とある貴族夫人に対する加害者の供述~そんなつもりじゃなかったんですっ!?~
※バッドエンド、胸クソ。
『ご当主に冷遇された後、溺愛された奥様は・・・お亡くなりになられました。』の、報復された側の話。
平民が貴族を害すれば、よくてブタ箱入り。強制労働や鞭打ちなどの刑罰が科せられ、最悪は死刑。
だというのに、とある貴族家で使用人が大量に解雇された後、憲兵に捕縛された。
罪状は、貴族夫人に対する虐待。訴えたのは、件の虐待された貴族夫人の夫。貴族家当主。
当主の強い訴えにより、元使用人達が大量に逮捕された。
貴族夫人は、医師の診察により栄養失調と衰弱が見られ、発見があと数日でも遅れれば死亡していた可能性あり。夫人の身体に傷跡など暴行を受けた形跡は無し。
当主が命令を下し、家ぐるみでの悪質な虐待を疑っていたが、当の貴族当主は『妻のことを愛している』、『自分が留守の間に使用人達が勝手にやったこと』、『自分は愛する妻がこのような酷い状況に陥っているとは思わなかった』、『使用人達には厳罰を望む』と供述。
容疑者の中には、件の貴族家の古参使用人で貴族籍を持つ者もおり、夫人用の資産を横領していた者もいた。その元使用人達にも厳罰を望むとのこと。
横領は明確な犯罪。彼らは、横領と夫人への慰謝料として強制労働が科せられる。当主の強い希望で、劣悪な労働所行きが決定。代金を確実に回収するのであれば、長く働ける労働環境が望ましいとアドバイスをするも、当主は「そんなことより、連中を苦しめろ。地獄を味合わせろ」とのこと。
貴族籍を持つ者達の家にも、圧力を掛けて了承させた模様。とは言え、貴族家で役職を持つために実家に残されていた貴族籍のようで、実家の方も年の行った彼ら自体を惜しむことは無く、あっさり切り捨てたようだが。
貴族籍のあった使用人達は、『旦那様のためにあの女を追い出そうとした』という声があった。また、貴族籍のある女性使用人の中には当主夫人の座を狙っていた者もいたようだ。
そして、平民の使用人達の供述だが――――
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違うんです、違うんです、貴族に危害を加えるつもりなんてなかったんです!
信じてください、お願いします! お願いします!
わたし、違うんです! あのおんっ……いえ、その、お、奥様……です。
奥様に手を出したり、暴力を振るったりなんてしてません!
嫌がらせも……酷いことなんて、してません! 本当です、本当なんです!
助けてください、助けてください! 縛り首なんて嫌です!
お願いします、お願いですからっ!!
わ、わたしは……その、本当になにもしてません! 誤解なんです!
本当に誤解なら、落ち着いて話せば釈放される可能性がある?
本当ですかっ!? わ、わかりました。話します、話します!
わたしがあのおん……いえ、あの方になにもしてないのは本当です。はい、誓って、わたしはあの方に危害を加えてなんていません。
あの方が、なんであんなに……倒れるまで弱っていたのか、わたしにはわかりません。多分、わたし以外の誰かが、あの方を疎んでいた人があの方になにかしたのだと思います。
だって、あの方が家から追い出されれば……自分から出て行っても、旦那様に離婚されれば、後釜になれるって喜んでいた上級使用人の女の人が言ってましたもの。
それに、あの方……男遊びが激しくて、かなり評判が悪いそうじゃないですか。古参の偉い使用人の方達も、あの方は当家に相応しくないって、常々言っていたんです。
だから、そんな風にあの方を疎んでいる人があの方になにかしたに決まってます。
わたしは、無実なんです!
まあ、そりゃあ……旦那様や古参の偉い方達に疎まれている奥様なんかに尽くしても意味無いと思って、お世話する手を抜いたりしたことは認めますけど。
だって、どうせすぐに出て行ったり、旦那様に離婚されて追い出されると思っていたんです。そんな人に尽くしたって、わたしにメリット無いじゃないですか。給料が上がるワケでも、優遇されるワケでもないし。お菓子やお下がりの小物、雑貨なんかが貰えるワケでもない。なんなら、あの方に優しくしたと言われて、使用人達の間で冷遇されたら嫌じゃないですか。
だから、あの方のお世話の手を抜いたことは認めます。
職務怠慢の解雇だというなら、わたしが悪いので仕方ないと思います。
でも、あの方のお世話をしていたのはわたしだけじゃないんです。
旦那様が、あの方は男遊びが激しいからと言って。仲良くなると、あの方の男遊びのためのアリバイ工作なんかをするようになると困るって。そう言って、あの方専属の使用人を決めなかったんです。
男遊び対策だとかで、あの方の家から使用人を連れて来るのも禁止してたみたいです。屋敷の中も、男性使用人がいる時間は外に出すなと厳しく言われていて。
だから、手の空いた使用人達が持ち回りであの方のお世話をするように決められてて……
わたしは、週に何度かあの方に食事を持って行く係をさせられていましたけど……その、忙しかったりして、偶に……あの方へ食事を持って行くのを、忘れてしまっただけなんです。
本当に、ただ忘れただけなんです! 忘れて、それを思い出して……後で持って行けばいいや、って。そう思って、時間が経ってからあの方の食事を運ぼうとしたら、もう置いてなくて。
誰かがわたしの代わりに、あの方に持って行ったんだと思います。
だって、怒られなかったから。偉い使用人の人も、料理番の人も、誰もわたしを怒らなくて。お小言とか、減給とか、そういうのも全く無くて。
だから、わたしの代わりに誰かがやってくれていたんだと思っていたんです!
