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第八話。


渡への感謝を終えたことが知られると、友人たちに迫られる明日香。自分の意思を貫く姿勢を見せるが……。一方、渡も友人に何か悟られたが、タイミング良く携帯に一通の連絡が届いた。



前回の投稿から間が空いた気がします。お待たせしました(?)、最新話です。手遅れですが、ワンパターンな展開というヒドイ構成です。

 「明日香、報告」

 月曜日。先週末に渡へと感謝を示した翌週。学食では夕、花帆、実来が明日香に期待の眼差しを向けていた。

 「えーと…ナンノコトカナー?」

 「とぼけても無駄。もちろん、会ってきたんでしょうね?」

 たしかに会った。ただ、明日香はきっと三人が望むような返答はできないと思っていた。

 「まぁ……会ったけど。お礼を言っただけだよ」

 明日香の左手は膝下まである長いワンピースのポケットで静かに握られた。

 「え? お礼だけ?」

 「う、うん。まぁね。(本当は少しだけ価値観の変わるような……ね)」


 「詰まらん」


 夕が放った。机に両手を付いて明日香に迫る。

 「いいか、言うぞ? 前にも言ったがチャンスだ。何のチャンスかだって? カレシだよ、“彼氏”! 『困ったお姫様を救った王子様』……。万国共通で絵本になるほどの王道な展開じゃないか! 話を聞けば悪いヤツじゃなさそうだ、そこで私は提案する! 明日香、ソイツとくっ付け!!」

 「…………いきなりだね」

 「そう思うのは明日香が鈍感だから。お節介って言われるかもしれないけど、私たちは明日香が心配なんだよ。いつだったか忘れたけど、話してくれたことがあったよね? 『将来、独りは不安』だって……」

 足が治る見込みがあれば決して口からは出なかったセリフ。この考えが明日香の弱点である。左手に力が籠る。

 「……まぁ、言ったけどさ」

 俯いた明日香に気づいた三人はこれまでの勢いを少し削ぎ、空回りした行動を恥じた。

 「心配してくれるのは嬉しい。でも、考えさせて、ね?」

 『独りは不安』。この弱点を抱える限り、明日香は他人に強く出られない。知らないフリはしていたが、本当は考えていた。

 「早く……見つけないと」

 左手から力が抜けた。




 母の運転で帰宅すると、明日香は真っ先に左ポケットを確認した。軽く握った拳を開くと、そこには渡から以前に渡されたメモ用紙と同じ物が握られていた。

 「本当は……すぐに捨てるつもりだったのに……な」

 渡されてから三日も経っていないというのに、そのメモ用紙は既に皺だらけである。書かれている文字は小さく、しっかりと皺を伸ばさないと正確に判読できない。明日香は椅子のない机に向かって目を皿のようにして皺を伸ばした。何故もっと大きな字で書いてくれなかったのかと思うところではあるが、今の明日香にとって文字の大きさは問題ではない。

 「何で握ったりなんかしたんだろう、私……」

 どんなに頑張っても伸びない皺は、爪の痕の様だ。明日香は数時間前の自分の無意識を後悔した。握ってさえいなければ。感情的にさえならなければ。

 「……よし、これで読め……るよね?」

 小さなメモ用紙には、縮尺を合わせたかような小さな文字で携帯電話のアドレスと“竹下渡”の文字が書かれていた。既にお互いの名前は知っているはずであるが、渡は律儀にも再度、フルネームで自分の名前を書いていた。

 「変なの?」

 明日香はクスリと笑うと、右ポケットの携帯電話へと手を伸ばした。




 「ヘッッックション!!」

 「ちょ!? 渡?」

 「んん? はんだよぉ~、(何だよぉ、)ほーかしらかぁー?(どうかしたかぁ?)

 渡は盛大にくしゃみをしていた、目の前の製図用紙が危険に晒される程度に。

 「『どうかしたか?』、じゃない! アブねぇだろ、口を押えろ口を」

 「いやぁ、片手で製図用紙を押えて片手で筆記具持ってると、どうしても反応が遅れるんだよねぇ~、ゴメンゴメン」

 「全く、しょうがないヤツだなぁ」

 渡の通う工業系の大学の放課後。既にその日の講義は全て終了しているが、渡は友人の田辺行広と一緒に製図の講義の課題を進めていた。

 「悪い悪い。それで、どこまで描けた?」

 「あと十分は待ってくれ、そうすれば合わせられるから」

 「あいよ、了解」

 再び両者は無口に。行広は黙々と製図用紙に最後の詰めの部分である寸法線を描き入れている。

 「なぁ、渡。ひょっとしてイイ(・・)ことでもあったのか?」

 確認のために自身が描いた製図用紙を引っ張り出していた渡の手が止まった。大きな製図を用紙で顔を隠し、泳いでいる目を必死に隠す。

 「……どうして、そう思った?」

 「ナゼに顔を隠す……?」

 「く、口を押えてるんだ!」

 「あぁ?」

 無駄だと思って素直に製図用紙を下した渡は、行広の疑問の視線を受けることになった。

 「いつもはオレより描き終わるタイミングが遅いからさ。何かあったのかなぁ~ってね。……でも、絶対に何かあっただろ?」

 「まぁ、ちょっとな……」

 観念して危うく全てを話しそうになった時、渡は自分の右ポケットで携帯電話が震えたことに気づいた。

 「(チャンス!) あー、行広? 電話かかってきたから少しだけ席を外すわ。すぐに戻るから」

 「へ~い、いってら」

 足を色々な場所にぶつけて、やっと立てた頃には携帯は静かになっていた。

 「(あれ? あぁ、メールだったか……。でも、今は席を外した方が……)」

 だんだんと席を離れていく渡の背中を見つめ、行広は呟いた。


 「渡さんや、ここの寸法は間違ってるぞ……」


 行広たちが完全に描き上げるには、もう少し時間がかかりそうだ。……普段ではあり得ない、渡の凡ミスが原因で。




-=-=-=-=-=-=

<Time> 20XX/07/29 17:43:27

<From> standup_tomorrow@XXXX.ne.jp

<To> 竹下渡

<Subject> こんばんは、上浦です

<Text> 0.4 Kbyte

------------

竹下さん、こんばんは。

先日、お礼に伺った時にお渡ししたお菓子ですが、

悪くなったりしていなかったでしょうか?

炎天下に長時間も膝に乗せていたため心配です。


それと別件ですが、私の携帯番号を載せておきます

。いつもメモ用紙にて竹下さんの連絡先ばかり教え

ていただいたものですから。


電話:090XXXXXXXX


上浦 明日香

-=-=-=-=-=-=


 「……マジで?」

 思わず口から出た言葉がそれだった。確かに渡は携帯番号とアドレスを明日香に伝えた。伝えた理由は本人には恥ずかしくて言えなかったが、仮にもう一度でも整備を受けたい場合に連絡を入れてほしかったからだ。だから謝礼に来るという連絡をもらった時は本気で断ろうと思った。別に菓子折りを貰いたくて行った整備ではない。そう、偶然にも困った明日香を見つけただけ、頼られただけなのだ。

 「………………」

 この時間には誰も通らない大学の片隅で、渡は目を閉じて考えた。正直、今回の連絡は想定外であった。

 「(そろそろ戻るか。返信は後で考えればいい……。それにしても、『心配です』か。ずるいな……)」

 渡は携帯を仕舞うと、脇目も振らずに行広の待つ場所へと戻っていった。

あぁ、恋がしたい。(本音)

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