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鬼さんコチラ、桃なる方へ!  作者: 四辻十壱
第一章 鬼と桃

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第11話 デート&

 叉々山(ささやま)駅周辺には様々なファッションビルが立ち並んでいる。正直俺としてはどんな店があるとか何屋が入ってるとか知ったこっちゃない為どこに行こうと同じなのだが、今は鬼村の言うがままに駅からしばし歩いた場所にあるビルへと入った。


「ここ4階に靴屋入ってるからー、まず2階であたしの服見て、3階でアクセサリー見てから行こっか!」

「2階も3階も俺には関係にないんだが? つーか別にこんな洒落たところで買う必要全然ないんだけど……」

「いーじゃんいーじゃん。あ、見てこれ~! 可愛くない??」


 鬼村は2階に着くなり近くの店へと近寄り服を自分の体にあてがって見せた。


「可愛い可愛い、じゃ、俺は4階まで真っ直ぐ行くから」


 とそのまま次の階へ向かうエスカレーターへと乗ろうとしたが、許されなかった。鬼村の手が俺の服を掴んでいる。


「出不精なセンセーをここまで連れてきたのはだーれだ♪」

「………」

「あ、センセーあっち行ってみよ! あたし学校に着てくカーディガン欲しくってぇ~」



 ──結局フロアにある全ての服屋に連れていかれ、興味も無いファッションショーを見せられ、何故か荷物持ちをさせられている。……金は全て鬼村自身で支払ったのは救いだったが。


「……これでプレゼントまで強請ねだられたら最悪の日曜日になる」

「あ、センセー見て見て! この指輪めっちゃ可愛くない~!?」

「は? 指輪??」


 鬼村が立ち止まったのは3階のジュエリーショップだった。周りを見ればカップルばかりいて俺は少し肩身の狭い気持ちになる。


「あーこれ()()()()やつかぁ」

「そーゆう、って何だ?」


 がっかりしたような声が聞こえ、俺は鬼村の横から顔を出す。ケースの中に置かれていたのは金額が馬鹿に高い指輪ばかり。近くには“ブライダルジュエリー”と書かれたプレートが置かれている。これは婚約指輪とか結婚指輪ってやつか。


「まさかお前……欲しいとか言わないよな」


 ぎくりとして俺は隣の鬼村の表情を盗み見る。が、鬼村は真顔で腕を組み、陳列ケースを見ていた。


「いやー別にいらないかな」


 その返事で俺は思い返す。


 そうだ。こいつは彼女とかお嫁さんとか冗談で言うが、実際はただ『子作りがしたい』のであって……俺と結婚したいわけじゃない。あれ? てことはよくよく考えると俺ってヤリ捨てられる男になるのか……? それはみじめすぎるだろ……。



「……ん? センセーなんか顔死んでない?」

「ぜってー守ってやる、この童貞……」

「は? 急にどしたん?」


 おーい、と目の前で鬼村の手がひらひらと動く。動かなくなった俺の目を覚まさせたいらしい。今日はもうさっさと靴買って帰ろ──



 ドンッ



「わ、っとと……あ? なんだ?」


 後ろから足に何かがぶつかった。

 子どもか?

 そう思い振り返ろうとしたところで、


 甲高いあんずの声が響いた。



『──桃様! 敵襲ですわ!!』



 体が驚きと緊張で一瞬硬直した時、俺の足元にいた何かが俺にしがみつこうとした。



「……!!」


 鬼村の手がその何かに伸びていく。

 あのごてごてした付け爪が付いた右手が、魑魅魍魎の頭を掴み──潰した。



「せっかくのデートなのに、最悪すぎ」



 そう言うと鬼村の額からメキメキと角が生え始め、肌が赤く変色していく。そしてどこから出したのか金棒を片手に首を回した。俺はようやく動けるようになった体で体勢を整える。


「……!?」


 その時、今見えている景色がじわじわと変化していることに気が付いた。


「店が、消えてってる……?」


 目の前に広がっていたファッションビル内の店や、エスカレーター、自販機、果ては壁や床までじわじわと消えていき、赤黒い妙な異空間へと姿かたちを変えていっている。一体どういうことなのか。疑問に思いつつも煙草の煙でまろんすももを呼び出した。



「センセーもしかして()()()見えてんの~?」


 わらわらと湧き出した魑魅魍魎を、鬼村は金棒でフルスイングし一斉に殴り飛ばした。


「み、見えてる? どういうことだ?」

「前よりもっと向こう側がわかるようになってきてるってことじゃん? 先生の目が慣れてきてんのかもね」


 まろんが咆哮すると、俺達を中心に回りの敵は全て吹き飛んでいった。だが、次から次へと魑魅魍魎は湧き出てくる。さらには以前のように合体しようと一か所に集まり始めた。


『桃様、六時の方角より群れが迫ってきていますわ!』

「六時の方角、って、どっちだ……!?」


 こっちか、と背後を振り返り、まろんに指示を出す。すももには馬鹿でかくなりかけている敵に向かわせた。あんずも空中から強風を送り攻撃しているようだ。

 急に敵が増えたな……俺がお供を出せるようになったのがわかってか遠慮なくなったってことか?


