*陰りの太陽
「どういう事だ。愛しているだと?」
何故その言葉が自分に向けられたのか理解出来ない。彼はエルミに好意を抱いていたのではなかったのか。
「ユウはあなたを好きになったのよ」
困惑しているデイトリアにエルミは目を伏せて応えた。
「まるで事前に解っていたような口振りだ」
彼女の言葉に怪訝な表情を浮かべた。
「それは──」
「話せ」
赤い瞳がエルミを見据える。どうあがいても言い訳も言い逃れも出来そうにない。
「あ、あなたになら、きっとユウは心を移すと思ったの」
視線を合わせずに途切れ途切れに応えた。
「なるほど。やってくれる」
溜息混じりに発して頭を抱える。
「私を当て馬にするとは」
「ごめんなさい……。ユウの気持ちに耐えられなかったの」
遠く焦がれるあの人に想いをはせるたび、彼の熱い視線を思い出し胸を突き刺した。応えられない想いはエルミには苦痛だった。
デイトリアは震えながら声を絞り出す彼女を一瞥し、再び深い溜息を漏らす。
「起こってしまった事は仕方がない。お前はそちらで話をつけろ。私は人間側と話す」
発して、準備していた食事を冷蔵庫に仕舞い始めた。
──正午過ぎ、太陽は真上で影を小さく形作っている。
「デイ!」
自然公園の一角、人気のない場所でベンチに座っていると久住 将が遠くから嬉しそうに駆け寄ってきた。
満面の笑みでデイトリアの横に腰掛けると抱きつかんばかりの勢いで見つめた。
「どうしたんだ? 君から連絡くれるなんて、それにあいつは?」
キョロキョロと周囲を見回し、勇介がいない事に怪訝な表情を浮かべた。
「組織の代表と話しがしたい。出来れば他の組織の代表にも連絡を頼む」
「え?」
久住は表情を険しくして少し身を引いた。
「何かあったのか? デイがそう言うのだからよっぽどのことだろう」
男を一瞥して口を開く。
「魔王が復活した」
「なんだって!? どういうことなんだ。デイがあいつを守っていたんじゃないのか?」
久住の驚きは隠せない。彼の強さは久住が知る限りどの人間よりも上を行っている。それ故に信頼は硬く、彼が守りきれなかった事に驚愕した。
「すまない」
「そんな! デイがだめじゃ誰がやったってだめだったさ!」
「そういう意味ではない」
「?」
何かを含んだ物言いに眉を寄せた。
「とにかく、よろしく頼む。事は一刻を争う」
「わかった! 話がついたら携帯に連絡するよ」
デイトリアは足早に立ち去る久住の背中を見送り、溜息を吐き出して空を見上げる。
エルミの気持ちも解らんではない。だが、どれほど焦がれようともその心は決して奴には通じはしない。
奴にも私にも、その感情は存在しないのだから──それが解っていながら、おまえは愛し続けるのか。
恋愛感情はなくとも、人であった過去の感情は未だデイトリアの記憶にある。それ故にエルミの想いがいかほどの苦しみかは理解出来る。
だからこそ、報われない想いを抱える彼女にデイトリアは苦い表情を浮かべるのだ。





