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鬼さんコチラ、桃なる方へ!  作者: 四辻十壱
第二章 天狗と陰陽師の少女

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第21話 これって呪い?

『一樹へ


 まだ幼い一樹には説明してもきっと何のことかわからないだろう、だからここに書き記しておく。いつかお前も夢を見てここへ来るかもしれないからな。


 まず、もう知っているかもしれないがお前の祖先は世間では桃太郎と呼ばれる方だ。後に名前を桃間とうま正義まさよしと名を変えている。


 今からとても遠い時代、この方はこの地の人々を苦しめていた鬼を討伐し平和をもたらした。そしてその鬼から奪った財により我々桃間の一族は栄えてきた。


 しかし、何故か神様はそれを良しとしなかったらしい。


 記録によると、今から百年以上前から桃間の当主となる者は皆とある夢を見ている。眩い光の中で誰とはわからん何者かが語りかけてくるのだ。のちに、それはきっと神様だろうと夢を見た者たちは理解した。



 語られた内容を端的に言えば、孫の一樹か、その子かは定かじゃないが呪いにかかってしまうという。呪いがどんなものかはわからない。ただ、蔵を代々守り通せば必ず良い未来が待っている、と……。私や父に祖父、それ以前の祖先たちは夢でそう言われてきた。


 お前の父親である陽一にも言って蔵を受け継がせようとしたが、何度も拒まれとうとうここまできてしまった。あいつが何故頑なに拒むかはわからない。夢のこともわかっていないようだ。とにかく、この蔵はお前に渡す。そして子へ孫へ必ず受け継がせるんだ。頼むぞ。


祖父 桃間栄一郎』





 ──昼休みの化学準備室で鬼村はギィギィと椅子の音を立てながら「ふーん?」と言った。俺の祖父からの手紙を読み終えたのか、便箋を表裏とひっくり返して眺めている。


「これだけ?」

「それだけ」

「もっと衝撃的な事実が書かれてる~とか、他にも手紙が~とかないわけ?」

「ねーし、衝撃的な事実はもう書かれてんだろ! 呪いとか!」

「ってかさー夢って何? センセーも見たことあんの?」


 そう聞かれて口を閉じた。

 手紙には

<いつかお前も夢を見て>

 とか、

<皆とある夢を見て>

 とか書かれている。

 もちろん俺は思い当たる夢を見たことはない。確か前に読んだ日記のどっかのページにも夢がどうって書いてあった気がする。この手紙を読む限りだと、桃間の当主になる人っていうのは同じ夢を見てるっぽい。俺が見てないのは、俺が当主とやらではないから? でも()()()()蔵に来るかもってじいちゃんが思ってたってことは、別に家を継がなくても見るってことか。



「それっぽい夢は、俺は見たことない。いや、もしかしたら忘れてるだけかも? 夢って全然覚えてねーからなぁ」

「とりあえずこの手紙が言いたいのは~……呪いにかかるかもだけど、蔵を守ってたらだいじょーぶだかんねってこと?」

「どうだろうな」

「ねーこっちの日記にはさぁ~」


 そう言うと鬼村は鞄の中から祖父が書いた日記を取り出した。


「てか手紙も日記もなんでお前が持ってんだよ」

「センセー仕事ばっかで全然読まないからあたしが読んであげよーって思って」

「………」


 何を勝手に、と言いたくなったが正直助かるので黙っておく。


「さっき授業中に読んでたんだけどぉ」

「授業中に読むな!」

「ここにさぁ、なんか桃間は代々長男家にしか男が生まれないって書いてんの~」

「長男家にしか、男が生まれない?」


 一瞬どういうことかわからずに思考が停止したが──ゆっくり考えれば理解できた。確かにそうだ。俺も父さんも全員男兄弟だったが、長男である父さんの弟たちのところには娘しかいなかった。父さんの弟は5人いたにも関わらず、全員娘しか産まれていない。

 俺の弟は一人だけ結婚して子どもがいるが……あそこも娘三人だったはずだ。だから鬼村が言ったことが本当だとしたら、俺たち兄弟の中で男児が産まれるとしたら、俺だけってことか。


「あ、ねぇねぇここにめっちゃ汚い字の文章あんだけどさぁ」

「汚い字?」

「走り書き? ってゆーの?」


 鬼村に見せられて俺はノートを覗き込む。確かに読み取りにくい字で書かれた文章がある。これは何年の何月の日記だ? 6なのか8なのか判別がつかない。


「ところどころ読めそうなのがさ~


 <夢に出てきた>

 <力を受け継ぐ>

 <最後の人間に呪いをかける>

 <解きたくば蔵を守れ>


 ……って書いてるぽくない?」


 鬼村が指差すところを俺も目で追った。確かにそれっぽい気がする。でも一人で読んでも解読できなかっただろう、よくこんなミミズが這ったような字を読めるな。


「要はこれは、じいちゃんが見た夢の話ってことか? 忘れないように起きてすぐ書いたってことかな」

「そのまま読むならさぁ、力を受け継ぐ最後の人間に呪いをかけるからー、解きたいなら蔵を守りなさーいってことじゃん?」

「ああ……?」

「もしかしてさぁ……



 呪いって()()のこと?」



 そう言って鬼村は横に立つ俺の方を指差した。



「…………俺の股間を指差すんじゃねぇ」

「えーだってぽくない!? 蔵って代々長男が受け継いでるんでしょ? 桃間の最後の長男がセンセーなわけで、センセーが子ども作れなかったら桃間は途絶えちゃう……みたいな? 呪いって『お前らの家を途絶えさせてやるからな~』じゃないの?」

