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あなたを思い、きみを考え、期待した

本当にお久しぶりです。私事に区切りが付いたため、改めて更新を行いたいとおもいます。詳しくは活動報告へ。


追記(2013年9月15日):500PVを頂きました。これは……焦る!


※本来ならば新作の短篇と同時更新のはずでしたが、都合により別々の更新とします。申し訳ありません。

 「早かったな、もう少し遅くてもよかったのに」

 目を細めて口を小さく歪めた行広は、真顔で戻ってきた渡に意地悪く言った。

 「待たせたら悪いからな。……で? 合わせてみようぜ、図面!」

 「ストップ」

 こんな道路標識があったら絶対に一時停止しそうな、キレイに開かれた行広の掌が渡の視界を奪った。

 「なんで? もう描きあがったでしょ?」

 「あぁ、オレはな」

 「俺もだ」

 無言で首を横に振る行広。自らが持つ筆記具の先端で、渡の製図用紙の寸法数字が書かれている部分と縮尺を記載する部分を示した。

 「渡、気づいた?」

 「…………あ、倍になってる……」

 「OKだ」

 渡が担当していた製図用紙の一枚。この用紙に描かれている部品だけが、実際の大きさよりも二倍で描かれている。見た目の大きさだけを二倍と仮定して描いているため、寸法値は二倍になるはずがない。しかし、渡は寸法値までも二倍にして描いていた。幸い、数値部分を半分にするだけで修正は済みそうだが、行広からの視線は先ほどよりも確信を得ているといった感じがする。目線を逸らそうにも逸らせない、渡は額に汗が浮かぶのを感じた。

 「すぐに直す、ごめんな」

 「謝罪はいらない、渡の浮いた話で手を打とう……なんてな」

 ボキッと筆記具の芯が折れた。これがダメ押しの一手となった。

 「ど……ど……どど…………」

 「……ド? あぁ、ドラフター? でもさ、製図室に行くまででもないと思う……」


 「どうしよーーー!」


 「…………何が?」

 行広の呆れ顔に拍車がかかった。




 明日香はパタンと携帯を閉じた。外部液晶のデジタル時計は、今が夕方であることを告げている。

 「(何で返信させるような文面にしたんだろう……。また会う訳でもないのに……)」

 電話番号まで載せておいて今更ではあるが、これでお互いがお互いの連絡先を把握していることになった。

 「(ま、用事がある訳でもないし、無視されて終わりだね……)」

 実物の手紙とは異なり、電子メールというものはたったの数秒で消去することができる。それがデータである以上、何も考えずに消すことは簡単だ。明日香は自分でもメールを送信したことを忘れれば良いと思っているが、なかなか携帯を手放せないでいた。

 「じゃぁ、どうして私はメモ用紙を捨てなかったの?」

 捨てるどころか、簡単に消せるはずのデータとして携帯に渡の連絡先を登録した。

 「(馬鹿か、私は。今すぐに消せばいいんだ……)」

 電話帳には渡を除いて男性は登録していない。すぐにカーソルを合わせることができた。

 「(消す……消す……)」

 難しいことじゃない。それだというのに、明日香の指は動けなかった。




 あまり見ることがない渡の慌てぶりに、行広は内心で仰天したが、表情は落ち着いていた。

 「まぁ、落ち着け。ラッキーなことに図面の修正は五分で終わるような内容だ。今から始めなくても、今日の夜にでもちょちょいで終わるだろう?」

 「あ……あぁ」

 「んで、何か良く分からないけど、すごく慌ててる渡さん。一体どうしたんだ?」

 「それが……。困ってる人を助けたら感謝されて連絡来たと思ったら返信しなきゃいけないような内容で困っているところに図面のミスが見つかってそれで必死に文面考えてたら行広のセリフが気になって芯が折れてそれで」

