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鬼さんコチラ、桃なる方へ!  作者: 四辻十壱
第一章 鬼と桃

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第14話 先祖代々の

 突然(さび)が一切なくなり鋭い光を放つようになった刀を、ただ茫然と俺は見つめる。



 使え?


 これを?


 俺が?






「……いや無理だろ」

「ええ~~~」


 鬼村はつまらなさそうな声を上げる。


「刀なんて使ったことねーんだぞ。剣道やったこともねーし。だいたいこれ真剣だろ? ……持って帰るとしたら手続きとかめんどくせぇよ」



 刀の所持についての登録はそもそもどこに届け出るものなのか俺は知らない。警察か? いや別の管轄だったか?

 これを使えば俺はバトル漫画の主人公よろしくパワーアップするってんならまあ格好も付くのかもしれないけど、それでもそのバトル以外の日常で俺が面倒を感じるのなら、却下だ。こちとらただの高校教師だぞ。



「だいじょぶだってぇ、もらっとこ?」

「はあ? お前はまたそうやって無責任なことを──」

「ま、あたしに責任ってのは確かにないけど~……でも使うのが()()()なら何の問題もないんじゃん?」

「あっち?」



 鬼村はそう言うと自分のすぐ隣の空間に手を伸ばし、()()()()()()()()()動作をした。



「……はっ?」



 俺は素っ頓狂な声を上げてしまう。

 何故なら鬼村が今()()()()()からいつものあのでかい金棒を取り出したからだ。



「……何がどうなって……」

「あたしのこれだってこっちに持ってきちゃ大騒ぎじゃん? だからしまってんの。センセーのも一緒にしまってあげる♪」

「ええ……?」

反転世界あっちにいる時はイメージできればセンセーも自分で出せるから。ほいって!」

「またイメージって……三匹あいつら出した時とは違うだろ! そもそもこれは実体が──」

「あははは!! 実体~?」


 鬼村は笑った。

 それも腹を抱えて。

 俺は可笑しなことを言ってしまったのかと一瞬言葉に詰まった。


「センセぇー、()()って何? 触ることができれば実体? 触れなくても存在するものはこの世にたくさん()()のに?」

「い、や……だから……」

「そもそもそれだって、本当に形としてあるのかも謎じゃん。ほら、それって一体()でできてんの?」

「何、って……」



 もう一度刀と対峙する。


 木で出来た台座の上に置かれている、刀。


 鞘はなく、刃は剥き出しだ。



「……刀は確か、鋼で出来てんだったか」


 そう呟いて俺は刀の柄を握って持ち上げようとした。





 ──ガシッ



「!?」



 ふいに、俺の手首を誰かに掴まれた気がした。

 慌てて刀を手放して辺りを見回したが誰もいない。物陰はたくさんあるとはいえ小さい蔵の中だ、隠れられるようなところもそう無い。


「……なん、だったんだ……?」


 ドッドッと早まる心臓を押さえつつ、もう一度刀を握る。



 重い。



「何で出来てそう?」

「……わかんねぇよ」

「あははそっかー」

「てかかなり重いぞ。これ持って俺に何ができるってんだよ……」

「三匹戦わせて、自分もえいやーってやりゃいいじゃん」

「えいやーの一振りしてる間に後ろから殺されるぞきっと」


 ゆっくりと刀を自分の前で握ってみる。うん、だめだ重い。


「確かに最近運動全然してねぇけどこんなに筋力不足だとは……」

「センセーそれ早くここに入れちゃって~!」

「はいはい」



 俺は促されるまま鬼村が指差すよくわからん空間へ刀を入れた。「ぽいって入れていいから」の言葉通り放り込んだが──見えない暗闇の中にとっぷりと落ちていった。

 というか流石に刀の扱いが雑過ぎるだろ。これって桃間の家宝なんじゃねぇの?


 刀を手放したことで緊張感から解放された俺はついその場にしゃがみ込んだ。こんな疲れることもうたくさんだ。


「刀を手に入れて、じいちゃんの手紙と日記を手に入れて? あとは他に何か見といた方がいいもんとか……」

「ねーセンセ!」


 鬼村のやけに上機嫌な声が少し離れたところからする。


「なんだよ」

「この辺にある紙、面白いの書いてるよ~」

「面白い? 漫画とかか?」


 よっこいせと立ち上がり鬼村がいる方へと向かった。そして横から覗き込み見ている紙に書かれているものを読む。




「……これ、養育費の記録だな」

「だよね~」

「しかも、違う苗字がいくつも……」

「もしかしてこの辺のも全部そうだったりするー?」


 鬼村は同じ様に紐で留められている紙束を指差した。俺は嫌な予感がして中身をぱらぱらと確認する。確かに養育費の受け渡し記録だ。しかもこっちの記録と、そっちの記録で年代が違う。まさかとは思うが。


「……ばあちゃんに絶対入るなって言ってたのはこれが理由?」

「先祖代々の不倫事情とか知りたくないよね~」

「最近のが無いことを俺は祈ってるよ……」



 桃間の一族は()()()()()というのを、俺は今一度思い出して項垂れた。



   ***


「──持たせられるものがこれくらいしか無くてごめんねぇ」

「いやいや! 十分!」

「おばあさん、たくさんの桃ありがとうございます♪」



 紙袋いっぱいに詰められた桃を両手に下げると、俺と鬼村は桃間の家を後にした。


 結局今日あの蔵から持ち帰ったのは祖父の手紙といくつかの日記──あと刀だ。

 他にも何か持って帰って読めそうなものはないかと思ったが、積み上げられた書物の中のほとんどが『養育費の記録』やら『風俗店の利用記録』やら見たくもないものばかりで中身を確認するのを途中からやめてしまった。多分代々桃間の男たちは隠したいものをあの蔵にしまい続けてきたんだろう。……捨てりゃいいのにな。 



「そんなもん受け継いでも全然嬉しくもねぇ~」



 ひとまず蔵の中はまた今度確認しに来ることにした。


 ──来た時と同じくバスに乗り、電車に揺られれば、あっという間に我が家へと辿り着いた。気づけば夕刻で、そこまで長いこと出かけていたわけではなかったが体はどうも疲労を感じているようだ。多分、主に精神的な理由だとは思うが。


「鬼村ぁ、桃、半分持ってくか?」


 アパートの部屋の鍵をポケットの中でまさぐりながら聞く。


「え~いいよぉ、一緒に食べればいいじゃん」


 鬼村はそう言うと自分の服のポケットから何故か俺の部屋の鍵を取り出した。


「あっコラ、お前……!」

「センセーが鍵失くしちゃわないように持っててあげたんだもーん」

「失くさねぇよ!」

「あたしに取られてんじゃん」

「盗ってんじゃねぇよ!」


 俺の部屋の鍵を開けると、鬼村はあっという間に家主より先に入っていった。足が痛くなりそうなハイヒールが玄関に置かれているのを見ると、俺はため息を吐きたくなった。



「絶対に見慣れたくない、この光景」

「センセー、早く桃食べよー!」

「さっき食ってきただろうがよ……」



 綺麗に並べられたハイヒールの横で俺は自分の靴を脱いだ。

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