まさか、あの方が部屋の中で倒れて、動けない程衰弱して弱っていたなんて知らなかったんです!
本当です、本当なんです! わたしは、ただ、忙しくて、あの方のお世話の手をほんの少し抜いただけ。ちょっと、何度か、食事を持って行くのを忘れたり、部屋にお水を持って行くのを忘れただけなんです!
だって、だって、知らなかったんです!
わたし以外にも、あの方のお世話の手を抜いて、サボっていた人がいたなんてっ!?
みんな、仕事はちゃんとしている風な顔をしていたんですよっ!?
食事が、水が、数日に一度しか届けられてなかったなんて知らなかったんです!
だって、だって、あの方はなにも言わなかったんですよっ!?
お腹空いてるなら、喉が渇いているなら、誰かに助けを求めればいいじゃないですかっ!?
倒れるまで我慢して、死に掛けるなんて思わないじゃないですかっ!?
え? 助けを求められたら、あの方を助けていたか、ですか?
わたしが、あの方を……助け、る?
いえ、それは、偉い使用人の人に指示を仰がないといけないので。わたしの一存で、あの方になにかをして差し上げることなんてとてもとても……
はい。助けを求められたら、多分わたし以外の人があの方を助けていたと思います。
え? わたしが……わたしが、あの方になにもしていなかったことをわかってくれるんですかっ!? ありがとうございます、ありがとうございますっ!!
これで、わたしは縛り首にならなくて済みますよねっ!!
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平民の使用人達の供述は、どれも似たり寄ったり。
自分は、なにもしていない。危害を加えていない。ただ、少し手を抜いただけ……というのが、何人もいた。
確かに、貴族夫人へ身体的な危害を加えた者はいなかった。
ただ、冷遇されている貴族夫人へ手を差し伸べる者も誰もいなかっただけ。
数名が、夫人に食べ物を持っていないかと聞かれ、持っていないと答えるか、問い自体を無視。
週に食事を何度も届け忘れられ、水すら取り替えを忘れられる。その上、夫である当主の意向で部屋から出ることを禁じられ……生命維持に必要な世話すらも疎かにされていた。
これでは、栄養失調や衰弱は必至。なんなら、屋敷ぐるみで夫人が死ぬのを待っている状況だと言っても過言ではない。
だというのに……原因と思われる当主本人は、夫人のことは『愛する妻』で、『愛する妻を害した者達への厳罰を望む』だ。
調べたところによると、当主が夫人を溺愛し始めたのは夫人が倒れてからというではないか。対象の心身を弱らせ、その弱ったところに親切にして心を支配する。まるで洗脳の手口に近い。
当主の言う、『愛』とやらが相当歪んでいることは間違いない。
夫人には、同情しかない。
平民の使用人達は夫人への直接的、身体的な加害行為は認められなかったが……未必の故意の殺意は認められることだろう。
なんせ、人間は食事をしなければ死ぬ。水を飲まなければ死ぬ。世話の手を抜いただけ、忘れていただけ、自分以外がちゃんと世話をしていると思っていた、と言ってはいるが……常識的に考えて、そんな愚かな言い分が通じるはずがない。
あの屋敷は、故意ではなくとも、集団で貴族夫人を殺し掛けているのだから。それに、夫人のことを愛していると宣う当主が、彼らの縛り首を強く望んでいるのだから。
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とある貴族家の元使用人だった平民達がずらりと絞首台にぶら下がってから数ヶ月後。
どこぞの貴族家で、使用人達に虐待されていた夫人が亡くなったそうだ。その後、件の貴族家当主は精神を病んで貴族籍を抜かれて療養施設行きとなったというが……
更にその後。元貴族の男が、集団で暴行を受けて救貧院に運び込まれたとのこと。素人の手で拷問を受けたような形跡があり、男には酷い後遺症が残っていたそうだ。
男を襲った者達は逮捕されたが――――
男は寝た切り状態になり、救貧院で適当な世話をされ、数ヶ月苦しんだ後、死亡。
そして、男が世話をされていた救貧院には、罪を犯した者や犯罪者の身内が身を寄せたり、奉仕活動などをしているそうだ。
男がどんな風に世話されていたか……などは、考えない方がよさそうだ。
最初から最後まで、なんとも後味の悪い事件だった。
亡くなられた夫人へと、冥福を祈りたい。
――おしまい――
読んでくださり、ありがとうございました。
『ご当主に冷遇された後、溺愛された奥様は・・・お亡くなりになられました。』の、使用人の言い分。他サイトでリクエストを頂いたので書いてみました。
バッドエンド、胸クソ話です。
思ってたのと違ってたらすみません。
まあ、ネグレクトによる虐待死とかでよくある感じの言い分や責任逃れというか……
あとは、自分は虐めをしていない。虐めを見ない振りをしただけ。困っているときに手助けしなかっただけ。助けを求める声を無視しただけ。その結果、最悪なことが起こってしまった……という言い分と似た感じですかね?
縛り首にされた本人達は奥様に酷い嫌がらせとかしているつもりはなくて、罪悪感とかもあまり無くて、でも命に関わる責任を放棄していて、その自覚も全く無く人災を起こした連中の話でした。
誰かがやるでしょ? やってるはずでしょ? 自分には責任無いでしょ? ちょっとサボっただけ。でも、だって誰にも怒られてないし? だから、責任は無いって言ってよっ!? みたいな?
冷遇→溺愛系の話で処分される使用人の中には、こういう連中も多いんだろうなぁ……と。
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