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SCHUTZENGEL ~守護天使~  作者: 河野 る宇
◆第二章~隠される想い
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*時間という名の敵

 仕事を休んだ勇介は、デイトリアとの会話を楽しんでいた。

 もちろんエルミについて質問しているからであって、デイトリアはノートパソコンに向かいながら勇介の質問に答えていた。

「あの」

「ん?」

「その、迷惑かな」

 こちらを向かず作業を続けているデイトリアに気まずくなる。

「迷惑などと思ってはいない」

「だって、なんか俺ばっかりしゃべってる気がする」

「質問ばかりしているの間違いだろう? よほど彼女の事が好きとみえる」

「う──」

 エルミのことばかり質問している事にデイトリアも気がついていた。これはとても失礼なのでは。

「そ、そういえばエルミは黒の女王っていう名前がついてるけど君はついてるのかい?」

 苦し紛れの質問だ。咄嗟に思いついたものがこれだった。しかもやはりエルミに被せている。

「私にはそういったものは無いな。ただ──」

「ただ?」

「人間が付けたものならある」

「へえ、どんな名前?」

 その問いかけにデイトリアは眉を寄せた。「本当に聞きたいのか?」という表情で勇介を見つめる。

 その場しのぎに出した質問だが今更、引っ込めないし聞いてもみたいので勇介は相手の回答をじっと待つ。

「『碧眼へきがんの黒豹』と呼ぶ者がいる。気に入っている訳ではない」

「へえ」

 黒豹? ああ、なるほど髪が黒いからか。

 なんとなく納得し、改めてデイトリアの姿を眺めた。不思議な雰囲気を持つ瞳に、しなやかな身体からだは、いかにも「黒豹」と付けられそうな優雅さがある。

 かといって男ではどうにもならない、女だったらほっとかなかったかもなぁと小さく溜息を漏らした。

「あ、いいよ。俺が淹れてくる」

 コーヒーカップを傾けたが中身が無いことに気づいたデイトリアを見て勇介は立ち上がる。

「ありがとう」

「会社休んじまったからね、何かしないと」

 苦笑いでキッチンに足を向けて、ふと彼女の「大丈夫、すぐ仲良くなるわ」という言葉を思い出す。

 これは、まがりなりにも仲良くなったと言うのだろうか?

「勇介」

 コーヒーを受け取り、真剣な面持ちになる。

「なに?」

「これは推測でしかないが、奴らは本気で向かってくるかもしれん」

「え!?」

 動きの止まった勇介から視線を外して続けた。

「奴らの動きが妙に遅い。段階を踏まずして強力な何かを準備している可能性がある」

「どういうこと?」

 じゃあ、魔物たちは今まで本気じゃなかったってことなのか?

 気がつくと、デイトリアの瞳はじっと勇介を捉えていた。全てを見透かすような赤い瞳は勇介の心の奥底までえぐるように輝いていて、その視線に耐えきれず目をそらす。

 以前デイトリアが勇介に問いかけた──おまえは誘惑に少しでも揺らがなかったか──その言葉を思い出し、苦い表情を浮かべた。

「心に暗い影を落としてはならない」

「え?」

 ふいに発したデイトリアにおぼろげな目を向ける。

「奴らの誘惑に少しでも揺らげば闇に引きずられる。様々な悩みは奴らに付け入る隙を与えてしまう。すぐに取り除けというのは難しいかもしれんが、そうするしかない。私は──」

「じゃあ、どうすればいいって言うんだ」

 デイの意見はもっともだと思う。気遣って言ってくれているのもわかる。

 だけど──

「どうやってあきらめろって言うんだ? 俺にとっては遠い存在かもしれない。けど」

 勇介はまた思考がぐるぐるとして、真正面からデイトリアに甘えた形になった。

「どうしようもないじゃないか! 正直揺らいださ! エルミが俺のものになるって聞いて。だけど、俺が魔王になったって、彼女が本当に俺のものになるはずがないんだ。エルミは俺の、敵になってしまうんだから」

 それ以上の言葉は出なかった。震える手を強く握って抑えようとするが、高揚した感情は全身から汗をにじませる。

「それで良い」

「え?」

 まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなかった勇介は、呆けたようにデイトリアを見やった。

「危険なのは誰にもうち明けていない想いがある事だ。秘めた感情はそれだけで闇の種となり得る」

 奴らがそれを待っているのだとすれば──

「この時間が我々の敵となる」

 鋭い瞳を宙に向けてつぶやいた。

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