*暗闇の閃光
あれから一週間、魔物たちは何の接触もして来ない。それが返ってこんなにも苛立ちを呼ぶとは実際、思ってもみなかった。
デイトリアは落ち着いているが、勇介は本当に大丈夫なんだろうかとハラハラしていた。とはいえ、働かなくては生活がおぼつかない。
──仕事帰り、すでに黄昏時の空は鮮やかにビルの壁にオレンジの光を照らす。勇介は「これくらいなら大丈夫だろう」とたかをくくっていた。
会社を出ると見知った影が勇介を迎える。
「デイ!? 目が青い!?」
青い目のデイトリアが小さく笑みを浮かべる。
「赤い眼はあまりない」
そういえば遺伝子疾患でアルビノになる人は目が赤くなるとか聞いた事がある。そうでないデイが赤い目だと、確かに悪目立ちするかもしれない。
考えてみたら太陽の下のデイも初めてだ。沈みかかった陽の光で見る姿は、また違った魅力がある。通りすがる人たちの目線は、自然とデイの方に向けられていた。さすがにこれほどの美人が歩いていると赤い目でなくても目立つようだ。
背は勇介より若干、低いがその存在感は嫌でも人を惹きつける。
そうして肩を並べて歩いていると、徐々に光が吸い込まれていくように薄闇になるのに気づいた。
夜が来るという感覚じゃない、まるで光が何かに食べられたように自分だけがぽっかりと浮かび上がっていた。
「なんだこれ?」
不安になって見回すと、デイトリアが視界に入り安堵する。しかし、いつもの落ち着いた表情とは違い、いつになく険しい。何かに警戒しているのかやや前かがみになり、何かに構えている。
空間だけが真っ黒に塗りつぶされ右も左も解らない。そんな中ふと、何かの気配に目をこらす──
「うわっ!?」
そこには何十匹もの得体の知れない生き物がうごめいていた。ひしめき合うように様々な姿形をした者たちの全ての視線はこちらに向けられている。勇介は恐怖でデイトリアに隠れるように体を縮こまらせた。
「デ、デイ……」
「彼らの目的は私だ」
護り手を倒してゆっくり交渉するつもりなのか、勇介を魔界に連れて行く気なのか──どちらにしろ動き出した。
[キイイィィ!]
一匹の魔物の叫びが合図のごとく、津波のように一斉に押し寄せてくる。
「──っ!?」
勇介の目に、それはまるでスローモーション再生されたVTRのように映し出される──輝く二つの赤い宝石が数体の魔物を一瞬にして引き裂いた。魔物は目をカッと見開き断末魔の声を上げて転がる。
「……うそ」
たった今見た光景が夢なのではと思うほどに鮮やかだった。
デイトリアがゆっくり全身に力を込めたかと思うと、目が追いつかない速さで腕が振られ魔物が引き裂かれたのだ。
閃光のように動く彼の姿は、優雅でしなやかな猫科の猛獣──「豹」のようだった。そうか、だから「黒豹」なのか。勇介はこの状況で妙に落ち着いて納得した。
[グウ──]
魔物たちは眼前に転がる仲間の死体と、デイトリアの強さに悔しげな声を低くあげる。
「去るがいい」
一蹴されて苦々しい唸りを上げながら音もなく魔物たちは姿を消していく。
「あ、戻った?」
黒い空間が晴れるとまだ夕刻らしく、仕事帰りの会社員が帰路を急いでいた。勇介が腕時計を見やると長い針はあまり進んでおらず、ほんの数分の出来事だったと窺えた。





