1.堕ちた天才
この世界に迷宮が現れたのは今から19年前、
それは俺が生まれた年でもあった。
俺の名前は黒打陽、職業はもちろん冒険者だ。
黎明期を支え各ギルドと冒険者協会を設立した第一世代、迷宮攻略を拡大させギルド運営をビジネス化させた第二世代、そして確立されたノウハウを元に設立された冒険者学院においてエリート養成されて誕生したのが、
俺が属していた第三世代の冒険者だった。
そんな第三世代の中でも俺はずっとトップにいた。一般的な奴らが学院を卒業してFランクやEランク、優秀ならDランクから精々Cランクで冒険者キャリアをスタートさせる中、俺は学院三年の頃にはすでにAランクだった。
将来を大いに期待されていた俺は、学院生の時点で冒険者協会の高難度クエストや新設迷宮攻略に特例で参加する事が許されていた。
10代のうちにSランクに認定される事はもはや必定だと周囲からも思われていた。
俺は羨望や称賛、嫉妬あるいは大人達からの懐柔に日々晒されていた。だが···そんな事は俺からすれば、正直どうでもいい事だった。そんな奴らの雑言を無視、あるいは黙らせられるぐらいの圧倒的な実力がかつての俺にはあった。
所が今となってはFランクの冒険者がやる、
魔石掘りワーカーで日々生計を立てている。
「あいつだろ堕ちた天才って···」
「あぁ元Aランクなんだって?
それにしても魔石掘りって(笑)」
今日もこうやって話した事もない奴らから陰口を叩かれたり馬鹿にされながら、スコップで迷宮の土を掘り返している。
こんな事になったのも二年前のあの事件からだ···
俺はパラメーターとスキルの大部分を失った。
そしてあの事件以来、迷宮とモンスターが弱体化し始める現象が世界中で発生した。
このままいけば世界中の迷宮はもう閉じるのではないかと騒がれ、迷宮由来と考えられていた冒険者達の能力も次第に失われていくのではと予見され始めていた。
だがその推測は外れ、現在でも弱体化はすれど迷宮は存在しているし、冒険者達に関しては俺を除いては能力をこれまで通り維持している。
冒険者達の地位はそこまで下がらなかったものの、一方で迷宮から得られる資源は圧倒的に減少する事になった。
モンスターの弱体化により、かつてS、AランクがやっていたクエストはB、CがB、CがやっていたクエストはDがD、EのクエストはEが担うようになった。またモンスターから魔石がほとんど取れなくなったので、迷宮内の地面や岩盤を直接掘り起こしてそれらを採取する仕事もできた。
S、Aランカー達はもう自分達で迷宮に潜る事はほとんど止めてしまい、そのような仕事をBランク以下の冒険者達に任せるようになった。
ギルドは派遣会社のようになってしまっていた。
それでもかつての戦いの高揚を忘れられない強者達は、冒険者同士の格闘を興行として人前に披露し、名誉と財貨を得るようになった。
それが天下一冒険者会だった。
「―――定時です、業務を終了してください」
「ふぅ」
やっと終わったか、今日は何を食おうか。
『一部のスキルが復旧しました』
「おっ」
頭内で通知音声が聞こえると、
俺は即座にステータス画面を開いた。
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黒打陽 魔法闘士
Lv:error
HP:200/error MP:140/error
攻撃:100
耐久:150
俊敏:130
知力:200
抵抗:130
幸運:100
SP:110
スキル(error)
採掘Lv2 攻撃魔法Lv1 闘技Lv1
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最盛期は全てのパラメーターが5桁以上有ったが、事件直後に全て100の初期値になった。
レベルが下がった訳ではないようでSPや経験値も全然たまらないしジョブも昔のまま、スキルはほぼ全て消失、レベル、HP、MP、スキル欄にはエラーが表示されるようになった。
初期値のままレベル上げが出来ないなんて、はっきり言って詰んでる。
だが今年になって少しだけパラメーターが回復していた、スキル欄の闘技も昨日までは無かった。
「このまま元に戻ってくれるといいが···」
俺がいたのは大手ギルド“豪火の闘神”の下請け派遣ギルドだった。
派遣が委託した食堂に行くと俺はハンバーグ御膳を頼んだ
「シュッ!」
「オラー!」
やっぱ採掘終わりは飯を食いながら格闘配信を見るのに限るな。
そんな事をやっていると小太りのEランク現場監督がさっそく明日の仕事を斡旋しにきた。
「あ、黒打君、明日は廃ビル迷宮で採掘業務だけど、大丈夫そう?」
「廃ビル迷宮すっかー」
「あぁ現場自体はBランクなんだけど採掘だけだから」
「Bランクって何かあった時大丈夫っすかー?
俺今はFランクですよ」
「弱体化してるし大丈夫だ、
人手足りてないんだよ、じゃあ頼んだよ」
「マジ、ブラックすよねーここ」
『一部のスキルが復旧しました』
「ん?」
通知音声がまた鳴ったので俺はステータス画面を見た。こんな事は今までなかった。
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黒打陽 魔法闘士
Lv:error
HP:300/error MP:190/error
攻撃:140
耐久:210
俊敏:180
知力:280
抵抗:180
幸運:140
SP:110
スキル(error)
採掘Lv3 攻撃魔法Lv2 闘技Lv2
魔法闘技Lv1
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「今度は魔法闘技スキルかぁ」
「お? 堕ちた天才君、いや今はただの魔石堀りか、お前格闘なんて興味あんのかよ」
「お前ってほんとに強かったのかよー」
俺が画面に気を取られているとさっき現場で影口を叩いてた奴らが絡みに来た。
「格闘配信は見てるだけだよ、あと俺はまじで弱いから絡んでもそっちにメリットないよ」
そう言ってやると二人組はつまらなそうな顔をして悪態を付きながらすぐに戻って行った。
「チッ、腰抜けが」
「じゃあな喧嘩買う度胸もねぇカス野郎」
まぁ仕方ねぇな、
今の俺は初期値に毛の生えたレベルだ、Eランクのこいつら相手でも怪我をしかねない。




