その愛は、少し重い
読んでくれてありがとう。
この物語は「愛されたい」が強すぎると、どこまで人は壊れてしまうのか――
そんな“重い恋”をテーマに書いています。
かわいい、だけじゃ終わらない。
優しい、だけじゃ足りない。
心がきゅっと苦しくなる恋を、あなたに。
好き、という言葉は、きっと軽い。
口に出せば、すぐに空へ浮かんでしまうほどに。
だから真白は、それを形にしようとした。
⸻
「玲央くん」
名前を呼ばれるだけで、胸が少しだけ痛くなる。
放課後の教室。
夕日が差し込む窓辺で、真白は俺の手をそっと掴んだ。
いや、“掴む”というより――
縫いとめるように絡めてくる。
「好きだよ。玲央くんの全部が好き」
優しい声。
けれどその手は、逃がさないみたいに熱かった。
「俺も好きだよ」
答えた瞬間、真白は息を震わせて笑う。
安堵したようで、泣きそうで、嬉しくて、怖がっていて。
感情が溢れすぎると、人ってこんな顔になるんだな。
「良かった……また、取られちゃうかと思った」
その言葉に、心のどこかが静かにきしんだ。
「“また”って……」
真白は、うつむく。
長い髪が頬に落ちて、揺れた。
「ねぇ玲央くん。覚えてないの?」
一瞬の沈黙。
あぁ――覚えてる。
中学のとき。
俺に好意を寄せていた子がいて、真白はそれを知っていた。
何かを言ったわけじゃない。
ただ、ずっと俺の隣にいて、手を離さなかった。
気付いたときには、その子は遠くへ行っていた。
真白は言う。
「私、怖いの。玲央くんが、誰かに取られる未来が」
真白の手がぎゅっと強くなる。
爪が痛いくらい。
「だから……」
「私以外を見ないで」
優しい声なのに、まっすぐで、逃げ道がない。
息が詰まる――
でもなぜか、それが心地いい。
俺は、弱い。
“頼られる”と、断れない。
“必要とされる”と、手放せない。
それがわかっていて、真白は俺の名前を呼ぶ。
そのとき、ポケットのスマホが震えた。
《灯:今日会える?話したいことがあるの》
幼なじみ。
昔、よく一緒に帰っていた子。
あの日から距離を置いていたはずの子。
真白が画面を覗こうとする前に、俺はゆっくり伏せる。
嘘はついていない。
ただ、言わないだけ。
真白は小さな声で囁いた。
「玲央くんは、私と一緒にいてくれるよね?」
その声は、
祈りのようで、呪いのようだった。
「……もちろんだよ」
そう言うと、真白は安心したように目を細め、
俺の胸に顔を預けてきた。
抱きしめ返した腕の中で、真白は微かに笑っていた。
愛されることは、こんなに苦しいのに。
それでも、離れられない。
俺もまた、真白に依存しているのかもしれない。
そう思った瞬間、
教室の時計が一度だけ、カチリと鳴った。
それはまるで、何かが始まる合図のように。
読んでくれて、ありがとう。
この第1話は“始まり”にすぎません。
愛は優しいだけじゃない。
温度が強すぎれば、相手を焼いてしまうこともある。
真白、玲央、灯。
彼らの心はまだ崩れていない。
でももう、きっと戻れない。
次話から、ゆっくりと“愛が狂い始めます”。




