無邪気
お久しぶりです、赤依 苺です。
え? 文字数が少なくて驚いた? 残念でした、初の連載作品です。しかも初挑戦。さらに見切り発車。いいですか、見切り発車です。二度も言いましたからね? つまり不定期更新です。二話からどのような展開になるのか、私でさえ未知数です。
では、後書きにて。
追記(2013年8月24日):400PVをいただきました。頑張ります!
追記(2014年10月8日):『俺Tueee.Net』様より、お目を掛けていただきました。
季節は夏。一瞬だけでも気を抜けば、すぐに病院のベットへ招待されそうな程の酷暑である。
室内に居るならば整えられた空調機能の恩恵に与れるが、屋外となるとそうはいかない。体感温度を下げるための風も、ドライヤーでも使っているのではないかと勘違いしそうになる程だ。
上浦明日香、二十歳。今は必要に駆られて屋外に居る。向かうべき場所があるのだが、とある事情により到着までもう少しかかりそうだ。
「……すいません、通していただけますか?」
「え? あぁ、ごめんなさい。気づかなくて……」
明日香は今、自宅から一時間ほどの位置にある病院へと向かっていた。通い慣れた場所のため、明日香はいつもの道を使っていた。途中、商店街を通過するが、この季節では道に大量の自転車が停められている。買い物客は皆、少しでも涼もうと思い近くの店舗に避難する。自転車は自然と道路脇から中央付近へと広がっていき、いつしか直線コースがどこかのサーキットコースのようになってしまう。
「ありがとうございます」
「…………」
今だって、人を避けて自転車と接触しそうになった。しかし、商店街を抜ければ病院まではもうすぐ。明日香は我慢に我慢を重ねながら進んでいった。
商店街を抜ければ、住宅を何件か数えれば到着する位置に大学病院が建っている。いつも通りに診察を受けて、またいつも通りの帰り道で帰れば問題ない。そう、明日香は思っていた。
【自動ドア故障中! 隣の扉をお使いください】
「嘘でしょ?」
明日香は暑さ以外の理由で汗を感じた。いや、最終的には暑さで汗が出るのだろうが、問題はそこではない。
「(自動ドアが使えない……!)」
自動ドア以外でも病院内に入る手段はある。しかし、明日香は極力、自動ドアから入りたかった。この暑さで自動ドアもやられてしまったのだろう。
明日香は諦めたように隣の扉から入ることにした。普段使わない扉のため、こちらの前に来たのは初めてだった。早く室内で体温を下げたいと考える明日香だが、どうやら今日は運が悪いらしい。自扉には【引】のマークが貼られていた。
「(……あぁ、どうしよう……)」
頑張れば入れる。そう、頑張れば。ただ引くだけでいいはずの扉が、明日香にとっては厚い壁であった。
「(この体勢じゃ…………無理……。もう一回!)」
「……ねぇ、お姉ちゃん!」
「はい! って、え?」
背後から聞こえた声に思わず返事をしたが、どうやら明日香にかけられた言葉のようだ。
「お姉ちゃん、びょーいんに入りたいの?」
そう言いながら明日香の横に来た少年は、木陰に入ったら見逃してしまうくらいに焼けていた。海にでも行ったのだろうか。
「そうなんだよ~。君もここに用事かな? 待ってね、いますぐこの扉開けちゃうから……」
無理だった。最悪、向こう側に押せれば……。少し開けるのが限界。
「ちょっとどいてて、お姉ちゃん」
「え? あ、そうだよねぇ、邪魔しちゃってごめんね」
自分より十歳以上も下の子に申し訳なく扉を譲った。明日香の頭は、どうすれば病院に入れるかを考えるのに精一杯だった。
「どーぞ」
「…………うん?」
「どーぞ!」
「私?」
「うん!」
もちろん簡単に扉を開けた少年は病院内に入らない。それどころか、出来るだけ大きく開けるために扉の裏まで回っていた。扉越しの少年とのやり取りが続く。
「入っていいの?」
「早く入ってー!」
「わ、わわ分かった、分かった!」
あれほど苦戦した扉を難なく通過した。明日香が身体ごと扉に振り返ると、少年は明日香の目の前にいた。
「ありがとう、君」
「えへへ。じゃぁね、お姉ちゃん!」
「うん、じゃね……」
途中まで走っていたが【しずかに】という貼り紙の横から歩き出した少年の背中を見つめ、明日香は安堵した。
「(今回は助かった……早めに自動ドア直してもらおう……。それにしても、涼しいなぁ~)」
緩んだ顔のまま明日香は受付へ向かった。
「あら、明日香ちゃん。今日はどうしたの?」
「いつもの診察ですよ、黒谷さん」
「あ~、そうか今日か。いや~こう、患者さんの資料とか多いと、今日は誰が来るのか分っかんなくなっちゃうのよね~。あははははは」
「あははは……(よく続けられるなぁ)」
「ちょっと待ってね……よし、高橋先生なら五階の六番診察室よ。どうする、今だけ電動に乗り換える?」
「いえ、このままで……」
明日香は、見渡せばどこにでもいるような女子大生。しかし、とある身体的な特徴があった。
「私、どうも電動車いすが苦手で……。使わせていただいたこともありましたけど、やっぱりこっちが一番です」
そう言って、何年も愛用している手動式の車いすを撫でた。
「そう、使いたくなったら教えてね」
「はい、ありがとうございます」
下半身不随。明日香が大学病院へ通院する理由である。
お読みいただき、ありがとうございました。
こちらに時間的な余裕があり、続けられそうならば書いていきます。二話こそ、皆様のお時間が無駄にならないような物を書いていきたいと思います。
それでは、二話にて。