 「あー! どこかで区切ってくれっ! 句読点入れろっ!!」

 「ゴ、ゴメン……」

 「相当に重傷だな、これは……。何があったのか聞いてもいいか?」

 無言で頷く渡。『こんなヤツだったか?』と目を細める行広。渡はゆっくりと話し始めた。

 「実は、数日前に車いす使用者の方の車いすを修理したんだ……。ほら、この暑さだろ? 道端で急に自分の足が動かなくなったのと同じじゃん? 熱中症になるって思ったんだよ……。見かけたのは偶然だったけど、運よく愛車の整備中でさ。ついでだと思って一緒に修理したんだ……。特にどこか壊れていた訳じゃなかったから比較的すぐに終わったんだけど……」

 「『一生懸命に整備した車いすを返却したときの笑顔が可愛くてメロメロになっちゃったんだ』……ってか? 何と言うか、分かりやすいヤツだな、渡」

 「俺、使用者が女性だって言ったけ? もしかして行広ってさ、エスパー?」

 「アホか。その余計なひと言が無ければ分からなかったよ」

 「ですよねぇ……」

 行広曰くアホな渡は一瞬にして登場人物の性別を把握された。行広はだんだんと笑顔になっていく。口をだけ歪めた笑顔に。

 「メロメロになった……と。純粋なヤツって、時に面倒くさいな」

 「二度も言うな。まだメ……メロメロだって言ってないだろ?」

 「あれ、違うの?」

 「あ、当たり前だ!」

 「じゃぁ、何でメールが一通届いただけであんなに慌てたの、わ・た・る・君?」

 「………………」

 勝負あり。敗戦宣言は渡の次の一言から始まった。

 「お願いします、行広様!! 相談に乗ってくださいませ!!」




 明日香の携帯はベッドの上に放置されていた。外部液晶が示す時間は午後十時。即日の返信は元より期待していない。ただ、もし読んでくれているならば、忙しい合間を縫って返信を書いてくれているならば、このくらいの時間には届くはずだ。明日香は期待と諦めを同時に抱えつつ、携帯の外部液晶を見つめた。

 「結局……、消せなかった……」

 電話帳には“竹下渡”の項目が残っている。そこに居るはずもない渡に言うようにして、明日香は携帯を手に取ろうとした。


 一通の新着メール


 「…………嘘……」

 たった今届いたらしい。ベッドに接触しながら鈍いバイブレーションの音が聞こえてきた。

 届くはずがないと思ったメール。でも届いて欲しかったメール。それが今、明日香の携帯に届いた。

 「(と、とにかく読む!)」

 ベッドへ向けて前傾姿勢、重心が自然と前へ倒れることを確認したら、両手は携帯電話へ。まさに鷲掴みである。

 「(うぅ……恥ずかしい……)」

 明日香は、慌てずに受信ボックスに届いた新着メールを開いた。


-=-=-=-=-=-=

<Time> 20XX/07/29 22:06:10

<From> 夕ちゃん

<To> 上浦 明日香

<Subject> 無題

<Text> 0.2 Kbyte

------------

さっきの話だけど、勝手なこと言ってゴメン。

自分の好きになる人なんて、他人に言われて

決めるもんじゃないよね。なんか私ら、やっと

明日香が幸せになるんだって思ったら浮かれ

ちゃったみたいだ。


今日の話はさっぱり忘れて、自分の好きな人

を見つけてくれ。

-=-=-=-=-=-=


 ベッドへ飛び込んでまで読んだメールは、友人の夕からであった。少し気にしていた明日香は、携帯を閉じるとベッドへ顔を沈ませた。

 「馬鹿だなぁ……、心配してくれてる人を怒るわけないじゃん……」

 意外だったのは、あの夕からこのようなメールが送られてきたこと。特に返信するつもりもなかった明日香は、再び携帯をベッドへ置いた。


 一通の新着メール


 「!!」

 気を抜いた瞬間の着信だった。明日香は携帯を凝視する。

 「(まさか、立て続けに夕ちゃんが送ってくるはずが……)」

 明日香は確信を持って携帯に触れる。既に納まった振動も、明日香の拍動に拍車をかけた。

 「(焦る必要なんてない、届いたメールを読むだけ。それだけ……)」

 改めて開いた受信ボックス。夕のメールの上の欄には、未読状態のメールが一通。先程はいい加減にして読まなかった宛先も、開封前に目を通す。

 「竹下……渡……。届い……ちゃった…………」

 紛れもない、渡からの返信であった。タイトルも、明日香が数時間前に送信した物と一致する。ここまで来ても、言い訳を言うほど駄々っ子ではない明日香。震える指とは反対に、本心は落ち着いたものだった。

