くのがポイント。

ときにはボムで、ときには身を呈して、敵から身を守っていく。

そうして、ふたりで仲良くクリアを目指すという、ある意味では昔からの王道だ。

『親が子を護るがごとく』

なので、上級者が相棒よりも先に死ぬことが、暗黙の了解になっている。

新たなゲーム参入者を増やしたのは、メーカーだけじゃなくユーザーの力添えもあってだった。

シューティングは、一人プレイ限定やスコアラー、ワンコインなど、こだわり者が多いが、このプレイスタイル、最初は笑われながらも、今ではそこそこに認められてきた。

上級者はハイスコアを出せるから上級者なのではないし、ただ記憶したとおりに自機を操ってクリアができるから上級者なわけでもない。

どんな状況であれ、どんな制限をつけようと、うまいから上級者なのだ。

組む相手によっては一人で二機を操るダブルプレイよりも難易度が高くなる。自分に降り注ぐ敵弾以上に仲間への攻撃に注意を払わなければならないから、知識上の攻略法よりも純粋な腕が問われる。

それでも、その条件を超えて初心者をワンコインクリアに導く技量のものは、親しみを込めてグランパ、グランマと呼ばれている。

紗希は、俺や舞衣にとってのグランマ。

だけど、俺はグランパを目指すには、どーしても操作ミスを減らしきれない。


「はぁ…」

二人とも2コイン投入で、最後の締めを舞衣が一人で担当し終える。ようやく力を抜いた肩は、もう一度温泉に入れば凝りが取れそうなほどだ。

「おつかれさん。双子シューティングと名乗るにも、俺が役不足だったかな」

「い、いえ、そんなこと…先輩のおかげで、心穏やかでした…です」

きっと、心強かった…とかを言いたいんだろうが。

大量破壊系のシューティングをやった後に、満面の笑みで心穏やかとかは、ちょっとニュアンス的に危ない。

「次は、地元でやろうか」

「せ、先輩が許容してくださるなら、いかなる時間でも…」

「では、そのときを心より待たせてもらうことにする」

エンディングのスクロールを終えて、名残惜しそうに舞衣が立ち上がる。クリアしたときぐらいは出さないでほしいGAMEOVERのロゴを見てから、台を離れた。

てきとーに眺めてまわるが、イマイチ、足を止めたくなるものに当たらない。やっぱ、選択肢がないほうが、かえって選びやすいもんだな。

「そこだ、いけーーっ!!」

「ん?」

「あっ…そっちは、あぶなっ…」

紗希が座って舞衣は観戦モード、あれも相変わらずの図式だな。

あの二人は楽しめてるからいいが、横に直人がいるのは珍しい。

あいつがゲームに熱さを感じるようになったのか。

それとも、あいつの食指が動かされるものがあったのか。

「やったら盛り上がってるな」

「あ、せ、先輩っ」

遠めに見てもうっすらと赤みがさしていた舞衣の頬が、すっと色を強める。慌て具合を教えるように、手をわたわたと動している。

「どうした?」

「い、いえ…これは…」

その小さな身体をちょこちょこと微笑ましく動かして、俺の視線を遮る。つまり、その裏に俺に見せたくないものがある。

「っと」

「あっ…」

舞衣を避けて画面を覗くと、画面が黒くフェードアウトする。

紗希がスキップしたらしいが、エフェクトが掛かる直前に少女とも幼女ともつかない、軽装の女の子の絵が見えた。

そして、画面に並べられた見慣れた雀牌。

つまり、さっきのは、勝ったときのシーンなわけだ。

「こら」

「いいじゃん、こんなときぐらい無礼講で」

「礼儀どうこうじゃなく、お前の相手は法律だろう」

これだけゲームが揃ってるんだから、なにも女の子が脱衣麻雀なんてやらなくても…。

「お兄ちゃんには分かんないかなぁ…この風情が。温泉=脱マーは基本でしょ?」

楽しそうに笑いながらも、いつものように不要な牌を着々と消していく。

一対一だからか、ずいぶんと配牌に作為を感じるな。

「お前のことを知らない人が来たら、勘違いされるぞ?」

「だいじょうぶ、お兄ちゃんがやっつけてくれるから」

信頼してますという笑顔に俺が言葉を止めると、紗希が瞳を輝かせて台を指差す。

「それにねー、これ、すごいよっ! 自分もキャラが選べて、負けると自分も脱ぐんだよ。もちろん、連コイン必須だけどね」

どうしても見たかったら、金にものをいわせることもできる…か。

ユーザーは見たい、メーカーは稼ぎたい、その妥協点をうまく収集させてるな。

「ずいぶんと商売根性旺盛なマシンだな」

「んー、そこまでふざけた難易度設定はないから、まだいいほうじゃない? 昔は、コイン入れて即天和やられて負け…とかもあったんでしょ?」

ずいぶんと懐かしく、また局所的な話だな。

「っとツモだ」

さっきちらりと見えた女の子が、画面の中央に登場する。

ずいぶんと軽装で、羽織ってるものは全てない…ってことは。

艶かしい動きを見せた後に、焦らすように手がボタンの外れたワイシャツの袖口に添えられ、そして、おもむろに動かすと…。

ワイシャツはそのままに、添えられていたキャラの手に何かが掴まれていた。

「は? なんだ今の?」

俺の質問に答えるように、画面の下に注釈が出る。

「はぁ~?! なんだよっ!? その超極薄の透明手袋って!? さっきから、焦らし過ぎなんだよっ!!」

画面の女の子が直人に、妖しい笑みを投げる。

投げキッスとは、また旧時代の挑発を持って来たな。

「なんだよ、その笑いは! んな笑顔よりも、とっとと脱げよっ!」

対面に女がいるわけじゃなく、既に作られたゲームに本気で怒れるんだから、直人の煩悩はやっぱりすごい。そこまでして見たいか…気持ちは分かるけど、人間、こうはなりたくないな。

「ほう、そうきますか」

「………」

紗希は不敵に笑い、舞衣が一歩下がってふぅっと息をつく。

実際にプレイしてる紗希よりも、舞衣のほうが緊張してるみたいだ。そういうお年頃…か。

「ここまで、何回勝ったんだ?」

「四連勝して一回負けて五連勝、9勝1敗ってとこだね」

「靴二つから始まって、手袋二つ、靴下二つ、コート、セーター、次がワイシャツと思いきや極薄手袋だ」

 脱いだ順番をきっちり覚えてるのか、直人がそう捕捉してくれる。

「この分だと、両手両足に、超極薄で透明なのをつけてるんじゃない?」

ふざけたような厚着設定は、明らかに意図しての連コイン用だろう。負けて連コインすればこちらも脱ぐって話だったが、千円だしてこれじゃあ止めるに止められないだろう。

「こんなあからさまな台が残ってるのも、田舎の醍醐味…か」

そのうち、馬鹿にしか見えない服を着てるとか言い訳しそうな勢いだな。

「そうそう、やっぱ昔の人がはまっただけあって、どっか笑えるよね。破綻もゲーム性のうちの一つってことだね」

本当に楽しそうにゲームをする紗希のことを見ると、なんにも言えなくなる。

100円玉のひとつでこれだけ楽しめるなら、べつにいいか。

「何かあったら必ず呼ぶ。いいな?」

「うん」

座った紗希の頭をなでると、目を細めて気持ち良さそうに紗希が微笑む。

やれやれ、この笑顔に弱いんだよな。

「ラスト近くなったら、メールするから」

楽しそうに笑う紗希の頭をぽんぽんとなでて、その場を離れる。

さて、俺も何かしようかな。

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