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鬼さんコチラ、桃なる方へ!  作者: 四辻十壱
第一章 鬼と桃

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第18話 連絡先交換しよ!

 山神と対峙し、そしてようやく安寧が訪れたその夜──。


 俺がシャワーから上がり使い古して固くなったタオルで頭を拭いていると、何やら玄関からガチャンという音が響いた。


「おじゃましまーす」

「は!? お前、どうやって入ってきた!?」


 鍵のかかっていた玄関を開けて当たり前のように入ってきた鬼村に、俺は開いた口がふさがらなかった。


「やっぱ同棲すんなら合鍵必須じゃん?」

「何勝手に作ってんだ!!」

「あ、てかセンセーお風呂上がりじゃ~ん。パンツしか穿いてないとかー……もしかしてあたしとヤル気満々?」

「ばっ……」


 馬鹿野郎、と怒声を浴びせようと思ったがすぐさま俺は寝室に置いてある部屋着を取りに行った。生徒の前で裸でいることの方が教師としてあるまじき行為だ。


「着なくてもいいのにぃ~夜這いに来たんだからぁ」

「何しに来てんだ、帰れ!!」

「センセー、いっつも怒ってると疲れちゃうよ」


 そう言ってずかずかと部屋に入ってきた鬼村は居間のテーブルの前へと座り込んだ。勝手にテレビを付け、手に持っていたコンビニ袋からペットボトルの炭酸飲料やお菓子の袋を取り出している。


「ほらほら、センセーも一緒に食べよ♪」

「食ったら帰れよ……」


 俺は項垂れつつも鬼村の向かい側に腰かけた。テーブルの上に置いてある煙草の箱に手を伸ばそうとして──やめる。


「あれ? 吸ってもいいよ?」

「吸わねぇよ」

「なんで?」

「生徒の前で煙草は吸わない」

「今まで普通に吸ってたじゃん」

「あれは三匹あいつら召喚ぶ為であって、緊急事態だったろ」

「ってかぁー、あたし生徒になったの失敗だったかも~。なんかずっと子ども扱いじゃん?」

「当たり前だ」

「あたしも先生になっておけば、もっといい感じの雰囲気になれたのかな~。あ、それか事務員さんとか?」

「どっちも向いてないだろ……」

「はー? そんなことないし。コピーとか取れるし。勉強は~……体育なら教えれんじゃん? 走ったりボールで遊んだりすればオッケーでしょ?」

「お前教師舐めてんだろ」


 俺は煙草の代わりに鬼村が開けたスナック菓子に手を伸ばした。うすしお味のコーンスナックだ。


「センセーさぁ~、あたしがなんでセンセのとこに来たか忘れてんじゃないの?」

「忘れてねぇって」

「ほんとかなー。あたし、センセーとセッ……」

「~~~~ってかお前!!」

「! ……何?」


 鬼村の口から出てくる言葉を遮る為に叫んだが、続きの言葉は浮かんでこない。きょとんとした顔で鬼村は俺を見つめていて、口元は飲み物でうっすら濡れていた。うちの古びた蛍光灯に照らされて、なまめかしく光っている。


「………」

「え~、センセーもしかして今あたしに見惚れてる?」

「……ちがっ! あ! そうだお前俺に嘘ついてたろ!?」

「え? 嘘?」


 俺はどうにか脳みその奥底から記憶を引っ張り出してきた。


「今日言ってたろ、妖怪は死なないとかって。でも初めて会った時にお前は俺に「鬼が殺し合ってたくさん死んだ」って言ってたろ! だから鬼を増やす為に俺とヤ……げほっごほ!」

「あー」

「とにかく、あれなんだったんだよ!? 鬼だって死なないんじゃねーのかよ!? だったら俺に突っかかってくる理由とか別に……」


 鬼村はスナック菓子を二、三個口の中に放り込んで咀嚼し飲み込むと唇を尖らせた。


「いやー、別に嘘じゃないし。確かに妖怪はみんな死なないけど、鬼はたくさん死んじゃったんだってば」

「はあ……?」

「今日言ったじゃん? 最古の鬼ってのは復活しないように桃太郎に封印されたって」

「あの、解体されて~ってやつか?」

「そ。最古の鬼ってのは鬼全体の存在に関わる鬼なの。簡単に言ったらボス? そのボスが封印されたらさぁ、あたしら他の鬼も復活できなくなっちゃったわけ。でもそれを知ったのは、随分経ってから。あたしが生まれる少し前の話みたい」

