*回顧
魔物たちを統率するのは魔族と呼ばれる、魔界では上位に位置する存在だ。姿は人間と酷似しているが能力においては全てを凌駕していた。
一方、魔物には能力のない人間でも倒せるものから、魔族に近いものまで幅広く存在している。異形の姿をしており、おおよそ人とは似ても似つかない。
その中で人語を解するものは、ほんの一握りにも満たないだろう。
しかしながら魔族の数は魔物に対し多くはない。魔物は知性が劣っている分、増えやすいという性質なのかもしれない。
魔族たちは、そんな魔物を統率し人間界を手にするべく部隊を形成してその隊長となる。少しでも有利になるようにと、人間から魔王を生み出すために使い魔を人間界に紛れ込ませる。
せめてもの救いは、そのチャンスが百年に一度ということくらいか。とはいえ、それがいつも上手くいくとも限らない。
霊術士たちが阻止してきたというのも理由の一つだ。今回は阻止に失敗したが魔族たちが人間を魔王にと計画してから、それが成功した例は片手ほどである。
遙か昔から人間と魔物はそうした戦いを繰り返してきた。それほどに彼ら魔界の者たちにとって人間界は魅力的なのだ。
だからといってそれを許せる訳もなく。百年前に出現した魔王は突如、現れた影に一瞬のうちに消し去られた。
それが何者だったのかは推測の域を出ないが、少なくとも魔物や魔族とは一線を画した存在だったのだろう。
一撃のうちに両断したと記述にある事から、それが事実だとするならばおおよそ人智を越えている。
どれだけ調べても彼の存在に触れる事は敵わず現在に至っている。男なのか、女なのか。どういった存在なのか。敵なのか味方なのか──?
いずれにせよ、百年前はそれで救われたのだ。今と同じように人間が魔王となり、驚異は眼前にあった。
百年、それが遅れただけとも言えるが、少なくとも百年は安泰でいられた。次の驚異に対抗するべく準備はしてきたものの、やはりこちらの戦力が不足している感は否めない。
多角的に見て人間は不利だからだ。魔物のように戦いだけをすればいいという訳ではない。
「彼がいたならばな」
キャステルは苦い表情を浮かべ、一人つぶやいた。
薄暗い室内を照らす数々のロウソクの炎は気流を生む事もなく静かに揺れている。それは幻想的とも思える光景だ。
部屋には椅子や机が無く、白い布だけが敷かれている。キャステルはここで床に座し瞑想をしていた。キャステルが右手をゆるりと流すと、ロウソクの炎はそれに引っ張られるように同じ方向に傾く。これがキャステルの主な鍛錬法だ。
精神を穏やかに保ち続けることで能力をより強く発揮する。安定した集中力が要である。
キャステルは疲れたように深い溜息を吐き天井を仰ぐ。
望みのないものにすがりついている訳にはいかない、人間界は確実に危機に直面しているのだ。思考を切り替え静かに立ち上がる。
「私に何が出来るのか」
愁いを帯びた瞳は宙を見つめた。
多くの犠牲が伴うだろう。だが、最後まで諦める訳にはいかない。その決意を胸に、彼は部屋をあとにした。





