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弱き君へ

女子学生ジェットストリームアタック、お楽しみください。

※ガン○ムやド○は出てきません

 渡に車いすを整備してもらってから数日。

 明日香は車いすに不都合を感じることなく大学生活を送っていた。今も、大学の学食で同期の女友達数人と昼食を摂っている。

 「それで? もちろん聞いたんでしょ?」

 佐藤夕がニヤニヤ顔で明日香に聞いた。明日香は何のことだかさっぱりといった顔だ。

 「夕ちゃん、聞くって何を?」

 「明日香、良く聞いて。チャンスは望んでないとき程、転がり込んでくるもんだよ」

 石堂花帆が『大丈夫、全部分かってるから』といった頷きを見せる。

 「だから、何を?」

 「まさか……聞いてないの? 電話番号だよ、ケ・イ・タ・イ・デ・ン・ワ」

 絶対に聞き逃すなよと念を押すような話し方をする川元実来。三人の視線は明日香のキョトン顔に集中した。

 「…………聞いた……けど」

 「「「良くやった!!!」」」

 正確には、教えられたと言ったほうが近い。整備後に渡されたメモ用紙は、今でも大事に財布の中にしまっている。週末にでも連絡を入れ、菓子折りを持っていこうと明日香は考えていた。

 「あのー、皆様ぁ? どうしてガッツポーズをとってらっしゃるのでしょうかぁ?」

 「ここまで聞いて分からない、明日香? 君はその渡君に車いすを直してもらったんだよね?」

 「うん」

 「嬉しかったんだよね? 感動したんだよね?」

 「うん。(そりゃぁ……、初めて見る光景だったし、直って嬉しかったし……)」

 「そして、感謝の印にもう一度連絡を入れる予定があると……完璧だ……」

 「うん?」

 明日香自身、広げられた会話の内容に取り残されている感覚があった。

 今、明日香の目の前にいる三人は、明日香の同期であり大学入学当初に仲良くなった。しかも、その原因が明日香の勘違いを含めた三人のちょっとした武勇伝なのである。




 入学式から数日。学部一年生は、まずは大学の雰囲気に慣れることから始めるだろう。

 明日香は、自分の特徴である車いすを理由に、最初は誰にも話しかけないでいた。『周囲は健常者、私だけ障害者』という考えが事故当初から抜けきらない明日香にとって、自分自身が行動を起こすと嫌悪の対象となってしまうと恐れていたのだ。しかし、決まっていつも誰かの救いの手が差し伸べられるのであった。明日香にとって、自分を救ってくれる人間は変わり者一歩手前に位置づけられるような、そんな個性的な人ばかりであった。

 「(自販機は……あった)」

 喉が渇いた明日香は構内の自販機で缶ジュースでも買おうとした。ただ運が悪かったのは、見つけた自販機の前に同期となった男子学生たちの数人の集団が屯っていたのである。大学生という新しい肩書を持てたことへの喜びか、ただ騒ぐことへの楽しさか、その集団は賑やかであった。しかし、明日香にとってはとても声を掛けづらい雰囲気を出した集団であった。

 「(か……買えない……)」

 もし明日香が健常者であったなら、何の気なしに自販機に近づき、ジュースを買えただろう。しかし、車いすで近寄ってはかなりのスペースを取ってしまう上に特異な目で見られることは避けられないだろう。明日香は黙って場所を変えようとした。


 「ねぇ、どいてほしいな」


 自販機を背中にするように方向転換した明日香の目の前に、佐藤夕、石堂花帆、川元実来が立っていた。後ろに聞こえていた男子学生騒がしさは一瞬で沈黙した。

 「悪いね、私たちさ、ジュース買いたいんだよ」

 「……あぁ、俺たちがじゃましてたか。ごめんな」

 「いーの、いーの。じゃぁ、ちょっと失礼……」

 それらのやりとりの後、男子学生の集団は自販機から離れ、どこか別の場所へと移っていた。もはや騒がしい声すら聞こえない。

 「…………あいつら、邪魔だったわね」

 「場所を考えろ、場所を」

 「ほい、お待たせ」

 「え?」

 いきなり視線が向けられて、明日香は思わず後退しそうになった。そして、保身のために最初に出たセリフがこれだった。


 「すいません、すぐにどきますから……」


 生涯、これを越える明日香の天然はないだろう。目の前の三人はお互いを見つめて小さく肩を震わせたと思うと、笑い出した。

 「いやー、これは参ったね」

 「ごめん、ごめん。こっちも言葉が少なかったわ」

 「あなたに言ったわけじゃないんだ。勘違いさせちゃったかな?」

 話を聞いてみると、車いすに乗った明日香を見かけた三人は、同時に男子学生の集団に気づいた。悲しそうな顔に気づいた夕は、明日香を間に挟んで集団に注意した、ということだ。

 「私のこと、無視しなかったんですね……」

 「あれま、まだ気づいてないかな? 私たちって同期よ?」

 無関心さを呪った明日香であった。

 「それに……」

 「……何ですか?」

 「強いヤツを助けようだなんて思わない。もっと甘えていいんだよ、上浦さん?」

 「……ありがとう、ございます」

 言ってから、喉の渇きを思い出し、明日香は自販機に近寄って硬貨を投入した。

 「……あ」

 「うん? どうしたの?」

 「早速、頼ってもいいですか?」

 「いいですとも! それと、敬語はいらない」

 「…………手が、届かない……」

 「「「…………」」」

 その後、明日香にとって文字通りの救いの手が差し伸べられて、目的の缶ジュースが買えたことは言うまでもない。そして、いつまでも忘れられない出会いとなった。




 「まるでコントみたいだったよね」

 「状況が良かったんじゃない?」

 「まぁ、最後の手が届かないところは笑いを堪えた。さすがに」

 「お願い、忘れて」

実際、車いす使用者の背は低くなります。高い場所には手が届かない場合もるでしょう。また、歩きタバコを良くされる方は車いす使用者の近くでは吸わないことをオススメします。健常者が火の点いたタバコを持って腕を軽く振りながら歩くと、車いすに座っている人から見ると、目の前をタバコが通過します。火の点いた物が目の前を掠めていくのは、かなりの恐怖だと思います。


それでは、次話にて。

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