「じゃあ、なんだ? 鬼はその間自分たちが死ぬって思わずに……殺し合ったりしてたってのか?」


 困惑する。人間からすれば、殺せばそこで命は終わりだ。鬼たちがどんな感覚でいたのかまるでわからない。


「言ったじゃん、鬼ってのは自分の力が強いことが第一で、力を見せつけたり、殺したり、殺されたりが当たり前。死んでもそのうち元に戻るから、そうすればまた戦いの繰り返し。スポーツみたいなもん。ってまあ、そこまで馬鹿なのは娯楽も特になかった大昔の鬼たちだけだけど」

「……それでいつものように戻ってこれると思ったら、そのままってわけか?」

「そ。あれー、全然戻ってこないなー? って気づいた時には半分以上の鬼が消えてて、そのうち自分たちの命に終わりってのがあるってようやく気付いたってわけ」

「………」


 それを聞きながら、ふいに心臓が早打ち始める。

 俺は生唾を飲んだ後で言葉にした。


「……お前も、死ぬってことか?」


 妖怪が死なない、なんてのは今日知ったことだから別に今までと認識は変わらないはずだが……俺は自分でも嫌に焦っているのを感じた。


「うん、死ぬよ」

「………」

「まあ、大抵の傷はすぐ治るけどさ。でも治る見込みないくらいバラバラにされちゃったら、消えちゃうかな。センセーのあの刀で切らなくてもね」

「刀……」


 あの刀は重くて使うのは無理があったが……でも刃先が鬼村に当たれば、簡単に致命傷になりうるのかもしれない。そんなもんを俺はこいつのそばで使ってたのか。


「……あれは、もう使うことはないだろ。山上さんだって一応手は引いてくれたわけだ。もう俺を攻撃してくるような奴なんて──」

「他にも出てくるでしょ」


 プシュ、という音が響く。再度蓋を開けられた炭酸ジュースは小さな泡が僅かに上がってくるのみ。それを飲み干すと鬼村は「ぷはぁ」と息を吐いた。


「桃間の子孫を食べれば強くなるってゆー噂も多分まだまだ広まってる最中じゃん? それに山神様が言ってた最古の鬼の復活~ってゆーのも関係してくるだろうし」

「……俺はまだこれからも妖怪に狙われるってのか? 大体、最古の鬼ってのはどうやったら復活するんだよ」

「んもーだから言ったじゃん。頭、腕、足、胴体と切り分けられて封印されてるんだよ。それらを全部封印解いたら、バーン! だって」

「……そんな大事なことならそれこそ代々受け継ぐような──」


 受け継ぐような、ことだ。


 はっとして慌てて部屋の隅に置いていた祖父の日記を手に取る。日記についてはぱらぱらとめくる程度にしか見ていなかったが、先日見かけたページを探した。


「……これ」




『二月八日


 先週、もうそろそろ陽一に蔵を任せる時期かと思い、うちに代々伝わる箱のことを教えた。先によくよく言っておかねば、あいつのことだから雑に扱って開けてしまうかと思ったのだ。


 だが、あいつはいつものように真面目に取り合わなかった。それだけではなく、箱をどこかへやったというのだ。


 私は激怒し、陽一に何度もどこへやったか問いただしたが一向に口を割らん。だが、あの箱に何が入っていたかは私とて知らない。だから探しようがないのだ。陽一も中身を知らないという。


 あれがどこかで開いてしまったのかはわからないが……言い伝えでは天変地異が起こるらしい。だが、何の力もない私たちに一体何ができるというのか』




 ──全ての文字を目で追い、それから鬼村にノートを手渡した。鬼村も同様に日記の文章を眺めるとノートを閉じた。




「……もしかしてこの日記に書いてる『箱』って、封印してた鬼の体か?」

「かもね。一つはあの蔵で管理してたってことじゃないかなー」

「親父が若い頃にどっかやったってことかよ」

「でもなんでだろ、フツー中身が何なのかわかんないもんどっかやるとかしなくない? 超高値で売れるお宝が入ってます! ってわかってるならまだしもさぁ」

「お宝だと誤解してたんじゃねーの?」

「でもそれ開けた時点で気づくじゃん。もし中に足とか入ってたら『うわ、なんか気持ち悪いの入ってる~』って」

「……それもそうか」


 言われてみればその通りだ。高く売れると思って持ち出してみたが、中身が頭だか足だかとにかく鬼の体の一部だったものを見れば元の場所にこっそり戻しておこうとなるだろう。なのにどうして()()()()やってしまったというのか。