「へへっ、でもこいつらがいるならもう安心──」


 そう言いかけた時だった。


 ザアアアッ……と、葉擦れの音が俺の耳を撫でた。

 すぐにわかった。

 あいつだ。


 ゆっくりこちらへ向かって歩いてくる。


 この場に不釣り合いに思う着物姿。


 木の枝が生えた腕をこちらに向かって伸ばすと


 その枝は勢いよく伸びて俺を攻撃しようとした。



「……!!!」


「センセ、伏せて!」


 鬼村の声が響き、俺は慌ててしゃがみこんだ。すると頭すれすれをあのでかい金棒が振り抜けていく。


「!?」


 枝はバキバキと音を立てて吹き飛んでいったが、大本の枝からまた新たな枝が伸び、攻撃を繰り返してくる。


「あたし、ってくる!」


 鬼村はそう言うと地面を一蹴りし、物凄い速さで着物姿の妖怪に近づいて行った。

 一番の脅威であろう敵を鬼村に相手してもらえるとわかり、俺はほっとする。とにかくあっちの方が付くまで俺は俺でどうにか生き延びればいいってわけだ。


「まあ、そうは言っても三匹いるわけだしどうにか……」


 まろんの咆哮、すももの切り裂く爪、あんずの空からの導きと後方支援。


 いける。

 大丈夫だ、非力な人間《俺》でもなんとかなる。



 このままいけば──





『桃様、上です!!』

「は? 上?」




 見れば、密集し黒い雲のようになった魑魅魍魎が降ってくる。

 まろんが咆哮するが、あの量じゃどうしようもない。

 あんずの風も全て吹き飛ばす程の力はない。

 俺に、どうしろってんだよ。







「センセぇーーーーーーー!!!!!」





 ドッ……と、車にでもぶつかられたような衝撃がした。



 一番近くにいたすももがすごい勢いで遠のいていく。




 あれ




 俺ぶっ飛んでるな……これ……。





 見えたのは




 俺の方へ向かって金棒を振り抜いた様子の、鬼村。







 何が起こったかはわかんねぇけど




 多分原因は、あいつだろ。





 俺の意識は徐々に遠のいていった。





 ***



 うっすらと目を開けると、見慣れた天井がそこにあった。

 煙草のせいで少し黄ばんだ白い天井。


 どうやら俺は、夢を見ていたらしい。

 大変な夢だった。

 朝から鬼村が押しかけてきて

 街まで行ってデートに連れ回され

 最後には妖怪に襲われ

 そして俺は何故か吹っ飛び……




「センセー起きた!!」




 鬼村の声が聞こえ、急に俺の視界には鬼村と三匹が入り込んで来た。



「な……んでお前ら」



 声を出すと、背中に痛みが走った。


「ごめんねぇー、センセーは絶対大丈夫って思ってたんだけど、なんかあたしのせいで吹っ飛んじゃって。頭とか体痛くない?」

『大丈夫ですわ桃様! 地面に落ちて骨折しないようアタクシが風を起こして受け止めましたから!』

『ご主人、どーんってすごい高さまで飛んだんだよ! まろんも飛んでみたかった!』

『わ、わたしがもっと敵を早くやっつけてたら……!』


 キンキンと響く鬼村と三匹の声。

 どうやら今日のことは全部夢ではなかったらしい。俺は背中の痛みに呻きながらも体を起こした。


「俺は、なんで吹っ飛んだんだ……?」

「いっぱい降ってきたからあたしがえーいって吹っ飛ばそうとしたら……センセーも巻き込んじゃったっぽくて、そんな感じ……?」

「背後から味方の俺を攻撃しやがって……」

「巻き込むつもりはなかったんだってばぁ~! ごめんね!」

「はあ……で、俺はどうやってここまで帰ってきたんだ」

「あたしが運んだよ。逃げるのは癪だったけど……センセーの体の方が大事だったし」


 こうやって運んだよ! と、鬼村は人一人抱えるような恰好をする。あれだ、お姫様抱っことかいうやつだ。俺には一生縁の無いものだと思っていたのに。


「……センセ、だいじょぶ?」

「………」


 はあー、と大きなため息を吐く。疲れをどっと感じて俺は三匹を()()した。するとふっと消えていき、三匹の煙が混ざり合い、空気中に溶けていった。


「大丈夫だ。死ぬかと思ったけど」

「し、死なないってば! あたしにはセンセー殺せないんだから!」

「はあ? いや、死にかけたろ……お前が気を付けてようと流石に鬼の力にただの人間の俺が耐えられるわけ──」

「大丈夫だって! センセーは桃太郎の子孫じゃん!?」

「……それ関係あんの?」

「ある!」


 力強く言い切る鬼村に、俺は閉口してしまった。


「……よくわかんねぇけど、わかったよ。でも今日は寝かせてくれ。かなり疲れた」

「そっか……あたし、夕飯作っておいてあげるね! もうこんな時間だし!」

「いやお前飯作ったことないって言ってたろ……」


 そう言ったものの、鬼村は俺を無視して勝手に冷蔵庫の中を見始めた。時計を確認すると、今は夕方五時。出かけていたのが昼頃だから……数時間は寝てた、のか?


「センセー、卵あるじゃん! あたし卵焼き作れるよ」

「はあ?」

「あ、お味噌汁も作れそ。ご飯は~……これってレンジで温めるやつだっけ。じゃあ炊かなくていっか」

「………」


 鬼村はそう言うとてきぱきと動き出す。三日前くらいには飯作ったことないとか言ってたくせに……料理の勉強でもし始めたのか。



「はー……鬼のくせに、きっと良い嫁さんになるよお前」

「え? 何ー?」


 うちのうるさい換気扇を点けた鬼村は、俺の声を聞き逃したようだった。俺は返事をせずに布団に再度寝転ぶ。


 今日は濃い一日だった。

 朝からこいつが来て

 三匹の召喚もして

 そいつらに名前をやることになって

 久々に街まで出て

 こいつに振り回されて

 それで……



 ………。




「……靴、買い忘れた」




 部屋の隅に置いてある鬼村の物しか入っていないショップバッグを見て、俺は唇を噛んだ。





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