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SCHUTZENGEL ~守護天使~  作者: 河野 る宇
◆第四章~決断の時
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*悪夢

 魔物たちはデイトリアの強さを認識したのか、あれから姿を現さない。諦めた訳ではないだろうが、なんだか不気味でさえある。

 そして、勇介が気付いた事が一つある。もしかすると、彼は食べなくてもいいんじゃないだろうか。食事でおかわりをしたのを見た事がなく、必ず勇介よりも量が少ない。気付いた事が不思議なほどに自然に振る舞っていた。

 勇介はそれを彼に尋ねる事を躊躇った。その疑問が真実なら、ますますデイトリアが遠い存在に思えてしまう。

 そう思える事が、どうしてそんなに怖いのかは解らない。かつては勇介と同じ、人間の心と肉体を持っていたはずのデイトリアを、もとより人じゃないエルミよりも遠く感じてしまう。

 きっと、それを口にした所でデイトリアはいつもの静かな口調で「だからどうだというのだ」と答えるに違いない。この苛立ちはなんだろう。

 勇介は気づかずにその苛立ちを彼にぶつけていたらしい。目の前のソファに腰掛けているデイトリアが眉を寄せた。

「何を怒っている」

「別になにも」

 食事を終えてコーヒーを傾けつつ、ぶっきらぼうに返す。

「エルミの事で怒っているのか」

 なんだ、気にしてたのか。勇介はそれに少し安心した。遠く感じていた距離が一気に縮まる。

「仕方なかろう、優しく返した処で進展など望めないのだ。奴の性格もよく知っている」

「いや、もういいんだ」

 吹っ切れたような表情を見せた勇介に眉間のしわを深く刻んだ。



 そして、勇介の夢は再び悪夢となる──

「おまえの欲しいものはなんだ。力を手に入れればその願いは叶うぞ」

 暗闇からの不気味な声は、低く勇介を誘惑する。

「そんなもの嘘だ!」

 勇介は声から逃げようと必死に足を動かした。どこまで走っても広がるのは暗闇ばかり。不安が勇介の心を支配していく。

「おまえの望み通りの世界に変えられる」

 しかし、その声は勇介の耳元で聞こえて暗闇から腕が伸びる。その青白い腕は逃げる勇介の腕をしっかりと掴んだ。それに驚いて振り返り、腕の主に目を見開く。

「ファリス!?」

「そうです、私ですよ我があるじ。私は夢の中に入り込む力を持っているのです」

 勇介を掴んでいた手を離し、優雅に口を開いた。相変わらずの慇懃無礼いんぎんぶれいな態度が鼻につく。

「もっとも、デイトリアスがあなたを護っているおかげで何もできませんが」

 それを聞いて安心した勇介を鼻で笑った。

「あなたは彼に対してとてもショックだったでしょう? 何せ我々を怯ませたのですから。あれでは人間ではなく化け物だ。あんな力の持ち主、人間であるはずがない」

「それは」

 人間だったのは昔の話で……。

「ほう? では今は人間ではないのですね? なるほど、我々はまんまと騙されていた訳か」

「え!?」

 言葉にはしなかったはずなのに考えた事が知られている。

「ここは私の夢の中、人間の思考は私には筒抜けです」

 緩んだ口元に勇介は嫌悪感を覚える。

「おや、怒ってらっしゃるのですか? 魔王になったあなたなら、私を見下すこともできたでしょうがね。あのデイトリアスだって、魔王になればすぐにでもあなたのものになるでしょうに」

「なんなんだよ前からおまえ! 俺はデイなんて何とも思ってないんだよ。俺が好きなのはエルミなんだよ。、大体デイは──」

「どうしました? 彼が男だからと言いかけて何故止めるのです? まあ、性別なんて気にするのは人間くらいのものですがね。我々は気に入れば何だって関係ありませんから」

 その言葉が、勇介の考えを再びファリスに読ませる結果になってしまった。

「ほうほう、性別が無い? それは好都合ではありませんか。男ではないのですから、何を気兼ねする必要があるのです?」

「うるさい……。うるさいうるさいっ!!」


 ──朝の目覚めは最悪だった。

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