「そのうち親父にも聞かないとか」

「でもこれ見る限りさ~、箱の中身は代々伝わってないし鬼の封印とかも多分みんな知らなかったんじゃない?」

「知らないもん守ってたのかよ」

「鬼側は封印されてたこと知ってたのに、センセーのご先祖様たちは知らなかったんだぁ……なんかややこし~」

「……じいちゃんからの手紙だけじゃなくて、日記もよく見ないとだめだな」


 山神対策で三匹を出したりずっと気張ってたり、さらには仕事もしなきゃで桃間についての話はなかなか調べられずにいた。これからはもう少し真面目にやらないとか。


「あーもー頭こんがらがる~。あ! てか山神様とは和解できたわけだからセンセーもこの辺にいればきっとちょっとは守ってもらえるかもだし安心ってことで~……あたしそろそろバイトするから!」

「バイト!?」


 突然現実に引き戻され、俺は声が裏返った。鬼村は食べ終わったお菓子の袋を丁寧に折りたたんでゴミ箱に捨てている。


「ほら~おしゃれすんのにお金いるし~。手持ちだいぶ少なくなってきてるからバイトしないと厳しーっていうか~」

「鬼が何のバイトすんだよ……」

「てことでさ、連絡先交換しよ!」

「……は?」


 鬼村の手にはやたらと飾り付けられたスマホが握られている。


「ずっとスルーしてたけどよ……なんでお前スマホとか持ってんの?」

「今時妖怪もみんな持ってる持ってる~、はいこれあたしのID」


 そう言ってメッセージアプリの画面を見せてきた。確かにギャルっぽい爪をアピールしたアイコンの下にMIKIと名前が入っている。


「なんかあったらこれで連絡取ろ。あ、なんもなくても連絡してくれたら嬉しいけど~♪ ってかするね♡」

「しなくていいっての」


 少々躊躇いはあったものの、自分のスマホを出して鬼村のIDの検索した。確かにある。仕方なし、連絡先に追加してやった。


「わーい♪ センセーの連絡先ゲット~」

「変なことに使うなよ」

「変なことって?」

「他のクラスメイトに教えたりだよ」

「あーそっか、センセーは先生だから生徒とこーゆーのよくないんだぁ。ってことは生徒の中ではあたししか知らないってこと?」

「当たり前だろ」

「やーったー♡ みんなに自慢しちゃお♪」

「絶対すんな!!」

「いーじゃん別に~」

「いいわけ……うわっ!!」


 鬼村が突然飛びついてきて、手に持っていたスマホが滑り落ちる。床に押し倒されて俺は後頭部を思い切り打った。


「痛っ……」

「ねぇねぇ、センセまだここ治ってないの?」


 鬼村の手が俺の腰回りを撫でた。


「治ってねぇよ! つか触んな!」

「じゃあ一回くらい試してみようよ~。案外なんとかなったりして」

「なってたまるか!!」

「じゃあちゅーだけでもいいからぁ」

「ちょっ、と、待……!! つか! その服もう少しなんとかなんねーのか!!」


 離れていると気にならなかったが、密着されると鬼村が着ているTシャツの胸元が気になって仕方がない。俺は床に落ちていたジャージを掴んで鬼村に向かって叩き付けた。


「上に着てろ馬鹿!」

「うわっ、これセンセーが今日一日着てたジャージじゃん! 男くさっ!!」

「男なんだから当たり前だろーが!!」

「んーでもまあいっか~。……いっぱい吸っておこ」

「なんで吸うんだよ!?」






 鬼で、


 女子高生で、


 しかも俺のクラスの生徒に襲われてたまるか。


 そう思い俺はこいつとの攻防に躍起になり──







 テーブルの上で鬼村のスマホが鳴っていることなど気づきもしなかった。








 画面にメッセージが表示される。




『──()()ちゃん、オレもそっち行くことにしたから』


『──オレ以外の男と付き合ったりしちゃ絶対ダメだからね!』



『──狗谷木 天』

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