*心の明暗
「なんだって? こいつが!?」
男はひと通りの話を聞くと驚いた声を上げ、勇介をまじまじと見つめた。勇介自身でさえ未だに信じられないのだから、男の驚きは当然だろう。
男の名は久住 将二十二歳、かなりの力を持っているらしい。
「でもなんだってそれを隠してるんだよ。オレたちにも話してくれればちゃんとバックアップするのに」
その言葉に、デイトリアは品良く紅茶を傾けたあとティカップをテーブルに乗せた。
「少しでも情報の流出は避けたい」
「なんだよそれ、オレがべらべら話すと思ってんのか? それとも仲間が信用できないのかよ」
彼が怒るのは当たり前だろう。しかし勇介は、そんな意味でデイが話さなかったんじゃないんだろうと考えていた。
「信用していない訳ではない。危険をなるべく避けたいだけだ。魔物だけが敵ではない事くらい解っているはずだろう」
その言葉に久住はハッとして視線を泳がせた。
「どういうこと?」
「世の中には魔物の出現を快く思わない者たちばかりではない」
それを聞いた勇介は愕然とした。そりゃあ、色んな考えがあるのは当たり前だけど、自分たちを脅かす存在を求めるなんて、そんなのおかしい。自分たちだけは殺されないとでも思っているのか、それとも自分の命すら捧げるほどの心酔ぶりなのか。
そんな人間たちが勇介の事を知れば必ず攻撃を仕掛けてくる。
そうなれば、デイは人を殺さなければならないのか──? そんな光景は見たくないと勇介は眉を寄せた。どちらにしろ、俺には理解出来ない。
久住は事の重大さに顔を伏せる。彼の表情から、今までも同じ人間同士で戦うこともあったのだろうかと勇介は気が重くなった。
しかしすぐ、
「それをオレに話してくれたってことは、デイはオレを信用してくれたってことだよな!」
顔を上げ、嬉しそうにデイトリアを見つめる。めげない奴だなと勇介は半ば呆れた。
「じゃあオレも一緒にこいつを護るよ」
言いつつも勇介を見る目があまり穏やかとは言えない、まだデイトリアとの関係を疑っているようだ。
よくも堂々とライバル視するもんだなと溜息を吐き出す。どうやら久住なる人物はデイトリアがすでに人ではない事を知らない。
相手の性別がどうあれ、好きな人のことも大して知らないくせに(ましてや、かなり重要なことであるのに)ライバル視されても困る。
「誰かが関わればそれだけ足がつく」
「そうか」
言われてうなだれる。実にわかりやすい奴だ。
「何かある時はお前に頼むとしよう」
「わかった!」
途端に喜ぶ久住に子供だなと勇介は鼻で笑う。自分だってエルミの言葉に一喜一憂するくせに。
そうして、ひと通りの話を済ませて久住を玄関まで見送る。
「それじゃあデイ」
「うむ」
無表情に発するが、抱きつこうとする久住の腕を掴んで阻止する静かな攻防戦が繰り広げられていた。
諦めた久住は息を切らせて残念そうに帰っていった。見ていた勇介は必死に笑いをこらえる。
「せっかくの朝飯が冷めてしまった」
キッチンに戻ったデイトリアはぼそりと残念そうにつぶやく。
「あっ! しまった仕事!?」
壁の時計はすでに十時を示していた。勇介は大急ぎで準備をすると、テーブルのおかずをほおばった。
「ひってひはふ!」
「今のはいってきますと言いたかったのか」
あわただしく出て行った勇介の背中を見送り眉をひそめた。
会社への道のり、勇介は自分の置かれている立場に改めて恐怖を感じていた。同じ人間にも狙われるという事実は衝撃的だ。
色んな人間がいるという事を、こんな事で理解しなくてはならない。それが勇介には少し切なく思えた。





