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鬼さんコチラ、桃なる方へ!  作者: 四辻十壱
第二章 天狗と陰陽師の少女

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第23話 深夜の外出

 暗がりの中、天井を見つめている。

 そうし始めてからどれくらいの時間が経ったのか。



「……眠れない」



 枕元に置いているスマホの画面を見る──時刻は深夜二時。布団に入ったのは零時半頃だっただろう。目を瞑ってもやってこない睡魔を見限って体を起こした。


 鬼村とのことが頭を離れず、寝付けない。


 ……なんて言ってしまうと俺の童貞具合を再確認して恥ずかしくなる。女に迫られたことばかりが脳内で再生され夜も寝れないなんて──初めてAV見た中学生かよ。んなわけあるか。


 電気を点けずに居間へと行きテーブルの上の煙草の箱に手を伸ばした。一本取り出そうとして、中身が空っぽなことに気が付く。


「マジかよ……」


 そうだった。残り少なかった為帰り道に買ってこようとしていて忘れていたのだ。で、寝る前に全部吸ってしまったと。眉間に皺を寄せしばらく考えていたものの、俺はため息を吐いて床に置きっぱなしの上着を拾い上げた。夜中でももうかなり暖かくなってきた為外出に上着はいらないが、上下スウェットという格好を万が一にも学校関係者に見られるのは良くない。なら着替えろって話だけど、上着着るくらいで大目に見てくれ。


 鞄の中にしまいっぱなしだった鍵を取り出すと、玄関へ向かった。本当はこのまま我慢して寝ればいいんだろうけど、今日はどうもそういう気分じゃない。煙草を吸えば少しは気が紛れるはず。

 外に出て、鍵を掛ける。アパートの階段をあまり音を立てないよう静かに降りればいつもの駅とは逆の方向へ歩き出した。コンビニはここから五分程の距離にある──





「……っ!!」




 俺は嫌な予感がして慌てて横へ飛びのいた。



 ──ドン!!



 と、地面に雷のようなものが落ち大きな音を立てた。


「あれれ? 人間って弱いから軽く殺せると思ったんだけどな」


 声が聞こえ振り向く。そこにいたのは山伏のような恰好をし、大きな烏の羽を生やした男。顔の上から半分には鼻の長いお面のようなものをつけている。いや、それ自体が顔なのかもしれないが。


「あんたを殺せばオレは美鬼ちゃんと高校生活を満喫して恋人になってハッピーエンド。そこに邪魔な男はいらないんだよなぁ~」

「なんだ人間になりたいのか? 天狗ってのは」

「んなわけねーじゃん」


 天狗が手に持っている羽団扇で大きく扇ぐと、目の前がぐらりとし辺り一帯が呑み込まれて行くように赤くなった。街灯の明かりだけだった先ほどよりも視界が明瞭になる。反転世界に夜は無さそうだ。


「お前みたいな奴がなんで好かれるのかわかんない。オレの方が強くてかっこよくない?」


 そう言うと天狗は羽団扇で俺に向かって強い風を叩き付けた。どうにか受け身を取ったが数十メートル先まで転がされてしまう。


「っぐ、いってぇな……くそ、すもも! って……煙草ねぇから召喚できな──!」

「オラオラ、桃野郎! 早くおっねよぉ! 優しくサクッと殺してやるからさぁ!」


 バチン、バチン! と音を立てて小さな雷がいくつも落ちてくる。俺はどうにか身を躱すことしかできないでいた。煙草がない、三匹は呼べない。俺にできることなんて何もないだろ! 妖怪と違っておかしな力もねーんだから!


「……いや、一個あるか」


 思い出して、逃げ回りながらも右手に意識を集中する。形をイメージして息を吐いた。刀が、右手の内に顕現する。



「──っ!!!」



 ──バチィィィイン!!!!!



 無我夢中で刀を振るうと、何かを弾き返したような音がした。あの雷攻撃を弾いたのかもしれない。天狗は少し驚いた顔をしてこっちを見ていた。



「……あー! その刀ずりーぞ! 桃野郎が持ってる刀はやべーって噂はこっち界隈じゃみんな知ってんだかんな!」

「桃野郎ってなんなんだよ」


 刀を両手で握り直し、構える。前に持った時よりも慣れたのか幾分か軽い気がする。いや十分に重いけど。


「おい天狗、俺はコレの扱いに慣れてねぇからな……変なとこ切っちまっても知らねーぞ」

「ふん、切られなきゃいー話だろ……!」



 天狗が勢いよく俺に迫ってくる。今一度刀を強く握り締め、剣先を振り上げた。



「うらあああああっ!!!!!」







 ──トン


 刀を振り下ろそうとした俺の手が、何かに制止された。


 そして目の前には同様に動きを止められた天狗の顔がある。このままだと頭突きでもされそうな距離だ。




「ねーやめなって」



 鬼村の声がすぐ横から聞こえた。どうやら俺の手を制止していたのは鬼村の手のようだ。天狗もまた、首根っこをこいつにつかまれている。



「美鬼ちゃん! ちょっと聞いて! こいつこの刀使って来やがった! ずるくない!?」

「ずるいのはあんたじゃん、背後から狙うとか。サイテー」


 そう言うと鬼村は俺の手を離し、首根っこを掴んだままの天狗に向き合った──と思うと、そのまま勢いよく()()()()()



