*仲間
「仲間って?」
「仲間といってもほとんど会わないんだけどね。とても綺麗な人よ」
「へえ」
キレイな人か、どんな人なんだろう。仲間ということは、その人も不思議な力を持っていて──人間じゃないのかな。
勇介は若干の不安を抱きつつも、綺麗な人という言葉に期待もした。そんなとき、玄関の呼び鈴が来客を伝える。
「来たわ、出てくれる?」
「え、玄関から?」
そんな勇介の言葉にエルミは小さく笑う。
てっきり人間じゃない者らしくこの場に突然、現れると思っていた勇介は考えていた事の恥ずかしさに小走りで玄関に向かった。
「はい」
ドアを開き勇介の目に映った人物は──
「立木勇介?」
良く通る男の声が勇介を確認するように発した。
背中に流れる黒髪は艶やかで、まつげは長く全てを見通すような瞳はエルミの仲間らしく鮮やかに赤かった。百七十センチを少し超えている男の外見は二十五歳ほどだろうか。
アクセントのように右側の前髪の一部は他の前髪よりやや長く、整った顔を際立たせている。
日本人とは異なり欧米か欧州を思わせる不思議な面持ちだ。肌の色は白人と黄色人種の中間あたりだろうか。落ち着いた色のパンツと前開きの長袖シャツを着こなし、ただ立っているだけだというのに上品な物腰であると認識出来る。
なんだ、男か……。勇介は残念そうに見知らぬ男を見つめた。
綺麗な人だなんて言うものだから、女性なのだと決めつけていた。でも、確かに美人だ。
「女と見まごう」という言葉があるけれど、そういう感じではなく神秘的な美しさを兼ね備えていると言った方が正しいのかもしれない。
「入ってもいいかね」
抑揚のない声に勇介はたと我に返る。
「あ、ああごめん。どうぞ」
男に見とれてしまった自分が少し悔しい。
「デイトリア、久しぶりね」
彼女は男の姿を見ると、立ち上がって笑顔で迎える。
「ああ」
「ユウ、紹介するわ。彼はデイトリア、とても頼りになる人よ」
紹介されたデイトリアと呼ばれた男は勇介に手を差し出した。
「よろしく」
挨拶を終えた勇介は飲み物を入れるためにキッチンに足を進める。それを見つつ二人は向かい合わせでソファに腰掛けた。
「あの人は元気? 相変わらずおカタイ性格なんでしょうね。本当は会いに行きたいんだけど、私なんかじゃ無理だし」
「会えばいつも口うるさくてね」
デイトリアの言葉に笑みを浮かべる。しかし、
「何故、私を呼んだ」
「え?」
エルミのカップが微かに揺れる。
「あなたは強いし、人間として生活しているからユウをまかせられると思ったのよ」
見つめる赤い瞳から視線を外し動揺していないように装うが、明らかに彼女は動揺していた。
「私を選ぶ事はなかったはずだ」
無表情ながらもその声にはエルミに対する疑問の色が窺えた。
「そんなことは──っ」
「なに? どうしたの」
ティカップを手に戻ってきた勇介は二人の間に何かあったのかと眉を寄せた。
「できるだけサポートはする。彼女にも言われたとは思うが自身で心掛けてもらわねばこちらとしても守るに守れん」
カップを受け取ったデイトリアが勇介を見やり、ゆっくりと口を開いた。
「ああ、わかってる」
勇介は二度言われたことになり、不満げに応える。同じことを言われるのは好きじゃない。
「それじゃあ私はこれで」
「え!?」
初対面の相手と二人きり? それにエルミはどこへ?
「彼女はもともと人間とはあまり接する事はない。お前を守るためにあちこち動きまわらねばならない」
「だったら──」
彼が行けばいいんじゃと言いかけて間際に止める。言葉にはしなかったものの、考えはしっかり読まれていた。
「私は彼女ほど顔が広くなくてね。人間の友人なら多いのだが、それ以外となるとやはり彼女が動いた方が確実だ」
「そうか」
「大丈夫よ、すぐに仲良くなるわ」
勇介の不安げな顔に笑みを見せる。そうして玄関に向かうエルミに勇介も続いた。
「ユウ、彼の言うことを良く聞いてね。あの人はきっとユウのために自分の身を盾にすらしてくれるから」
そんな彼女の表情は何故か切なげに見えた。
リビングに戻ると、まるで慣れ親しんだ場所のように男はカップを傾けてのんびりくつろいでいる。それにはさすがに勇介も呆れたが、度胸が据わっているのには感心した。
勇介は呆れて溜息を吐き、飲み終わったカップを流しに置く。そして、帰り際のエルミの言葉を思い起こした。
エルミはこの男に信頼を寄せている。そんなに強いのだろうか? それとも、それだけではないのだろうか。
「あっ」
まさか──この男がエルミの想い人!?