「……? そうなるのか?」

「え、じゃあさじゃあさ!」


 鬼村は閃いたように椅子から立ち上がると俺の両手首をぎゅっと握った。突然のことに俺は身動きが取れず、目を見開いて鬼村を見ることしかできない。


「蔵の鍵はもらったわけじゃん? センセーが蔵を守ってるってことになって、それで呪い解けるんでしょ?」

「んん?」

「じゃーもう勃つかもじゃん()()()!」

「試さねえよ!!!!!」


 ぶんっ、と勢いよく両腕を振り払った。でかい声でこいつは何言ってんだ……廊下に聞こえてたらどうするんだよ。

 俺はため息を吐いて用意しておいたプリントの束を持ち上げた。それと同時に鐘が鳴る。昼休みが終わったようだ。


「ほら、さっさと教室行け。次俺の授業だぞ」

「センセーの授業なら出るしかないかぁ~」

「別の授業もちゃんと出ろよ」


 鬼村を追い出して、俺も部屋を出て準備室に鍵をかけた。廊下を進んでいけば校内の中央階段へと辿り着く。その手前には職員室だ。階段を上ろうとしたが、ふと鬼村が立ち止まった。


「……? おい、授業だぞ。さっさと──」


 声をかけている途中で、職員室の扉が開いた。出てきたのは私服姿のガタイの良い男。高校生か大学生くらいに見えるが、髪色は全体が白で毛先が黒く少し異様に見える。まさか白髪? いや最近の流行りなのか?


「あ」


 男はこちらに気が付くと、無だった表情がまるで花が咲いたようになって走り寄ってきた。



美鬼みきちゃーん!!!」



 図体のでかい男が走り寄ってくるのは、ちょっとした恐怖だ。だがそれよりも恐ろしかったのは、鬼村こいつを知ってるってこと。まさかこいつも妖──




 ──ガシッ!!


 と、鬼村の手が鷲掴みした。感極まったように飛びついて来ようとする男の顔面を、だ。


「い、いだ、いだだだだだだだだ」

そらじゃん、何してんの」

「ああああああのあのね、オレ、美鬼ちゃんに会いたたたたた」

「うん?」

「ととととにかくこの手どけてぇぇぇぇ~~~!!!」



 頭蓋骨がミシミシという音を立てるのを、

 俺は生まれて初めて聞いたかもしれない──。



 鬼村が手を離すと、男は脱力したようにその場に座り込んだ。涙目で……というか、ほとんど泣いている状態で鬼村を見上げている。


「連絡したじゃん! オレ、美鬼ちゃんと同じ学校通うことにしたって!」

「あー、来てたかも」

「美鬼ちゃんすぐ既読スルーするのなんで!?」

「え、返事求めてたん? ただの報告かなって」

「返事なんていつでもほしいからね!?」

「ふーん」

「今日からすぐ通うはずだったんだけど~ちゃんと手続きできてなくって明日からなんだよ~。今クラスとかいろいろ聞いてきたとこ~。あ、オレ3組って言われた! 美鬼ちゃんは!?」

「あたし4組」

「うそぉ~~~~!?!?!?」


 しくしくしく……と男が泣いている。まるでアスリートかのような体格のいい男が。そのギャップに俺は口元が引きつった。


「おい、鬼村……こいつは」

「ん? んー……気にしないでいいよ♪ 教室行こ♪」

「やだやだせっかく会えたのに行かないでよぉ~!!」


 ぽろぽろと涙を零しながら男が鬼村の脚にしがみついた。が、鬼村は容赦なく男の頭を踏みつけて引き剥がそうとしている。


「もー鬱陶しいな。あんた何しに来たの?」

「だから美鬼ちゃんと同じ高校に入って~」

「高校生になりたかったの? 他にも高校はあるけど」

「違う違う! オレの大好きな美鬼ちゃんを奪おうとしてる野郎がここにいるって聞いたから探しにきたんだ」

「は?」

「美鬼ちゃんと幸せになる為に、


 あのモモタローとかいうやつを──倒す!!!」


 まるでヒーローの台詞のごとく、キラキラと目を輝かせてそいつは言った。


「………」


 なるほど鬼村でも閉口するような奴が登場したようだ、と俺はズキズキと痛む頭を抱えた──。


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