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SCHUTZENGEL ~守護天使~  作者: 河野 る宇
◆第三章~静かなる攻撃
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*存在

「その減らず口さえなきゃオレの好みなんだが」

「お前に好かれたいとは思わん」

 しれっと言い放ち、勇介は思わず吹き出しかけた。

「そんなに死にたいか」

 さすがのルーインも軽くあしらわれた事に怒りをあらわにした。

「やってみるかね」

 応えたデイの表情に勇介は息を呑んだ。相手を挑発するその微笑みは恐ろしいほどに美しい。

 その横顔にルーインも魅入られたように動かなかった。デイトリアから放たれる存在感は妖艶でいて攻撃的な何かをにじませて絡みつくように部屋に充満する。

 ふいに、外から車のクラクションが聞こえて貼り付けた空気を切り裂いた──外は渋滞の一歩手前にさしかかる時刻になろとしていた。

「デイトリアス、いずれまた会おう」

 ルーインはデイトリアを睨み付け、ゆっくりと消えていった。

「はあ~、びっくりした」

 勇介は消えた気配にホッとして疲れたようにソファに背中を預ける。仕事に行く気にもなれず、また会社を休んだのだった。

「そういや、あいつデイトリアスって」

 翻訳の仕事を始めた彼に視線を移す。

「人間としての名はデイトリアスと言うのでね。私の正体を知っているのは、この世界ではエルミくらいだろう」

「魔物はデイが人間じゃないって知らないのか」

 そういえばデイはこの世界の人じゃないってエルミが言っていたけど、俺を守ってもらうために彼女が呼び寄せたんだっけ。

 勇介はテレビを見ながらデイトリアを一瞥した。

 いつものデイ、いつものひととき。ルーインをひるませたあの表情は、もうどこにもなかった。しかし、あの強烈な存在感は頭から離れてはくれない。

 あの表情を思い出すたびにデイの敵ではなくてよかったと思う。

 なんていうのか、あれは不思議な感覚だ。全てから見放されたような絶望感──あの顔がもし自分に向けられていたら絶望する。デイに見捨てられたくない。

 まるで、天使と死神が表裏一体であるように思えた。

 俺が魔王になったらデイの敵になる? 彼に勝てるだけの力なんて手に入るのだろうか。今まで生きて来て、そんなものの類に触れたことの無い俺には身近にいるデイがとても強く思える。

 あれがデイの全力な訳が無い。俺一人が加わったところで、魔物の戦力になるんだろうか。

「魔王ってそんなに大事なのか? 俺には奴らが期待するような力は無いと思うんだけど」

 そうだよ、俺にあんな力があるはずがない。

「ふむ」

 デイトリアは勇介の言葉に小さく唸りノートパソコンを閉じる。ひと仕事終わったのだろうか、勇介はそれを見て二杯目のコーヒーを入れにキッチンに向かう。

 リビングテーブルにコーヒーとクッキーが置かれ、落ち着いた雰囲気のなかデイトリアは口を開いた。

「奴らにとって魔王とは、強大な力を持つ者だけを意味するのではない。奴らの中心にいるという事は、魔物を支える役割を果たすという事だ。奴らは負の存在であるが故、太陽の力、陽の力には弱い。彼らの力は魔王に依存する。魔王に陽の力の抵抗力があった場合、彼らには陽の力に対する護りが生まれる事になる。それがどういう意味か解るだろう」

 この世界は陽の力に包まれている。魔物が棲む夜が訪れても再び太陽は世界を照らす。

 しかし、この世界の者が魔王となれば、

「魔物が一気にこの世界に──?」

 ごくりと生唾を呑み込んだ。

「負の力とは心の負の部分も意味する。恐怖や憎悪が奴らへの糧となる。力を持たない者が恐怖するのは仕方のない事だが、それが魔物のエネルギーに置き換えられる事は避けたい」

 ようやく自分の立場がどれほど重要なのかを実感した勇介は言葉もなくデイトリアを見つめた。

 エルミもデイトリアも人間ではないのに、この世界を救おうとしている。俺は正直、人間という存在が本当に良いのか解らない時がある。

 良い人もいれば悪い人もいるっていうのは解るけど、二人がそこまでして守ってくれるというのは、どうしてだか不思議に思えた。

 勇介の心は複雑だった。

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