*愛してる
「どうした」
「ん、ちょっと悪い夢を見ちゃって」
頭をかかえて起きてきた事に気遣うデイトリアに苦く返し、ダイニングの椅子に腰掛けた。
「デイって気が利くよね」
目の前にコーヒーが置かれてぼそりとつぶやく。
「そうかね?」
しれっと応えるが、今まで何人かいた恋人でさえ彼ほどの気配りをしてくれた記憶はない。別にそれが良い悪いとか言うつもりはないけど。
「ん?」
リビングテーブルに置いてある勇介の携帯端末が着信を知らせていた。どうせいつものニュースだろうと立ち上がる。頼んでもいないのに毎日ニュースだの占いだのと面倒なメールが着て困る。
まだ痛みを残すこめかみをさすりながらメールを開く。
「えっ!?」
その内容に驚いて慌ててテレビをつけた。
「うそだろ」
速報を流すチャンネルを変えていき、ニュースに切り替えて放送している局で止める。
「デイ、戦争が始まった」
もちろん日本ではなく別の国での事だ。今までの小競り合いや内戦が続いていた国同士が互いに全面的な戦争を始めた。
それぞれが敵国だと攻撃し合い、映される映像はかつての戦争を彷彿とさせる。しかし、これは過去の記録映像じゃない。
鮮明に映し出されている争いはいま、現実に起こっているものだ。自分の今の状況よりも実感が湧いてくる。
テレビから流れ続ける映像に喉が渇き、息苦しさで自分の胸ぐらを掴んだ。
「なんとかならないのか? デイの力なら──」
何かにすがりたくて、つい口にした。
「私に何をさせると? 第三者の介入は事を大きくするだけだ。人が成した事は人が解決させねばならない」
それはそうかもしれないけど、デイの力ならどうにか出来るはずじゃないか。あんなに強いんだから。
それとも、デイにとっては戦争など取るに足らないものなのか?
「デイは何とも思わないのか」
再び朝食の支度を始めたデイトリアに喉を詰まらせる。
「私に何を望む。泣いて悲しめとでも言うのか。それとも、ただ悲しみに暮れていれば良いのか」
「あ、いや。そういう訳じゃ……」
解決できないことをデイに押しつけている。
いつもそうだ、何も出来ない無力な自分を嘲笑しながら見ない振りをする。そのくせ、誰かが解決してくれないかと高望みする。
自分では動かないくせに俺は──
「仕事はどうした」
随分と時間のかかった着替えから戻ってきた勇介に何故、私服なのかと眉を寄せた。
その刹那、黒い影が二人の前に現れる。
「デイ!」
エルミは声を荒げてデイトリアに駆け寄った。荒い息を整えて勇介とデイトリアを交互に見やり、ホッと胸をなで下ろす。
「どうした」
「人間界の境界線が揺らいでるの。まさかユウが向こうについたんじゃないかと思って急いで来たんだけど」
「何?」
エルミの言葉に顔をしかめたデイトリアの首にふいに腕が巻き付いた。視線を向けると、そこには口の端を吊り上げた勇介の顔が間近に見えた。
それにいぶかしげな表情を浮かべて向き直る。すると勇介の背後が渦を巻き始め、そこから三人の四魔将とルーインが出現した。
「どういう事だ」
何故ここと魔界がつながるのかと眉間のしわを深く刻む。勇介はそんなデイトリアに再び腕を回し、その唇に自分の唇を重ねた。
「──!?」
「愛しているよ。だけど人間はもう嫌いなんだ」
思いがけない行動に未だ目を丸くしているデイトリアに発して遠ざかる。
「勇介よせ!」
「願わくば俺の側について欲しい」
遠ざかる青年に伸ばした腕は吹き荒れる風に視界を遮られ、再び目を開くと勇介たちの姿はすでに消えていた。





