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タ行の男

ちょっとした繋ぎ回。話が進みません。

 「まぁ、冗談は置いといて。お礼をするんだったら早い方がいいよ」

 「うん、そのつもり。今日は木曜日だよね? 大学帰りにお菓子を買って、明日に連絡を入れれば……」

 「遅い」

 明日香の言葉を遮るように、花帆は短く切った。

 「すぐに連絡。土日には会えないと思った方がいい」

 「どうして? まさか、金曜日に会いに行けって言うの?」

 「そう」

 花帆は夕と実来を見た。二人とも、頷くだけで言葉は発しない。

 「平日は失礼なんじゃないかな。そもそも、私だってこうやって大学に来ている訳だし……」

 「う~ん……。ねぇ明日香、整備野郎の職業は? 学生?」

 「知らない」

 「年齢は?」

 「知らない」

 「まさか、名前だけ聞いたの?」

 「そうだよ?」

 明日香の目の前で三人が一斉に椅子へと背中を大きく預けた。ため息も聞こえてくる。

 「作戦変更だ。今すぐに連絡。年齢も聞くこと」

 「もしかして、強制されてます?」

 「いいか、これはチャンスだ」

 「(だから、チャンスってなんだ!)」




 その後、三人から渡への連絡を迫られたが、なんとか断って今に至る。

 「…………ねぇお母さん、電話してもいい?」

 「電話? いいよ」

 明日香は今、大学の帰り道である。大学の往復には明日香の母が運転する車での移動となる。運転している人の隣でいきなり話しを始めるのは悪いと思ったのか、明日香は軽く断りを入れたのだった。

 「あんたが電話使ってるところなんて滅多に見ないわね……」

 「まぁ、連絡する相手が多くもないし」

 明日香の電話帳の登録件数は、一般的な女子大生よりも少ない……かもしれない。この足となってから、気軽な『アドレス教えて!』という言葉からは無縁となった。しかし、そんな明日香の電話帳にも最近、新しく一件の連絡先が加わった。タ行の一覧に居る唯一の男性、竹下渡である。今は電話番号だけが記された渡のページは寂しいものだ。

 「…………。(やっぱり平日は誰だって忙しいよね……)」

 なかなかコール音が止まない携帯電話を片手に、明日香はフロントガラスから外の景色を見ていた。

 「(あと五回のコールで出なかったら掛け直そう……五、四、三)」

 別に急かされた訳でもないが、ちょっとした恩人の連絡先に連絡を入れないというのも気が引けた。

 「(ニィ、イチ……)」

 「はい、もしもし?」

 明日香の右耳に数日前と同じ声が聞こえた。

 「えっ!? あ、もしもし? か、上浦……明日香です」

 『かみ……? あぁ! 上浦さん、竹下です。車いすの調子はいかがですか?』

 「はい、特に問題なく、快適に使わせていただいてます。その件は大変お世話になりました」

 『気にしないでくださいよ。こちらも趣味みたいなものですから』

 「そういう訳には……。あの、竹下さんは今週の土曜日にご自宅にいらっしゃいますか?」

 『土曜日ですか? もちろん居ますけど、午前中は外出するかもしれません。午後からはずっと家に居ると思います』

 「一度、そちらに感謝を兼ねて参りたいと思います」

 『う~ん、無理しないでくださいね? まだまだ暑いですから』

 「ありがとうございます。では、また土曜日に……」

 『はい、会えるのを楽しみにしてます』

 最初は慌てたのに、話を終える頃には落ち着いた表情になっていた明日香。静かに母の方に視線を移した。

 「もしかして、車いすを直してくれた子?」

 「うん。土曜日にもう一度、お礼を言ってくる。それでね、お母さん……」

 「うん?」

 「手ぶらは失礼だから……」

 「了解」

 最後まで言わなかったが、車は近所のお菓子屋に向かった。




 翌日、金曜日。

 「連絡した?」

 「学生かどうか聞いた?」

 「歳は?」

 「取りあえず、落ち着こうか。ね?」

投稿日には『天空の城ラピュタ』が放送されました。不朽の名作ってのは、心に訴える何かがあるのでしょう。…………え、バルス?

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