「ぎゃっ!」

「!?」


 天狗が地面に叩き付けられたと同時に短い悲鳴が聞こえた。俺のこめかみを冷や汗がだらりと垂れる。


「もーセンセー外に出るならあたしに言ってくれればいーのに。こんな夜中になしたん?」

「いや……煙草、が、切れて……」

「あー、そーゆーね。あたし全然起きてるし、ヨユーでついてくから今度から言ってよ」

「え、あー……」


 鬼村の言葉が頭に入ってこない。向こう側でぴくぴくと痙攣している天狗が気になって仕方がないんだ。俺を殺そうとした奴だ、どうなろうと知ったこっちゃない。知ったこっちゃないんだが……。



「……あいつ、生きてる?」

「えー生きてる生きてる。そらもまあまあ頑丈だし大丈夫だって」



 そう言うと鬼村が俺の手を取って歩き始めた。それと同時に元の世界へと景色が戻っていく。赤みがかって明るかった世界は暗い夜へと変化した。俺達を照らすのはぽつぽつと置かれた街灯だけだ。


「コンビニだよね?」


 鬼村が俺を見る。俺は一瞬天狗がどうなったか振り返ったが、そこには何もいなかった。


「夜のデートとか最高じゃん♪ あたしもアイスとか買っちゃおっかな~」

「……その前に手離してくれ」

「なんで?」

「また誰かに見られてたら困んだろーが……」


 鬼村の手から逃れると俺は自分のスウェットのポケットに両手を突っ込んだ。戦いで一瞬忘れかけてたが、こいつに触られると部屋での出来事を思い出す。


「……センセーもしかして」

「………」

「あたしのこと意識してんの? あは、かわい~」

「うっせぇ、近寄んな」

「やだやだ腕組んで歩こ~」

「やめろ!!」


 すぐ腕を組もうとする鬼村を回避しつつなるべく距離を取る。しかし天狗と戦ったせいで動く度全身が痛む。自分の運動能力の低さにうんざりしつつも俺は鬼村と共にコンビニを目指した。




 ***



 ──俺は三匹がいないと何もできない、刀があっても上手く使えず、誤って相手を消滅させるかもしれない。ただ倒せばいい敵ならいいだろうが……。


 そんなことを寝起きの頭で考えながら布団からむくりと起き上がる。コンビニから帰ってきた後、疲労感でどうにか寝られたものの睡眠時間が足りなくて朝になったというのに目が開かない。動きたくない体を引きずるようにして支度をすれば、通勤時間には間に合った。



 間に合ったけれども。



「センセーすっごく眠そうな顔してんね~。だいじょぶ?」

「おいお前! 美鬼ちゃんと毎朝一緒に登校してんのか!? 羨ましいにも程があるだろ!」


 俺の後ろには、女子高生と、男子高校生。


「なんで鬼村だけじゃなくて天狗(お前)までいるんだよ……」

「桃野郎が美鬼ちゃんにハレンチなことしねぇか監視する為に来たに決まってんだろ!」

「破廉恥なことされてんのは俺だっての」

「なにぃ!?」


 天狗が襲い掛かってきそうになった為、俺は朝から出していたすももを肩へ乗せた。また急に襲われるかもと思ったから自衛の為に召喚したわけだが、まさかすぐに必要になるとは。すももは俺の肩越しに『キィー!!』と歯を剥きだして天狗を威嚇している。


「わっなんだこいつ、オレとやる気か!?」


 すももの甲高い声に反応してか、天狗も一緒になって「キー!!」と声を上げた。こいつもしやと思っていたが、馬鹿なのかもしれない。


「ねえ、センセーに手出したら怒るよ」

「うう、そんなこと言わないでよ美鬼ちゃん。オレはただこの人間より強いってこと証明したいんだよ~」

「あんたが強かろうが関係ないし」

「なんで~!?」


 ひとまずは鬼村がいるおかげで俺の安全は保たれそうだ。ほっと胸を撫で下ろし、振り返った。


「……つーかお前、名前なんていうんだよ。ほら、多分人間用の名前があんだろ?」


 そう訊くと、なぜか天狗は自慢げに鼻を鳴らした。



「俺は天。狗谷木いぬやぎ そら! 様をつけて呼ぶがいい人間!!」



 どん、と胸を叩いて自己紹介した男を俺は目を細めて見た。


「……イヌなのかヤギなのかわからん苗字だな」

「狗谷木!! 舐めてんだろ人間!!」

「『人間』じゃなくて先生と呼びなさい」

「うっせーセンコーだなちくしょー!」


 そういう呼び方はわかるのか、と妖怪の妙に人間くさいところを知った。そもそも何故こいつら妖怪は人間の格好をして学校に通うことができるのか。いまいちわからん。ただそれを今訊ねる気にはなれなかった。キンキンと騒ぐこいつらの声が頭に響くからだ。


「……学校では頼むから大人しくしてくれよ」



 俺は今日からこいつが在籍することになる3組の担任を憐れんだ──。

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