 「(私、期待してた……。今、少し嬉しいや)」

 明日香の期待と共に、メールは開かれた……。




 竹下家、午後十時半。

 『おい渡、いい加減に教えろ。なんて送ったんだ?』

 「うるせぇー! 教えるわけないだろ!」

 『えー、相談に乗ってあげたのになー。少しは感謝しようって気にはならないの?』

 「わー、流石は女っ垂らしの行広様~。ボクにとってタメになるお話ばかりでしたよ~。本当、感謝してま~す」

 『…………いいんだぜ? 大学で『渡に彼女ができた!』と小指を立てて走り回っても』

 「止めてくれ、それだけは止めてくれ」

 『じゃぁ、教えて?』

 「……無理」

 『さ~て、小指小指っと……』

 「頼むよ……。女性に、しかもひとつ年上にメールを送るなんて初めてだったんだ……。行広から話を聞いて、一生懸命考えて送ったんだ。この恥ずかしさ、分かってくれるだろう?」

 『う~ん、慣れちゃったし』

 「…………」

 『待て待て、まだ電話切るなよ? 実は渡から今回の相談持ちかけられた時、面白がって冗談半分のこと教えてもよかったんだ。でもな、お前がこの世の終わりみたいな顔で迫ってくるもんだから、当たり障りのない、簡単なことしか言ってないんだよ。嘘だと思ったら調べてみるといい』

 「じゃぁ、行広もネットで調べて、その……女性へのメールの送り方を勉強したわけ?」

 『勉強っつーか、多感な時期の出来心というか……う~ん……』

 「ははは、行広も俺と同じこと知りたかった時期があったんだな」

 『まぁ、そういうことにしといてくれ』

 「あぁ、ありがとな」

 『気にするな。でも、くれぐれも返信が来なかったからって沈み込むのはナシだ。お前に気があっても、向こうは分からないからな』

 「あぁ……サンキュー、行広」

 『渡の浮いた話が聞ける日を楽しみにしてるぞ』

 「『じゃ、おやすみ』」

 液晶の通話時間には五分と出ていた。渡にとっては五分でも長電話だ。

 「(ついに、送ってしまった……)」

 おもむろにメールアプリの送信済みボックスをタップする。一番上に表示されているのは、数分前に明日香へと返信したメールがある。送信ボタンをタップする前に何度も何度も読み直したメールではあるが、行広との電話を終えて渡は読み直したくなった。


-=-=-=-=-=-=

<Time> 20XX/07/29 22:11:02

<From> 竹下 渡

<To> 上浦 明日香

<Subject> Re:こんばんは、上浦です

<Text> 0.4 Kbyte

------------

上浦さん、こんばんは。

先日の菓子折りですが、こちらで美味しく

頂きました。心配されていたようなことは

なかったので、安心してください。


また、連絡先の件ですが、わざわざ教えて

いただきありがとうございます。お使いの

車いすについて不具合を感じたら、また連絡

を下さい。すぐに飛んでいきます! 

もしくは近くを通るようでしたら、お寄りくだ

さい。


竹下 渡

-=-=-=-=-=-=


 「また、会えるよな……」

 自然と、渡の瞼は閉じた。夢には初めて明日香と会った時のこと。直った車いすに喜ぶ明日香の笑顔が咲いていた。

(以下、本編とは無関係)

緊張から解放されると、何しでかすか分からないのが人間ですね。そろそろ食事を控えないと……。ダルマにだけはなりたくないです。

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