*再会のあとの衝撃
勇介は彼女がデイトリアを信頼している理由がよく解った。あんな光景を見せられれば、さすがの勇介だって納得するしかない。
「これならエルミが好きになっても仕方がない」と勝手な思い込みで自分をなだめた。強さ、優雅さ全てにおいて二人は釣り合っている。
俺なんかがどうひっくり返ったって敵う訳がない。誰の口からも彼女の想い人の名は出ていないというのに、勇介はそうしてエルミを諦めきろうとしていた。
出ていないからこそ、勇介はデイトリアの事だと思っている。
「はあ」
勇介は湯船で溜息を吐き出す。
思えば二人とも人間じゃない、それなら二人がくっつく方が自然なんじゃないか。自分がデイに敵う要素はなに一つとして見つからない。
唯一あるとすれば──
「人間てところ?」
いや、なんだそれ。ただの種族というだけだ。非力で、なんの力もなくて、すぐにエルミやデイを困らせて……。
失敗ばかりしている自分を振り返っただけのようで勇介はがっくりとうなだれた。
そうして風呂から上がり、のんびりしようとコーヒーを淹れていると玄関の呼び鈴が鳴り、勇介は面倒そうにドアを開いた。
「エルミ!」
思わず声がうわずった。何週間振りだろうか、彼女の澄んだ瞳が勇介を見ている。それがとても懐かしくもあり、勇介は嬉しさに口元をやや緩めた。
「久しぶりね、どう?」
「え、まあまあだよ」
「デイは?」
「今は風呂に入ってるよ」
エルミを中へ促そうとするが断られた、またすぐに出るらしい。
「襲われたんでしょう? 探っていたら魔物どもが動いたようだから気になったの」
「ん、ああ。心配ないよ、君の想い人が強いから大丈夫」
笑顔で返す勇介にエルミは怪訝な顔を向けた。
「想い人? 何のこと?」
「え? エルミの好きな人ってデイじゃないの?」
その言葉に彼女は眉間のしわをさらに深くした。
「なに言ってるのよ、違うに決まってるでしょ。あの人は人間界にはほとんど出てこないわ。デイは人間として生活しているけど、あの人はそうじゃないの」
「あ、そうなんだ」
聞いて勇介は内心ホッとした。彼女の想い人なら、やはりどこか警戒してしまう。本当の想い人が誰か気になる所だが、とりあえずはめでたしだ。
護ってもらう相手に気が置けないのは正直つらいというか、悪い気がしていた。
「ね? キレイな人でしょ?」
エルミは苦笑いを浮かべている勇介に悪戯な笑顔で発した。
「そうだね、彼が女性だったら良かったんだけどね」
勇介も悪戯っぽく返す。
「あら、デイには性別は無いのよ」
「えっ」
なにそれ!?
「性別が無い? でも、だって──え?」
勇介は頭が混乱した。
デイトリアは平気で勇介の前で着替えをするし、それを見る限りでは男以外の何者でもない。当然だが素っ裸をまじまじと見た訳ではないので確証は無い。
勇介はエルミを見つめたまま混乱した脳内でぐるぐると考えていた。
「見かけは男性だけど、実際は性別は無いのよ。もちろん女性の姿にだってなれるわ。それに──」
まるで恋人にささやくように彼女は意味深にこう続ける。
彼は昔、人間の女性だったのよ。と──